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146 凍てついた三人の心

 必ずこの領地を解放する。

 私はこれを救世主としてヘクタールの従者達に約束した。

 希望を持った従者達は目の輝きが違った。

 彼ら彼女らは絶望の中に希望を見出す事が出来たのだ。

 そして私達は宿舎の中でも最良の部屋に通してもらい、そこで休む事になった。


 その部屋は元々監視者たちの部屋であり、他の部屋とは比べ物にならない程豪華でなおかつ悪趣味な部屋だった。

 いうならばテレビ番組に出てきそうな豪邸訪問で成金の悪趣味な芸術家気取りの住んでいそうな部屋だ。

 無駄に高そうな調度品に価値のわからない格式だけは高そうな絵画、そしていたるところに金メッキ。

この費用を食事に回せば何十、何百人分の豪華な食事代になるのだろうか、と言える。


 どうやらヘクタールのシンパは下級貴族の次男や三男らしい。

 領地は持てないが貴族である、そういった歪んだプライドがこの部屋には感じられた。

 歪んだプライドと言えば『トライエニアックス』の社長室もこんな感じだった。

 

 社員の経費や待遇改善の金は渋って使わないのに社長室だけはやたらと豪華な調度品を揃えていてしかもそれは経費扱い。

 私は社用で呼び出されてあの部屋に行くたびにうんざりしていた。

 それに対してかつての『トライア』の社長室にはゲーム筐体や自社過去作品のポスターがあり、会社見学に来た人には実際にゲームを触らせてあげたりしていたので新卒の人気が高かったのも覚えている。


 虚栄心の高い連中の部屋って得てしてこんな物なのかと私は呆れ果てた。


「え、ええ。それではこの部屋で休ませてもらいます」


 私達はそれぞれが別の部屋に泊まる事になった。

しかし監視者達の部屋はどれもこれも似たり寄ったりの悪趣味な部屋でホームやルーム、マイルさん達もかなりドン引きしていた。



 私が部屋で一人休んでいると部屋をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」

「失礼します、お客様」


 部屋に入ってきたのは先程の虚ろな目の三人のメイドの一人だった。


「……ヘクタール様の言いつけでお客様のお世話をさせていただきます」


 そういうと彼女は私のそばに寄ってきてメイド服を上から一枚ずつ脱ぎ始めた。

 オイオイオイオイ、そんな趣味はないっての。というか私の今の身体はまだ未成年だ!


「ちょっと待って、待ってくださいよ……」

「お客様……」


 半裸になった彼女はベッドの上の私に覆いかぶさってきた。

 困った私があたふたしていると、メイドはいきなり隠し持っていた短剣を私に突き刺そうとしてきた!


「死んでください、ヘクタール様の命令です」

「やはりそんな事だと思ったよ!」


 私は軽く短剣を躱し、彼女の首筋に手加減してチョップを決めた。


「ウッ!」


 首筋に攻撃を受けた彼女は一瞬で気を失った、所詮は素人である。

 それよりほかのみんなが危ない!


「みんな、無事か!?」


 私は他の部屋のみんなの様子を見に行った。

 やはり他の男部屋でもメイドは私達を殺す為に来ていた。

 だがフロアさんはシート、シーツが一緒にいたのと、ホームは元から暗殺の躱し方を知っていたのでメイドは二人共返り討ちで縛られていた。


「どうしてこんな事をしたんだ?」

「「「……」」」


 三人とも縛られたまま黙っている。

 言えないのか、言いたくないのか。それとも薬で自我を奪われているのか、私には彼女達がなぜ黙っているのかがわからなかった。


「ユカ。私に任せて……」

「エリア、大丈夫?」


 エリアが三人のうちの一人の顔を両手で触れ、メイドの額にエリアの額を合わせた。

 淡い光が二人の額の間にポウッと輝き、メイドは力尽きたように倒れてしまった。


「酷い……酷すぎる!」

「エリア……一体何が!?」


 エリアは彼女達に何が起きたのかをこの事で理解したようだ。

 その上でエリアは静かに、とても静かな中に煮えたぎる程に燃える怒りを秘めていた。


「ユカ、私が絶対に彼女達を救ってみせます」

「エリア……」


 私はエリアの怒った目に彼女のとても力強い意志を感じた。

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