165 南方の異変
そして収穫祭当日になった。
この収穫祭は子供達も大勢参加できるように午前中に挨拶をしてからスタートしてみんなで盛り上がった。
しかし、まさか私達の戦いが演劇になるとは思わなかった。
まあ出来は……次回に期待といったところか。
タイトルが『救世主と死者の王』ちょっと盛りすぎじゃないのかな?
私の役は子供がやっていた、よく突貫でそれだけセリフを覚えられたもんだと感心した。
まあ収穫祭のメインはむしろ食事にある。
リットル村の芋煮にホーム自ら作る騎士団のシチュー、そして貴族焼き……貴族焼きとは大きな鉄板で新鮮な家畜に穀物を詰め込んで藁のマントに包んで蒸し焼きにした料理である。
私は過去の忌まわしい事を食につなげる人達のバイタリティにビックリした。
そして……肉をパンで挟んだ料理、名前が『ヘクタール』ってのも苦笑いだ。
私が日本にいた時これはサンドイッチと言われていた、サンドイッチの由来はトランプをしながら片手で食べられる食事をサンドイッチ伯爵という人物が作らせたのが由来だと聞く。
そう考えると拷問しながら片手で食べれるように作らせたヘクタールというのも、やっているカテゴリーは同じだと言えるだろう。
それ以外にも屋台が出せるくらいに店が出ていたのも良かったと思う。
ここはこれから活性化して、来年はもっと盛大な収穫祭が出来るようになるだろう。
「ホーム、それじゃあ一旦冒険者ギルドに行くよ」
「ユカ様、了解です」
私達はホームの部屋になっている宿舎の仮執政室にワープ床を作り冒険者ギルドに戻った。
「お久しぶりです」
「ユカさん! よく戻ってきてくれました!! 今大変な事になっているんですっ!」
「大変というと?」
「魔軍からの避難民がどんどん増えているんです、このままではこの町も人が住める場所がパンクしてしまいますっ!!!」
どうやら私達がヘクタール討伐している間に、魔軍の被害はどんどん広がっていたらしい。
「帝国騎士団が数日前に来て南方に向かいましたが、悪い噂では南方の渓谷の橋が魔軍に落とされてしまい、国境警備隊が孤立しているとの事なのです!」
国境警備隊というと、父さんと兄さんがいる場所だ!
それに応援に向かったハンイバルさん達もいるはず。
「どうすればいいんだ?」
「ユカさん、それが……南方の渓谷の辺りは谷底が深く、大軍で行くのは自殺行為ともいえるんです」
八方ふさがりではないか、これは収穫祭を楽しむ雰囲気どころではないぞ。
「どうにか南東に向かう方法はありませんか?」
「遠回りになりますが……船を使うのが一番良いかと思います」
「船に乗るにはどこにいけばいいの?」
「船は……旧ヘクタール領の西方、自由都市の港に行けばあるはずです」
「ホーム、次の目的地は自由都市だ、みんなと急いで出かけよう!」
「了解です! それと、避難民は我がフランベルジュ領で引き受けます」
ホームは領主代行として避難民を優先的にフランベルジュ領に通すように冒険者ギルドに伝えた。
「救世主様……お久しぶりです」
「三人とも、元気だった?」
「はい、こちらで皆さんに良くしてもらってます。今は私達も避難民の人達を助けるお手伝いをさせていただいています」
どうやらヘクタールのせいで親友を失った三人の元メイドは、冒険者ギルドで看板娘になっているようだ。
心の傷は少しずつ癒えているらしい。
「みんな、フランベルジュ領では今収穫祭をやっているんだ。今すぐは無理でも来年でも見に来てくれるかな?」
「はい、来年でしたらマーシャのお墓参りも兼ねて寄らせてもらいます」
「そうだね。わかった、無理しないでね」
冒険者ギルドで現状が芳しくない事を知った私達はワープ床で戻る前に関所に早馬を走らせた。
「これは! 領主代行様! お久しぶりですっ」
私達はレジデンス領とフランベルジュ領の関所に立ち寄った。