166 自由都市を目指せ!
関所の兵士達は深々とホームに頭を下げていた。
「申し訳ございません、こちらはお返しいたします!」
兵士は金貨の入った袋をホームにそのまま返そうとした。
「何故これを?」
「自分らは関所の兵士であることをいいことにここを通る人に法外な通行料を取っておりました! これは許される事ではありません」
兵士達は処罰されることを覚悟で頭を下げてホームに跪いていた。
この賄賂を受け取った事を罪だと認識しているのだろう。
「では……フランベルジュ領、領主代行として、略式ながら判決を下す!」
ホームは一体どうするのだろうか……。
「お前達は許されない事をした、だがもう同じ事は繰り返すまい。お前達のする償いは……そこにある金貨を全部フランベルジュ領で使い切れ。それがお前達に下す判決だ」
「!!??」
兵士達は唖然としている。普通考えてこんな判決が出るわけがない、死刑や投獄が当然だと覚悟していたのだろう。
だが、ホームの判断は正しい。
今復興中のフランベルジュ領にはまだ産業や資金が足りない。
その資金を合法的に調達させる方法として、今ここにある金貨を使わせる事で地域活性化を狙っているのだろう。
「全部使い切るんだぞ、残す事は許さん」
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
兵士達は涙を流してホームに何度も頭を下げ続けた。
「それよりも頼みたい事がある」
「はいっ! 自分達の出来る事でしたらなんでもっ!!」
「南方から魔軍が迫ってきている、その難民が近くの町であふれそうなんだ。その人達をここからフランベルジュ領に無条件で通してくれ」
「承知致しました!」
「頼んだよ」
これで避難民の移動はスムーズに済みそうだ。
私達は一度みんなのいる仮執政室の所に戻ろう。
「ルーム、急いで戻ろう!」
「了解です!」
◇
私達は収穫祭の真っただ中の会場に戻ってきた。
「ユカ様、お兄様、どうかなされましたか?」
「ルーム、みんなを呼んでくれ」
「承知致しましたわっ」
ルームはエリア、マイルさん、フロアさん、シートとシーツを私の所に集めてくれた。
「ユカ……何かあったの?」
「何だかあまり良い話じゃなさそうだねぇ」
「……とりあえず言ってくれ」
みんなは私が収穫祭のお祭り気分ではない顔だとすぐに気が付いたようだった。
「実は……さっきホームと冒険者ギルドに行ってきたんだ。それで困った話を聞いた」
私はみんなに避難民の事、魔軍が南方から進軍してきている事、橋が落とされ国境警備隊が孤立している事を伝えた。
「それは一大事だねぇ、でも……自由都市かぁ、あそこねぇ」
どうも次の目的地が自由都市だと聞いてマイルさんは渋った顔を見せていた。
「マイルさん、何かあったんですか?」
「い、いやねぇ、あそこはあーしの家と商会が元々あった場所なんだ」
マイルさんのディスタンス商会はポディション商会に乗っ取られて潰されたと聞いていたが、それだとマイルさんが渋るもの仕方がない。
「マイルさん……」
「大丈夫だよぉ、あーしの事は気にしないで。ほら、それじゃあ早く出発するよ」
「わかりました、旅の準備があるので今日は早めに休みましょう」
私達は書記官のアマニュエさんにしばらく旅に出る事を伝えた。
「ホーム様、承知致しました。貴方様がいない間は不肖この私めが領の内政をお引き受け致します」
「アマニュエ、父上の書記官を務めた貴方でしたら安心してお願い出来ます。是非、このフランベルジュ領を守ってください」
「勿体ないお言葉です。ホーム様、救世主様、皆様お気をつけてください」
私達はレジデンス領の伯爵の書記官だったアマニュエさんに内政を任せ、西の自由都市を目指す事になった。
早くたどり着いて自由都市で船を手に入れなくては。