160 旧ヘクタール領の夜明け
いくつもの魂が天に還っていく。
この地を支配し続けた不幸がついに終わりを迎えたのだ。
「くッ、ここでもキミが邪魔してくれたようだねェ! まったく不愉快だよッ」
「待てっ! お前は誰だ!?」
薄闇色のローブの男は跡形もなく姿を消した。
「ユカ様! やりました、僕達の勝利です!!」
騎士団の団員達からも歓声が上がっている、みんなが勝利を感じているのだ。
私達はもう疲れてヘトヘトだった、そんな私をマイルさんが肩を貸してくれた。
「ご苦労さんっ、ユカ。みんなカッコよかったよ」
「ははっ……もう動ける体力ないや」
この心地よい疲労感、まるでゲームを完成させた時のスタッフの一体感を私は思い出した。
全員が嬉しそうに喜んでいる、ヘクタールに苦しめられていた領民達は涙を流している人も大勢いた。
「エリア……ありがとう」
「うん……みんな、還っていったよ。でも、私の事を女神様って呼ぶ声が聞こえた」
「まあそうだと思うよ、エリアの力でみんな救われたんだ」
「救世主様!!」
エリアが女神だとすると私は救世主になるのか。
「ハハハ……みんなゴメン。実はボク、本当の救世主じゃないんだ。あの場を解決する為に救世主のフリをしただけなんだよ」
「そんな事ありません! 貴方様は苦しむ私達を助ける為に遣わされた救世主様に間違いありません!!」
なんだかむず痒いな……でもそれで救われる人がいるならそれも良いかもしれない。
『イワシの頭も信心から』って言葉もあるくらいだ。
頭をかいて愛想笑いしていた私に騎士団長のラガハースさんが跪いた。
「ユカ殿、いや……ユカ様。貴方の活躍でこの土地は救われました。是非ともこの土地の領主になって下さい」
「えっ!? いきなりそんな事言われても」
「某は帝国貴族の子爵を拝領させていただいております。そして、ヘクタール亡き今、この地は国領となります。その上で某は貴方様の功績を推進し、皇帝陛下以下皇帝派貴族の方々に、貴方様を貴族として推薦したいと思っております」
「そんな事いきなり言われても困るよ……」
ここで貴族をやってもいいんだが、この国はまだまだ平和とは言えない、ヘクタールはいなくなったとはいえ公爵派貴族はまだ残っているのだ。
「ラガハース、ユカ様が困っているではないか」
「し、しかしホーム様、それではこの領が再び公爵派に奪われ、ヘクタールの再来の危機が……」
「なら貴方がこの領の領主になればいい。フランベルジュ領で問題ないのでは?」
「ですが、それでは某も騎士団長として動きにくくなってしまいまして、今から南方の魔軍討伐に向かう為、ゴーティ伯爵殿の依頼で途中にここに立ち寄ったくらいですから」
「……わかった。それなら僕が領主代行という形でならどうかな」
「そうですな! ゴーティ伯爵殿ならそれで話を通してもらえるかもしれません」
どうやらこの領は国領となり、ラガハースさんが領主、ホームがその代行をするという形で話が落ち着いたようだ。
「でも、領民達は僕が領主代行で納得するのですかね?」
「勿論です、ホーム様!」
「貴方様なら大歓迎です!!」
「わたし達は貴方様と救世主様達に助けていただきました、このお礼は一生かけてお返しさせていただきます」
ホームは領民達全員に歓迎されていた。
この土地もみんなが住みやすい良い領地になるだろう。
さて、この後北西の村で番犬をしてくれていたシートとシーツも迎えに行かないと。
でもその前にする事がある。
私はワープ床を作り三人の元メイドを迎えに行く事にした。
「目の前の土地をワープ床にチェンジ!」
領民達がみんなビックリしていた、まあ救世主扱いならこれを見られてももう問題はあるまい。
私はワープ床で冒険者ギルドに向かい、三人の元メイドを連れて帰ってきた。
「お帰り、もう……終わったよ」
それを聞いた三人の元メイド達は堰を切ったようにいつまでも号泣していた。