150 祝福の時と一つのリンゴ
悪趣味で残酷な処刑はその後も続いた。
人の肉の焼ける臭い、そして物言わぬ白骨になった後それらは熊手のような物で次々と鉄板の上からゴミとして集められていた。
「……」
「ホーム様、どうなされました? 不良品の家畜の処分がそんなに気になりますか」
「黙れ……」
「ホーム様は先程からなぜそれ程不機嫌なのでしょうか? せっかくのお祭りなんですからもっと楽しみましょうよ」
ホームもルームも鋼のような精神力で今の目の前の惨状を見続けてきた。
父親であるゴーティ伯爵が、自身が招待された祭りに行かずに二人を名代にした意味をこの二人は今唇を嚙みしめて実感していた。
伯爵はこの二人に腐敗貴族の実態を聞かせるのではなく実際に目にする事でこの国の現在の姿を見せるのが目的だったのだ。
悪趣味な祭りはその後も続いた。
死刑囚を焼いた鉄板はその後、飢餓に苦しむ領民の前で豚や牛に全部穀物を食べさせた後に屠殺した肉を料理する為に使われた。
貴族達は領民達に穀物を見せつつ、それをあえて牛や豚に全部食べさせて領民には残さないのだ。
そしてその穀物を全部食べた豚や牛を屠殺し、死んだすぐの肉を鉄板の上で料理させた。
焼けた肉は次々に貴族の口に入る。
そしてその臭いだけが領民の鼻に残る。
これは公爵派貴族達のいつもの嫌がらせらしい。
飢餓に苦しむ領民の前で自分達だけが特別な存在として食事をする。
この事により絶対の権力者と持たざる者の格差を見せつけて心を折るのだ。
だが肉ばかりが全てではない、女性や老人の貴族の為に肉を煮込んだスープやフルーツ等もふんだんに盛り合わせで置かれている。
パティオ子爵の娘、ローサは召使にそのフルーツを持ってこさせ、席で食べていた。
「ホーム様、ワタクシが食べさせてあげますからこちらを向いてくださいませ、あーん」
「……僕は君を軽蔑する」
「ホーム様、先程からなぜワタクシにそんなに冷たい態度なのですか?」
「……君に話す事等……無い」
ホームは微動だにせずこの悪趣味な祭りを見続けている。
ルームも同じく祭りを見続けていた。
普段は自信家でおしゃべりな彼女が今は黙ったままじっとこの光景を見続けているのだ。
今のこの二人の煮えたぎる怒りは口にできるようなものではない。
「つまらないですわ、これも美味しくないですし」
ローサがかじりかけたリンゴを投げ捨てた。
それを見ていたお腹を空かせた領民の子供が飛び出してリンゴを拾い、一口かじってしまった。
それを見ていた貴族達は領民の子供を全員が蔑む目で罵倒した。
「何という事だ! 祝福の時の物を貴族以外が口にした!!」
「おお、恐ろしい。来年は神の怒りによる凶作じゃ」
「その家畜の子供を捕えろ!!」
ヘクタールの私兵達がリンゴを一口食べただけの子供を押さえつけた。
「何という事を、何という事をしたの、このブタは。ワタクシの口に付けた物を食べようとするなんて」
ローサは激昂し、高座から飛び降りてヘクタールの兵から取り上げた剣で鞘をつけたまま子供を打ち据えた!
「死ね! 死ね!! 死んでしまいなさい! このブタが!!」
ローサが子供を打ち据える、それを見ていたホームはついに怒りの限界を迎えた。
「死になさい! この醜いブタの子が!」
「やめろ!!!」
バシッ!!
飛び出したホームはローサの頬を平手で張り飛ばした。
張り飛ばされたローサは尻もちをついて後ろに倒れ、そのまま茫然としていた。
「もういい、もうたくさんだ! 僕はこんな連中と一緒にされたくない」
「お兄様、私ももう許せません! 全員ギタギタのメタメタにしてやりますわっ!!」
「ユカ様。皆さん、もう我慢する必要はありません! お願いします!」
そして私達は領民の群衆をかき分け、ホームとルームの二人と一緒に戦う為に貴族の前に立ちはだかった。
そんな私達を上空からじっと見つめている鳥がいる事には誰も気が付かなかった。