164 それぞれが今できる事
ホームの挨拶は立派なものだった。
彼は若くして責任者の立場が分かっているようだ、流石はあのゴーティ伯爵の息子だと言えよう。
「お兄様、素晴らしかったですわっ!」
「ルーム、ありがとう。戻ってたんだね」
「ユカ様に頼まれて魔法使っていましたけど、まさかあんな方法があるとはビックリですわ」
私がルームに頼んだのは頑丈に作った箱や重い建材をエアリアルバーストの魔法で吹き飛ばす事だ。
頑丈な箱に入った物はエアリアルバーストでも箱は壊れない。
その箱の中をフワフワの枯草やおがくずを入れた袋で緩衝材を使えば中身も動かない。
エアリアルバーストで吹き飛ばした箱や建材を、流れのある川に流せば反対側でフロアさんの使う人間以上の動物の力で拾ってもらってから中身の開梱が可能というわけだ。
私はこの方法で本来一週間以上かかる作業を二日で全部終わらせる事が出来たのだ。
ワープ床を使う方法もあるが、その為には座標をもう一度マーカーチェックやり直さないといけないのと、ワープ床に物を持って入らないといけないので反対に効率が悪い。
それなので今回はこの方法を使ったわけだ。
開梱した後の建材や食料、資材は領民の人達がみんなで力を合わせて作業中だ。
「皆さん、お食事が出来ましたよー」
村長さんの奥さんは大鍋でリットル村の郷土料理の芋煮をみんなに振舞っていた。
現在フランベルジュ領の食料はレジデンス領から運搬している。
シートとシーツの二匹は冒険者ギルドからの商隊の番犬として今は動いてくれている。
今や盗賊どころかゴブリンやオーガーすら、二匹を恐れて襲ってこないのだ。
この数週間で彼らの大きさは大型犬から成獣の熊くらいの大きさになっていた。
この大きさならどう考えてもゴブリンどころかオーガーすら怖がるのも納得だ。
ゾルマニウムの爪がそろそろサイズ的に合わなくなってきているので、二匹とも今は装備を外している。
そんな彼らのおかげで、今はフランベルジュ領では飢餓で苦しむ人は誰もいない。
そしてそんなホームや私達の姿は、旧ヘクタール領民達に新たな動きを与えた。
いくら頑張っても搾取されるだけで、諦めて無気力だった人達に新たな活力を与えたのである。
救世主と新しい領主様が自分達の為にこの土地を救ってくれた、その恩返しの為に出来る事をしたい。
彼らはそういった気持ちなのだろう。
誰一人として今の作業に不満を言っている人はいなかった。
子供達は子供達で小さな飾りつけや人から人への荷物の受け渡し等を手伝っていた。
そして、その人達の元気の源はエリアが長時間にわたりレザレクションを使ってくれているからでもある。
エリアのレザレクションは効果を弱めつつ全体化する事により、そのスキルは持続可能な疲労を減らす効果があるのだ。
これならエリア自体の魔力の消費も抑えられる、普段のスキルと比べると魔力消費量は直列つなぎと並列つなぎの違いみたいなものだ。
この様に全員が全員出来る事をした事で、本来レジデンス領では一週間以上かかった収穫祭の準備がたったの三日で全部完了したのである。
しかし……会場の真ん中の灼熱の鉄板はどうにかしてくれと言いたかったが、貴族だけが食べていた真ん中の鉄板で料理を食べたいという意見が多数だったので採用された。
また私はこの真ん中に立って無傷の救世主の演出でもすればいいのか??
……まあ望まれたらやるくらいで、自分からわざわざ演出する事はないな。
だが、この鉄板を使って処刑で人間を焼くわけじゃないので、鉄板は格子状に並べられてて間を通れるバーベキュースタイルになった。
まあこれならこれで良いかな。
よし、ようやく準備が終わった。
「ユカ様。準備できましたね」
「そうだね、ここにいるみんなが頑張ったおかげだよ」
さあ、収穫祭のスタートだ!