168 カイリという男
北西の村の村人たちに歓迎してもらった私達は夕食で貴族焼きをご馳走になった。
この貴族焼き、豚の内臓の中に詰め込んだ穀物が良い感じに水分を含み、しみ込んだスープが麦や雑穀をふっくらとさせてこれ一つでお腹いっぱいになるような物だった。
外側がパリッと焼かれた豚肉は脂身の甘さと肉の美味さ、そして塩を使った適度な辛さがマッチしていてそれを外から藁で蒸し焼きにしている。
まあ一種のバナナの葉の包み焼きや塩釜焼きみたいなものなので中までじっくり火の通った火加減が丁度良い。
「これは美味しいですわ!」
「美味しい……」
「うん、これはこれで美味しいけどぉ、これにもうちょっとスパイス使えると、もっと村の名物料理として観光客に出せるかなぁ、ってとこね」
みんなの評判もそこそこいいみたいだ。
この北東の村は悪代官のインチが税金を高くしていなかったので、まだ貯えがあるからこれくらいの料理は普通に出せるらしい。
お腹がいっぱいになった私達は寝室で明日以降の話をした。
「とにかく船を手に入れる、それが最優先にするべき事なんだ」
「僕が出す形ですからお金に関しては問題ないかと」
「でもここにいるのは……船に関しては素人ばかりではないのか?」
「そーねぇ、腕のいい船乗りが必要よねぇ」
そうなのだ、ここにいる中で船を操縦できる人は誰もいない、まずはそれを解決しなくては。
「カイリくらいの腕が無きゃ船を自在に使えないわねぇ」
「カイリ……それは誰ですか?」
「おや、みんなはカイリを知らないのかい、カイリってのはねぇ、世界一の大海賊と呼ばれている男だよ」
海賊、そりゃあ船のエキスパートだろう。
だが、そのカイリが善人とは限らない、むしろ極悪人の大海賊なら一筋縄でいく相手ではあるまい。
「大海賊カイリ、僕も名前くらいは聞いた事があります」
「おや、レジデンス領は海ってあったっけ?」
「いいえ、でもたまに旅人が噂をするくらいですから、幾つもの海をまたにかける大海賊だとか、商人を皆殺しにしたとか」
商人を皆殺し! それマジでヤバい相手じゃないのか!?
だが、そういう相手との交渉が出来れば今後どんな海でも乗り越えられるかもしれない。
「ユカ様……どうしましたか?」
「そうだね、とにかく自由都市に行こう、話はそれからだ」
「確かに、自由都市ならカイリの情報を聞けるかもしれないねぇ」
私達は次の日、自由都市を目指して北西の村を旅立った。
数日間の間、道中ではモンスターに全く遭遇しなかった。
どうやらモンスター達は聖狼族のシートとシーツの臭いに怯えて出てこなかったらしい。
その代わり盗賊が出てきたが、どれもすぐに返り討ちになり、一目散に逃げだしていた。
◇
「ここが自由都市『リバテア』か」
「ここに来るのは久々だねぇ」
「まずは宿を探しましょう!」
「私もうクタクタですわ、お風呂入りたいですの」
私達はまず宿を探し、一等客室を借りた。
一等客室はいわばスイートルームである。
その作りは豪華で広く、全員が入れる程の場所だった。
なお、シートとシーツは本来馬や動物は外にという事だったが、あまりの大きさと他の人の動物がビックリするという事で、一等客室のバルコニーの所にいる事になった。
「さて、カイリという人を探そう」
私達は宿に荷物を置くと街でカイリについて調べた。
どうやらカイリの情報をまとめると
・この街にいる。
・かなり大きな船を所有している。
・皆殺しにされたのは奴隷商人であって奴隷達は無傷で助けられた。
・かなり若い男。
・最近は船を出せていない。
こんな情報だった。
情報収集に疲れた私達は酒場で夕食をとる事にした。
そこに酒瓶を抱えた若い無精ひげの酔っぱらい男が声をかけてきた。
「よォ、おめえらー、カイリについて聞きまわってるんだってー? オレが良い情報教えてやるぜー」
「本当ですか!?」
「ああ、ただしここの酒代出してくれたらなー、今スッカラカンなんだわー」
……この男、本当に信用できるのか?