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167 北西の村で

 私達は翌日、フランベルジュ領の領民達に見送られ、自由都市を目指す旅に出た。


『自由都市』


 その名前は現皇帝が付けた名前だ。

 この街では商売をするのも国外に出るのもすべて自由、身分も関係なく仕事にも就ける。

 つまりは実力さえあれば誰でもなり上がれるチャンスのある都市なので自由都市と呼ばれているのだ。

 だが、場所が場所だけに犯罪の温床にもなっているとも聞く場所だ。


 私達はその自由都市で船を買おうと考えている。

 船の資金はゴーティ伯爵宛かフランベルジュ領の収入からの分割払いで可能だろう。

 本音を言えば何か商売を始めてその稼いだ金で買う事が出来れば、誰にも気兼ねが無く船を自由に使えるのだが、今は魔軍の侵攻の救援の為なので時間が無い。


 一刻も早く船を手に入れる方法を考えないと魔軍の侵攻で手遅れになってしまうのだ。

 私達はまず北西の村に向かった。


 北西の村、ここは以前私が悪代官のインチに騙されて火踊りの刑にされた場所だ。

 だが、あの事件があったので私の救世主としての噂が広まったともいえる。


「皆さん、お久しぶりです」

「救世主様、お越しいただきましてありがとうございます!!」


 シートとシーツは村の子供達を背中に乗せてあげて楽しんでいる。

 どうやら村の番犬をしていた間に子供達の人気者になっていたようだ。


「信じられんな」

「フロアさん、信じられないとは?」

「聖狼族は気位が高く、背中に誰かを乗せる等するはずがない。だがあの二匹は嫌がるどころか喜んで子供達を背中に乗せている」

「そうなんですね、やはり生まれた時からボク達人間と一緒にいるからかな」

「そうかもしれんな、二匹は俺たちの大事な仲間だ」


 シートとシーツは二匹とももうすっかり大きくなった、私は今晩はこの村に泊まる事になったので、ワープ床を作り、冒険者ギルドの町にシートとシーツを連れてワープした。



「ターナさん、お久しぶりです」

「お、ユカじゃないか! 頑張ってるって聞いたよ!」

「実は、お願いがありまして」

「わかってるよ、その子達も大きくなったからね」


 ターナさんは私が何故ここに来たのかをすぐに理解していた。


「ずいぶん大きくなったね! よし、ユカ、アンタが今持ってるのを渡してくれる?」

「はい、お願いします」


 私は二匹の前脚に装備していたが小さくなったゾルマニウムクローをターナさんに渡した。


「ちょっと今のサイズ、寸法測るから協力してね!」

「オンッ!」

「キャンッ!」


 二匹とも大人しくいう事を聞いてくれている。

 聖狼族ってのは本当に頭のいい獣なのだなと私は感心した。


 今度は一時間では済まず二時間くらいかかっていたが、ターナさんは手早く二匹の装備を直していた。


「完成だよ、前よりもバネとか強くしてサイズも大きくしているからね」

「アオーーーン!!」

「キャオォーン!!!」


 新しいゾルマニウムクローを装備してもらって二匹とも嬉しそうだった。

 これでシートとシーツも一人前以上に戦う事が出来るのだ。


「ユカ、アンタの剣もいつか困った時は持ってきなよ。あたしが直してやるからね!」

「ターナさん、ありがとうございます!」



 二匹の装備を作り直してもらった私達は再びワープ床で北西の村に戻った。

 私達の戻った時はもうすでに夕食の準備中だった。


「ユカ様。もう食事の準備は出来ていますよ」

「村の人達がユカの為にって最高の料理を用意してくれてるよぉ」


 村の人達が用意してくれたのは……鉄板の上に置かれた『貴族焼き』だった。

 新鮮な豚の内臓に穀物を詰め込み、大量の藁で包んだ豚を灼熱の鉄板で焼いた料理だ。


 私はそれを見て苦笑いするしかなかった。

 だが、味はとても美味しかったので多分この村の名物料理になるんだろうなと私は感心していた。


 さあ、明日は西を目指すぞ!

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