142 ヘクタール屋敷の地下
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公爵派貴族達の晩餐会は夜遅くまで続いた。
彼らは目の前に出された肉が何なのか知った上で談笑している。
この肉の本当の正体を知らないのは子爵令嬢のローサだけだ。
貴族達は彼等にとっての楽しい会話をずっと続けていた。
その内容は一般常識の有る常人では聞くに堪えないほど酷い物ばかりだ。
人間狩りでどれだけの下民をハンティングしたか。
麻薬を使いいかに真面目な人間を堕落させて手下にするか。
騙した相手に借金を押し付けて脅して相手を己の言いなりにして家庭を崩壊させるか。
嫌がる相手に強引に武器を持たせて逃げられない様にした上で殺し合いをさせるか。
今までどれだけの下民の女、男を弄び破滅させてきたか。
利権の邪魔になる相手をどのように貶めて商会等を崩壊させたか。
そういった話を延々とお互い自慢しているのである。
この連中はそれを悪びれる事は決してない。
何故ならこの連中は青い血の貴族は神に作られた最高の存在であり、する事の全てが許されると思っているのだ。
しばしの歓談が終わり、貴族達はそれぞれの泊まる部屋に招待された。
そこには貴族の慰み者にされる為に何人もの男女が侍らされている。
そして狂乱の宴の第二幕が始まった。
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ヘクタールの館にはダストシュートが何か所にも存在する。
そこにはゴミをすりつぶすための歯車や尖ったローラーが存在し、それらは何人もの奴隷が人力で動かしている。
台所からは夕食に出された肉の残りの骨が肉のついたまま捨てられた。
この骨はかつてロビーネ男爵と呼ばれた者の成れの果てである。
また、別のダストシュートからは今晩慰み者にされたまま嬲り殺しにされて息絶えた数人の女子供の死体が投げ捨てられていた。
それらのゴミはダストシュートを通りヘクタールの屋敷の地下にあるゴミの山に堆積していた。
この場所は地下の巨大洞窟の大空洞の上に存在し、ゴミは無尽蔵に捨て続ける事が可能なのだ。
まさにヘクタールの屋敷はこの世の地獄というにふさわしい場所であると言えよう。
◆◇◆
ヘクタールの迎賓館から移動した私達は従者達の宿舎に泊まる事になった。
「僕達はゴーティ伯爵の名代で来た者です。今晩こちらで泊まらせていただいても大丈夫ですか」
「はい、ヘクタール様からお聞きしております。こちらへどうぞ」
私達は従者たちの部屋でもかなり粗末な鍵が付いているだけマシといった部屋に案内された。
そこには三人のメイドが立っていた。
「……私達は、ヘクタール様の言いつけで貴方方のお世話をさせていただきます……」
私達を世話してくれると言ったメイドは三人とも生気が無く、虚ろな目をしていた。
まるで自我が無く言いなりになっているだけの人形だ。
「ユカ様、何か変ですよ」
「ああ、ボクもそう思ったんだ」
メイド達は決められた動きをしたかのように人数分の飲み物を用意し、その場を離れた。
しかし私は何か怪しい物を感じ、飲み物に手をつけなかった。
「ユカ……私、これは飲まない方が良いと思う」
「エリア、やはりそう思うんだね」
エリアは目の前の器に手を伸ばし、レザレクションで飲み物の器を浄化した。
「これなら……大丈夫」
エリアが浄化してくれたので私達は器の中身を全員で飲む事が出来た。
浄化された飲み物はただの水になっていた。
飲み物を飲んだ事を確認した後、再びメイド達が現れた。
「お客様……お食事はどうされますか」
「それじゃあお願いするよ」
「……かしこまりました」
生気のないメイド達は私達を従者達の食堂に案内した。
そこで出された食事は食べ物というにはあまりにも粗末な物だった。
周りの従者達も食事をしていたが誰一人として笑う者も無く、会話も無かった。
これはとても食事するといった雰囲気ではない、まるでSF等のディストピア物語の中に出てくる食事風景だ。