15 父よ、貴方は凄かった
遺跡探索を終えたハンイバルさんは、次のギルドの依頼について受付嬢と深刻な話をしていた。
「俺たちは本来なら依頼されている盗賊団の退治に行きたいとこなんだがな、どうやら隣の領主のヘクタール男爵が関所の通行許可証を出さないんだ、なので次の仕事は当分できそうにない」
「そうですか、残念です……」
「まあ俺たちはしばらくこの街に滞在する。みんな! 今日は俺のおごりだ! 好きに飲み食いしていいぞ!」
ハンイバルさんのその声で、ギルドの中の食堂兼酒場は大盛り上がりになった。
誰もが飲み食いをし、どんちゃん騒ぎで大盛り上がりだ、
こんな光景を見るのは前世での――ドラゴンズスターⅩオンライン――の完成披露打ち上げパーティー以来久々なくらいの大盛況だった。
しかし、今の私はこれでも未成年なので、その盛り上がりに参加しようとは思っていなかった。
「マスター、そこの坊主にも同じものを」
「いえ、ボクは結構です、物をめぐんでもらう理由がありませんから」
「気に入ったぞ小僧、それだけハッキリものを言うとはな! だが人の好意は素直に受け取るのも大人のたしなみだぞ」
「そうだぞ、ボウズ! 今はみんなで楽しむ時だ、金なら気にするな!」
「……」
「いい目をしているな、どこかで見た事のある目だ。小僧、名前は?」
「ボクは、ユカ・カーサです」
「! カーサだと! あの100体斬りのカーサ戦士長の子か!?」
「はい、ウォール・カーサは僕の父です」
父さんの名前を聞いたハンイバルさんの目が優しくなった。
「……マスター、彼に一番良い食事を用意してくれ」
「ボクはアナタにそんな事をしてもらういわれはありません!」
「お前になくても俺にはあるんだよ! ウォールさんは俺の命の恩人だ」
「父さんが、そうなんですか」
「お前が考えているよりも、親父さんは立派な人だよ」
少し考えた後ハンイバルさんは、鼻を利かせて私に話しかけてきた。
「お前、いや、ユカ。そのカバンの中にあるものが入っているだろう。それを出してくれ、臭ってくるんだよ、強い臭いが」
「ひょっとして、これですか?」
私はオーガーの角と爪をカバンの中から取り出した。
ここにあるのは本来の角は大きすぎたので、バラバラになった際に砕けた先端の部分を持ってきた物だ。
「やるな、オーガーを倒すとは、レベル20以上のモンスターを倒せるという事だぞ! もっと自慢していいんだぞ」
「いいえ、これは崖崩れでバラバラになって死んだオーガーの角を持ってきただけですから、ただ運が良かったんです」
「……ユカは俺の目を節穴だとでも思っているのか? これは死んですぐに手に入れた物、そうでなければオーガーの角はすぐに風化して粉々になるものなのだよ。君はオーガーを自滅させるために崖崩れの方に誘導して倒したんだ、それは立派な実力といえる」
このハンイバルという人、凄まじい洞察力だ。
マップメイクの事は気づかれていないが、オーガーの死因まで的確に判断している!
「君は立派なオーガースレイヤーだ、流石はウォールさんの息子といえる」
それを聞いていた荒くれ達がざわめきだした。
「あ、あの小僧……オーガーを倒しただって!?」
「最強の男ウォール戦士長の息子さんだそうだ」
「マジか! オレ、ウォールさんの部隊にいたんだぜ」
ハンイバルさんがオーガーの話をした事で、私は話題の中心になってしまった。
そして父親の事をいろいろと聞く事になったのだ。
「ウォールさんほどの強さなら将軍にもなれるのに」
「100体のモンスターから都を守ったのに勲章すら与えられなかったというんだろ!」
「無能な上官だったヘクタール男爵が手柄を横取りしたんだよ!」
「話によると国境線の警備隊に回されたのってヘクタールの口止めのためだってよ!」
「アイツ、そこまでしてウォールさんの功績を隠したいのかよ! 最悪だな!!」
――RPGでの基本ともいえる酒場の情報収集が、馬鹿にできないのを私は実感した。
私は父さんの事をここで聞くまで、ほとんど知らなかったのである。