147 消せない後悔と新たな場所
私はこれ程エリアの怒りを感じた事は無かった。
三人のメイド達はエリアが私達には言えないくらいひどい仕打ちを受けたのだろう。
そうでもなければ人間がここまで壊れる事はあり得ない。
彼女達は廃人一歩寸前だと言える。
このまま彼女達を放っておくとヘクタールの言いなりに誰かに不幸を撒き散らすか本人が立ち直れないくらいの過ちを犯すところだった。
幸い私達が捕らえて縛っているので動こうとしても動けない。
妙な暗示ではないので舌を噛んで自殺という可能性はないだろうが念の為、布で猿ぐつわはつけておいた。
「エリア、彼女達を助けるって……」
「私に、任せて……!」
エリアが周りから聖なるエネルギーを集めだした。
温かい光がエリアの両手に集まり、それは白く光り輝いていた。
そしてエリアはその光輝く手を彼女達の額にのせた。
「聖なる力よ、この罪深き者達の心の深き傷を癒したまえ……レザレクション!」
エリアの力で辺りには白く温かい光が満ち溢れ、三人のメイド達はその光に包まれた。
そしてその光は三人に呪いとしてまとわりついていた死人カズラの猛毒を綺麗に浄化した。
やはり彼女達は麻薬でヘクタールの言いなりにさせられていたようだ。
「……んん。私は……はっ!? ここは何処ですか?」
メイドの一人が正気を取り戻した。
「落ち着いて、貴女はもう何もしなくていいの……」
「あなたは……聖女様?」
エリアがメイド達に優しく微笑む。
そしてエリアは彼女達の手を握った。
「貴女達の受けた仕打ちはよく分かりました。また、決して消えない罪の事も知りました」
「聖女様……私、私は……」
今まで虚ろな目をしていた彼女達はエリアに諭された事で堰を切った様に三人で号泣していた
「マーシャ、ゴメン、ゴメンなさぁああい」
「仕方なかったののぉぉぉ!」
「マーシャ、許して、許してェェェ」
私達はいたたまれない気持ちになっていた。
どうやら彼女達はヘクタールの命令でマーシャという人を殺してしまったのだろう。
私はヘクタールの仕打ちが心底許せなかった。
「確かに失われた命は二度と甦りません。ですが貴女達はもう十分反省しています」
「聖女様ぁー……」
三人のメイドは涙が尽きるまでいつまでも泣き続けていた。
そしてしばらくの時間、泣き続けた彼女達はようやく落ち着いたようだった。
◇
「ボクの名前はユカ。この領地を救う為に現れた救世主だ」
「救世主様……」
「ボク達はヘクタールを討つ為にここに来た。貴女達のような不幸な人をこれ以上増やさない為だ!」
私は自ら救世主を名乗った、今の彼女達には心の支えが必要なのだ。
「ボク達は必ずヘクタールを討つ、それまで貴女達はここにいない方が良い」
「ですが、私達は村に戻れません、マーシャのお母さんに合わせる顔がありません」
「わたしもです、もし村に戻ればヘクタールは私達の村を滅ぼします」
「あたし達、もう帰る場所は無いんです」
私は少し考え、彼女達を冒険者ギルドに預ける事にした。
「この場所の床をワープ床にチェンジ!」
「「「!?」」」
私は驚愕する彼女達をそのまま腕を引き、ワープ床に一緒に踏み込んだ。
「ユカさん、今度はどうしました?? 先程は大量の食材を持って行きましたけど」
「実は……頼みがあってね、この三人をここで匿ってもらえないかな?」
「……わかりました。ユカさんの頼みです、喜んで引き受けますよ」
「ありがとうございます!」
私は彼女達を冒険者ギルドで匿ってもらう事にした。
伯爵領にヘクタールの手下のいない今なら彼女達を脅かすものは何もない、今はここが一番安全で安心できるのだ。
「救世主様……ありがとうございます」
三人のメイド達が枯れたはずの涙を流していた。
しかし今度の涙は悲しいからではなく、嬉しさから流した感謝の涙だった。