163 新領主代行による挨拶
「どうぞ皆さんで分けて食べてください」
「あ、ありがとうございます」
リットル村の新名物カンポ饅頭、かつて私達が退治した悪代官で木と同化させられた奴の名前である。
その悪代官カンポが同化した木がどうやら観光名所になっているようなのだ。
まあ村人を散々苦しめたんだ、観光資源になって村人に還元してもらいましょう。
「ユカ様、これ美味しいですよ」
「そうだね、でも今は……」
ホームは饅頭の形を見ずにそのまま食べていた。
まあ見た目を気にしなければ問題無いか。
「じゃあ貰いますね」
「どうぞどうぞ、まだまだありますから」
いや、まだまだはご遠慮願いたい……。
「でも村は食べ物とか大丈夫なんですか?」
「はい、カンポの私財を売った金で今年は十分冬まで過ごせそうです。それに今は観光客がお金を持ってきてくれますから」
村長の奥さんはニッコリ笑っていた、こういう笑顔が見られるのが人助けの醍醐味だと私は思う。
ゲームを作っていてもやはりボスを倒して解放した村に行きたくなる人は多いはず。
しかし杜撰なゲームだとこのフラグ処理を怠り、ボスが倒されても○○を倒してくださいと言い続ける村人が出てきたり、酷い物になるとボスを倒した後村人と話すとフリーズなんて恐ろしいデバッグ状態もかなり見かける物だった。
でもやはりみんな勧善懲悪に昔から親しんでいるのだろう。
悪逆非道の支配者からの解放後の話はみんなが見たくなるものである。
「それは良かったです。村も一安心ですね」
「それが、それはそれで困った事が一つありまして……」
「どうしたんですか?」
「レジデンス領との関所が通行できるようになった途端、避難民が殺到してきたのです」
そういえばそうだ!
あの町では南東の方にいる魔軍の軍勢からの避難民を冒険者ギルドで匿っていた形だった。
だがヘクタール領が平和になったので、ここに来た方が安全と見たわけか。
「ホーム、収穫祭が終わったら一旦冒険者ギルドに戻ろう!」
「了解です!」
ここで主催がいきなりいなくなると流石に収穫祭のテンションが下がる。
そう考えると初日だけでも主催のホームがいないと形にならない。
だが収穫祭は数日間続くので、その間ならワープ床を使えばどうとでも移動して作戦を建てる事が可能だ。
「奥さん、避難民の事は僕に任せてください」
「ホーム様、ありがとうございます!」
「ユカ様、ちょっとピッチ上げますよ」
「わかった、じゃあアレ使うか!」
私は広い道に向かいマップチェンジを使った。
「ここの地面を流れる川にチェンジ!」
つまりは墨俣の一夜城である。
川を使って大型の荷物を全部運んでしまおうというわけである。
この作戦で収穫祭の準備は一週間以上かかるはずの所が二日で終わった。
「つ……疲れたー!」
「ユカ様、まだですよ」
フランベルジュ領で現在、仮の領主の住まいとして使われているのがヘクタールの従者達の宿舎である。
その庭には領内の人のほとんどが集まったのではないかというくらいに沢山の人が集まっていた。
みんな新領主を見たいから集まったのだろう。
ホーム本人は代行だと言っているが実質彼がこの数日様々な事を統括していた。
ゴーティ伯爵は彼に昔から帝王学を学ばせていたのだろう、これは一日二日で身につくようなものではない。
「皆さん、遠路はるばるよく集まってくれました。僕が新生フランベルジュ領、領主代行の『ホーム・フォッシーナ・レジデンス』です。若輩者ですがどうぞよろしくお願い致します」
割れんばかりの拍手が辺り一面で一斉に巻き起こった。
「皆さんの中には不幸にもヘクタール男爵のせいで家族を失った人、財産を失った人が数多くいると思われます。ですが……もうヘクタールはいません、皆さんは自由になったのです。僕は強制も搾取も絶対に行いません! 皆さんと共にこの土地を良くしていきたいと思います!!」
ホームの就任挨拶を聞いた人達による割れんばかりの拍手はいつまでも続いた。