155 ユカの火踊り
ヘクタールの従者達とレジデンス領の人質を連れた私達はゾンビのいない方角にある近くの村を目指した。
「ユカさん、ダイブイーグルが北西に村があるのを確認しました!」
「ありがとう! みんな、北西に向かうよ!」
私達は三時間近くかかって北西の村にたどり着いた。
◆
「どうぞどうぞ、遠路はるばるご苦労様です。私が代官のインチです」
私達を出迎えたのはニコニコと笑った代官だった。
「あなた方はヘクタールの屋敷から逃げてきたようですね、それはそれは大変でしたでしょう。ささ、どうぞ村でゆっくりしていってください。ささやかながら歓迎致しますよ」
代官のインチは避難民達に水を分け与え、全員に食料を食べさせてくれた。
「ありがとうございます」
「なぁに、私もヘクタールの横暴にはつくづく呆れ果てていましてね、せめてこの村だけでも人が飢えない様にしてあげたいと思って備蓄はしておいたのですよ」
私はこの時、まだ代官にもまともなのがいると思った。
「さあ、避難民の方はこちらで、救世主様達はどうぞ私の家へお越しくださいませ」
私達は代官の家に歓迎された。
代官の家は少し大きいくらいだったがそれほど村の家と格差があるようなものではなかった。
「困りましたねえ、家の中には流石に犬は連れて入れませんよ」
「わかりました、シート、シーツ、ここで大人しくしているんだよ。後でご飯あげるからね」
「「オンッ」」
手厚く歓迎された私達は代官の家で食事を出してもらった。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
私達は温かい食事をご馳走になった、しかし! その直後いきなり体が重くなり……意識を失った。 これは……罠だった。
「っくっくっく、ヘクタールのマヌケめ。物事は搦め手ってのがあるんだよ」
「な……キサマ……は」
◆
意識を失った私達は代官に縛られてしまった。
バッドステータス無効のエリアは何ともなかったようだが、力の無い彼女は抵抗も出来ず捕まってしまった。
シートとシーツは縛られた私達を前に動く事が出来ない。
そんな縛られた私達の前に置かれていた物は規模こそ小さいが見せしめ処刑の火踊りの為に用意された熱された鉄板だった。
「さあ、避難民の命が惜しければお前がここで火踊りをしろ」
「卑怯者めっ! 騙したな!!!」
「騙される方が悪い、私はヘクタールみたいな短絡的なバカとは違うのでな、村人に優しくしてやったのも私がヘクタールに代わり領主になる為だ」
「なんだとっ!」
「偽りの救世主、盗賊退治のユカ。お前を殺せば公爵派貴族達は私を評価する。お前は私の栄光の為に死ね!」
インチの手下が私に薄汚いマントを被せようとしていた。
偽りの救世主だと! それならその思い上がりを潰してやる事に私は決めた。
「いいだろう、だが一つだけ頼みがある」
「なんだ、命乞いなら聞かんぞ」
「どうせ最後だ、マントくらい好きな物を使わせてくれ」
「ふん、どうせ貧民の持ち物だ。灰になるのには変わりない、それくらいは許してやろう」
私は銀狼王のマントを羽織り、その上からインチの手下が大量の油をかけた。
「ユカ様!」
「大丈夫だ、問題ない」
実際私のHPは25000、この程度の火ならマントをつけなくても全く問題はない。
しかしここで奴らに見せつけるのは奇跡だ、その演出の為に私は銀狼王のマントを羽織ったのだ。
そして私は自ら熱く燃え盛った鉄板の上に足を踏み込んだ。
幸い五属性無効のレジストベルトの事は奴らには全く気付かれていない。
「「「救世主様ぁー!!」」」
ヘクタールの従者や避難民の悲痛な叫びが聞こえる。
むしろそれでいい、救世主としての奇跡を見せるには最良のシチュエーションだ。
だが、流石にホームやルームにエリア達も私を心配している、少しやりすぎたかな……。
私は熱く熱された鉄板の上で燃え盛る火炎に包まれた。
大丈夫、奇跡を見せるのはこれからだ。