139 高貴な青い血と下賤な赤い血
「グアアアアアア! 目が、オレの目がぁぁ!」
ロビーネ男爵はホームの持つ魂の救済者の柄に自ら突っ込んで自爆して右目を失った。
目からは赤い血がダラダラと流れている。
それを見た貴族達の顔色が変わり、今までロビーネ男爵を応援、擁護していた連中がロビーネ男爵を蔑むような眼で見ていた。
「血、それも赤い血だ、ロビーネ男爵は穢れたのか」
「おお忌まわしい。下賤な赤い血だと、ロビーネは男爵、貴族の器ではなかったのか」
「まあ私は分かっていましたがね、あの下品な話し方、アレは貴族に相応しくないものだ」
公爵派貴族の掌返しが酷い。
コイツらの仲間意識は所詮血でしか見ていないのだ、血族主義とでも言うべきか。
「なんだ、なんだよぉ……お前等、オレをそんな目で見るな! オレは高貴な貴族様なんだぞ! 何故、何でオレの血が赤いんだよぉ……」
ロビーネ男爵は目を潰された事よりも自分の血が赤い事に相当動揺していた。
「皆様、ロビーネ男爵は神の御加護を失ったのです。穢れた奴はもう貴族の資格はありません」
「おお、イグレシア枢機卿。戻られましたか」
「ええ、シャトー侯爵夫人はお休みになられております」
イグレシア枢機卿がロビーネ男爵の糾弾を始めた。
「ここは不本意ではありますが、貴族であるホーム・レジデンス殿を応援するしかありますまい」
「むう……だが穢れた下賤の者になったロビーネ元男爵は処刑されるべきだからのう」
「ローサ、君の応援していたホーム君を私達も応援する事にしたよ」
「お父様、感謝いたしますわ」
その後、場の雰囲気が変わった。貴族達はロビーネ男爵を見限り、貴族だからとホームを応援し始めたのだ。
非常に馬鹿馬鹿しい事だ、この連中はまだ医療が発達していないこの世界で貴族の血は青く尊い物、赤い下賤の血は穢れた汚い物と思い込んでいるようだ。
血管の血が青く見えるのは綺麗な血を運ぶ動脈と外側にうっすらと見える汚れた血を運ぶ静脈によるものだというのは日本だと小学生後半、中学生でも常識だ。
だがこの連中は貴族の血は青い物だと思い込んでいる。まだこの場で無傷のホームの血が青い血の貴族の仲間だと思い込み、赤い血を流したロビーネ男爵を蔑んでいるのだ。
だがもしここでホームも傷を負って血が赤いとわかると途端にこの連中はホームを貶めようとするだろう、全く愚かな連中である。
そしてロビーネ男爵に向けて殺せコールが始まった。ロビーネ男爵は四面楚歌ともいえる状況だ。
彼は赤い血が流れただけの事で場の全てが敵になってしまったのだ。
「ゴーティのクソガキ……テメェだけは絶対にぶっ殺す! オレの血を穢しやがって」
「そのセリフそっくり返しますよ、この人殺し、貴方はどれだけの女性を殺めてきたんだ」
「人殺しだとぉ!? 貴族様にあらずば人じゃねえんだよ! 下賤の家畜のメスを何匹殺しても罪にはならねえ、常識も知らねえのか」
ロビーネ男爵が半狂乱になりながら破れかぶれの滅多切りでホームを切ろうとしていた。
しかしホームはそれを余裕で躱し、何度もロビーネ男爵を鋭く切り裂いた。
「ガアアア……イテエェ、イテェよぉ!」
ロビーネ男爵は叫びながら涙と鼻水を流し、ブザマな姿を見せていた。
それを見ていた貴族達が彼を嘲り笑っていた、敵ながら哀れである。
「オレがこんなとこで負けるわけがねぇ! オレは騎士団最強だー!!」
ロビーネ男爵が残る全力を込めた渾身の一撃をホームに切りつけてきた。
しかしホームはそれを避けようとしない。
「レジデンス流剣技! 縦一閃」
ホームの鋭いカウンターがロビーネ男爵を捉えた。
そして、その一閃は男爵の右手と踏み込んできた左足を同時に一瞬で斬り飛ばした。
「地面に這いつくばったのは貴方の方でしたね」
魂の救済者が白く光り輝いた。ロビーネ男爵に嬲り殺された犠牲者達の魂が感謝しているのだろう。
ホームは魂の救済者を鞘にしまうと周りに深々とお辞儀をした。