16 自宅から徒歩0分の遺跡探索(マジ)
酒場の情報収集は数時間にわたった。
この中で気になったのは隣の領主ヘクタール男爵の悪辣ぶりだった。
ハンイバルさんはヘクタール男爵と盗賊がグルになっていると睨んでいるが、証拠がない上、関所を通れないので盗賊退治ができないと言っていた。
それ以外にもハンイバルさんにはいろいろな話を聞いた。
冒険者の心得、元軍人としての父さんとの関係、そして、――忘れられた遺跡――の話である。
――忘れられた遺跡――誰が作ったのか、何のための場所なのか、誰も知らない所である。
噂では湖を割り出現する空にそびえる鉄の魔神が眠っているとか、天空の城へ導く空飛ぶ石が眠っているとか、遺跡そのものが古代人の文明の英知を結集した世界を滅ぼす伝説の巨神になるとか、荒唐無稽な噂ばかりが飛び交う場所である。
それくらい誰もその遺跡の内部については未確認の場所だったのだ。
「ユカ、お前の持っているオーガーの角と爪、俺に貸してくれるか?」
「いいですよ、どうするんですか?」
ハンイバルさんはオーガーの角と爪を受け取ると、自分の持ち物から一振りの剣を取り出した。
「ユカ、これはオーガーの角と引き換えだ、ぜひ受け取ってくれ」
「これは……こんな立派な剣ボク受け取れません!」
「これは忘れられた遺跡で手に入れた剣だ、俺のカンでこれはユカの持つべき物だと感じた、ぜひ持って行ってくれ!」
「なおさらそんな大事な物を受け取るわけには……ダメですか?」
この手の人物は得てして頑固と相場が決まっている。
これは受け取るまで諦めないだろう。
私は遺跡の剣を受け取る事になった。
「この剣を持つ者こそが古代の英知を開く事ができる、遺跡で書かれていた言葉だ。俺は露払いはした、しかし今の俺達には遺跡の奥には行けない、俺のカンでユカならできると信じている。遺跡の地図も渡そう、是非、俺達のできなかった遺跡の踏破を頼む!」
そして、私は遺跡の地図と剣と古代語を翻訳した書物を受け取り、忘れられた遺跡に向かう事になった。
ハンイバルさんは冒険者ギルドにはこの事は伝えなかった。
誰も私以外にはこの遺跡を攻略できないとわかっていたからである。
私は一旦村に戻る事にした。
◇
「母さん、ボク少しだけ遠くに行ってくるよ」
「ユカ、あなた強くなったわねっ、わかったわ。でも無理しないでね、死ぬのだけは絶対に許しませんからねっ! 行ってらっしゃい」
私は数日分の食事を持ち、遺跡の剣を装備して忘れられた遺跡に向かった。
道中のモンスターは、冒険野郎Aチームのミリーさんが調合したオーガーの爪から作った臭い袋のおかげで全く遭遇しなかった。
しかしオーガーの爪の垢から作った臭い袋はやはり凄い臭いを放っている(笑)
そして私は二日後忘れられた遺跡の入り口にたどり着いた。
遺跡の入り口にはホールがあり、その中心には丸く光る床が存在した。
ゲームクリエイターの長年のカンでこれはHPMPフル回復かセーブポイント、しかしこの世界にセーブ機能は無さそうなのでこれは除外、またはワープポイントと考えた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず!」
私は躊躇せず光る床に踏み込んだ……すると、一瞬光って、何も起きなかった。
これで拍子抜けするのは素人だ。
これは確実に意味のある事だ。
『ここでは何も起きない』
という事は、これはワープゾーンの可能性が高い。
特にタチの悪いワープしまくりで、一つ間違えると入口に返されてしまうタイプのスタート地点だろう。
それを証明する為に私はある事を試してみた。
「ハーーーー! 何もない遺跡の床を、ワープ床にチェンジ!」
ワープ床の近くに同じ形の物が形成された。
MP 5/80
おかしい、マップメイクの能力で作れる床は今のレベルだとmp10×6の消費ではないのか? 何故75もmpを消費してしまうのか? それも1m四方足らずの小さな床で持てるmpのほとんどを使ってしまったのだ。これは考え方を変える必要があるだろう。
そして、私はある事を考えた、ひょっとしてこのワープ床を家のすぐそばに作ればこの遺跡まで日帰りで行けるのではないのだろうか?
そう考えた私は遺跡を後にし、村に帰る事にした。
◇
村に帰った私は自分の部屋に遺跡のワープゾーンを作った。
そこから試しに遺跡に行けるか試してみた……。
私は自分の部屋のワープ床に踏み込んだ。
そして、床が少し光ったかと思ったら……見覚えのある遺跡の入り口に立っていた。




