169 取引を阻止しろ!
謎の酔っぱらい男は私達に酒代を無心してきた。
「ユカ様、このような男の相手をする必要はござませんわ! どうせ大したことない情報を酒代欲しさにせびってきただけですわ」
「よう、お嬢ちゃんー、その言い方はひどくねえかー?」
私が見た感じ、この男はかなりの強者に見える。
へらへらしている奴が実は強い、これはよく色々な王道の物語で見かけるパターンだ。
だが、この男が何者なのか、それはまだ話を聞いてからの判断でいいだろう。
「一杯だけでしたら」
「おう、助かるよー。兄ちゃん良いやつだなー、一緒に乾杯しようぜー」
「……乾杯」
酔っぱらい男は私たちの奢った酒を一瞬で飲み干すとニヤニヤしながら話しかけてきた。
「流石だなー、救世主サマ」
「お前、何故それを?」
「おいおい、初対面でお前呼ばわりはねーだろ、オレは情報屋だ。この街の外の事もよく知っているぜー」
そう言いながら男はマイルさんを指さしてきた。
「姉ちゃん。アンタ、ディスタンス商会のやつだろー」
「キサマ、何故それを」
「だから俺は情報屋だってー、それくらいお見通しよー」
やはりこの男、只者ではなさそうだ。
しかし私が気になったのはこの男の持っている大きな細長い布で包んだ棒のような物だった
「貴方、足元のそれは?」
「ああ、これは俺の商売道具よー、最近は使えてないんでこうやってしまってるけどなー」
その直後酔っぱらい男の目がものすごく鋭い目つきになった。
「それで、アンタら、カイリの情報を知りたいんだろー。だったら俺の依頼を引き受けてくれないかー?」
「いったい何をしろと?」
「ポディション商会って知ってるかー?」
「!?」
マイルさんの顔色が変わった。
「アンタ……ポディション商会に何をするっての?」
「あいつ等、どうやら大物貴族との取引があってー、その荷物の受け渡しで明日の夜に船に乗せるらしい。その取引をぶっ潰してほしい!」
「穏やかな話じゃないねぇ」
「オレは情報を持っている、どうやらその取引相手というのがー、シャトー侯爵夫人らしいー」
ここで黙っていたホームがテーブルを叩いた。
「伯母が、いったい何を取引しているというんですか……まさか!?」
「ほう、流石は名君ゴーティ伯爵の息子様だなー、取引荷物はご想像通りのモノだと思うぜー」
「……ユカ様。この話、受けましょう!」
ホームの目に怒りが燃えていた。
「やるねぇ。やっぱりアンタらなら引き受けてくれると思ったぜー。この取引をぶっ潰せたらカイリの事、教えてやるよー」
「わかりました!」
男は港の見取り図を私達に渡した。
「船はミクニ行だ、ここは自由都市なので荷物の関税とかがない、その為積み荷のチェックはほぼ無いといえる。一度ミクニに運ばれたが最後だー」
「わかりました! 絶対に取引を阻止して見せます!!」
「頼りにしてるぜー。オレはこの酒場にいるからなー」
私達はいったん宿に戻り、港のポディション商会とシャトー侯爵夫人の取引を阻止する作戦を考える為に話し合った。
「ユカ様、あの情報屋の言っていた事を考えると、ポディション商会とシャトー侯爵夫人は、旧ヘクタール領から誘拐した人達を奴隷としてミクニに売っているというのが大まかな話になるでしょう」
「私、あの伯母様の事は以前から虫が好きませんでしたが、この様な事をしているなんて許せませんわ!」
「船の取引はどうやら夜の間にやるみたいだねぇ、これはかなりの用心棒とかがついてると見た方が良いよぉ」
「ひょっとして売り物の中には獣人や動物たちもいるかもしれん、動物がいたなら俺が暴れさせる事も可能だ」
私達は明日到着するという船の取引を阻止する為、明日は一日作戦の準備をする事にした。
エリアはシートとシーツの世話をしてくれている、彼ら二匹も明日は一緒に行動してもらう事になるだろう。
作戦決行は明日の夕方、場所は港の埠頭だ!