153 最強の援軍達
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ヘクタールの従者達の宿舎では忙しそうに大勢の人が働いていた。
しかしその顔には昨日までのような疲労感は無く、皆が明日の為、解放の日の為と仕事をしていた。
そんな宿舎の懲罰房の中にヘクタールのシンパである貴族の次男三男達が閉じ込められていた。
そんな彼らの前に何処からともなく薄闇色のフードを被った男が現れた。
「ハハハ……キミたちィ、ここから出たいかい?」
「出せ! 俺達はこんな所にいるような身分ではない」
「早く出せ、このウスノロ」
貴族達のバカ息子たちは相手にお願いする事を知らない。
高圧的に相手に言えば全て思い通りに相手は動くと思い込んでいるのだ。
「なんだか気に入らないなァ、その態度。まあいい、ここから出してあげるよォ」
薄闇色のフードの男は手も触れずに鍵を溶かし、姿を消した。
「ハハハハハ。さて、面白くしてくれよォ」
薄闇色のフードの男は闇の中で笑っていた。
懲罰房から抜け出したヘクタールの取り巻きは兵士や従者達を突き飛ばし、そのまま急いで収穫祭の会場に向かった。
◆◇◆
私は目の前の凄まじい光景を目にした。
収穫祭の会場だった大広場は降り注ぐ流星により跡形もなく吹き飛んでいた。
真ん中の悪趣味な鉄板を置かれていた場所も粉々になり、その破片は吹き飛んだアンデッドを粉々に砕いた。
「凄い……凄まじい魔法ですわ!」
「これは……流星の魔女様じゃ」
「魔女様がわしらを助けて下さった。魔女様、ありがとうございますじゃ」
どうやらこの隕石群は自然の物ではなく流星の魔女と呼ばれる人物の使った魔法らしい。
「貴様ラ……殺ス。殺ㇱテオレノ奴隷ニシテヤル」
ヘクタールはこの流星でも死んでいなかった。
そして死者の指輪で砕け散った死体をかき集め、再びゴーレムを作ろうとしていた。
「ヘクタール様! 我ら参りました」
「ヘクタール様、そのお姿は?」
何故だ!? 宿舎の懲罰房に閉じ込めたはずのヘクタールの取り巻き達が血相を変えて現れた。
誰が奴らを外に出したのだ? 私には皆目見当がつかなかった。
「クハハハハ。貴様ラ、ヨク来タナ」
そういうとヘクタールは取り巻きの一人の首に噛みついた。
「あ……が、ヘクター……ル様?」
噛みつかれた取り巻きの一人が地面に倒れた、その直後その男は奇妙な笑いを上げながら青い血を流した食屍鬼になった。
「貴様ラモコレヲ飲メ」
ヘクタールは自らの腕から流れる青い血をコップに注ぎ、取り巻き達に突きつけた。
「おお、ヘクタール様。素晴らしい、やはり貴族の血は青かったのですね」
「勿論です、私はあなた様のしもべです」
取り巻きたちは憑りつかれたようにヘクタールの血を飲んだ。
そして血を飲んだ取り巻き達は次々と食屍鬼に変化していった。
「ヘクタール様ニ逆ラウ家畜ドモ、全テ殺ス」
「女子供ハサゾ殺スト楽シイカナ」
「クッテヤル、家畜ドモ」
食屍鬼達は領民には目もくれず、ヘクタールの屋敷に向かった。
奴らの目的は人質だ!
その前に捕らえられた人達を助けないと。
だが、この場を離れるとそれはそれでこの領民達を見捨てる事になる……。
どうすれば良いのだ、二手に分かれても十分勝てるかもしれないが苦戦は必至だ。
私がどう判断すればいいか悩んでいたその時、遠方から弓と魔法が飛んできて食屍鬼とゾンビを打ち砕いた。
遠方に見えたのは帝国軍の騎士団の旗だった、これは天の助けなのか!
「貴殿がホーム・レジデンス殿か、ゴーティ伯爵殿から話は聞いている」
「貴方達は?」
「某はグランド帝国、帝国軍騎士団団長、『ラガハース・フォン・フランベルジュ』である。ゴーティ元団長から頼まれてここに立ち寄った」
「有難うございます! ラガハース騎士団長殿」
帝国最強の騎士団が加勢してくれた!
これで人質救出に向かう事が出来る!!
「ラガハースさん、ボク達は今から人質を助けに行きます、ここの人達をお願いできますでしょうか?」
「失礼だが、貴公は?」
「ボクはウォール戦士長の息子『ユカ・カーサ』です!」
「そうか! 貴公が盗賊退治のユカか! 良いだろう、この場は引き受けた」
これで私達は人質を助けに行く事が出来る!