138 ホーム対ロビーネ男爵
ホームとロビーネ男爵がお互い向かい合って立っていた。
二人共お互いの間合いを図っているのだろう。
この二人はどちらもが同じ騎士団の関係者だ。
「オイ、クソガキ。泣いても許さねぇからな。テメェの手足全部ぶった切って芋虫みたいにしてからあのクソッタレのゴーティの所に送り付けてやるよ」
「口だけは立派ですね、貴方は騎士として腕は磨いているのですか?」
ロビーネ男爵の挑発に対してホームは冷静に煽り返した。
それを聞いたロビーネ男爵は顔を真っ赤にして憤慨している。
「決めた、テメェは全殺しだ。ゴーティにはそのバラバラにした体を塩漬けにして送り付けてやるよ!!」
「それは素晴らしい。別室に移られたシャトー様もお喜びになるでしょうな」
公爵派の貴族達が嘲笑していた。
まあこの後どうなるかわかっているのは私達だけだ。
私達はシートとシーツの二匹を含めても誰一人としてホームの敗北は無いと見ている。
ホームのレベルは確実に25前後だ。一人前の冒険者どころかA級の冒険者でもこれほどの強さはそうはいないだろう。
それに対してロビーネ男爵はせいぜいレベル15~20といったところだ。
傍観している貴族達の中では最強かもしれないが、今のホームの敵ではない。
「さあ、どうぞかかってきてください」
「死ねやぁこのクソガキが!」
ロビーネ男爵が剣を鋭く突き刺してきた、常人相手ならこれは絶対に避ける事が出来ず刺されば即死しかねない。
しかしホームはそれを魂の救済者の先端で受け止めた。
剣の先端を剣の先端で止めるなんて超一級の達人でも難しい芸当だ。
そしてその剣の先端同士の衝突による衝撃で飛ばされたのはロビーネ男爵の方だった。
「どうしたのですか、それがあなたの全力なのですか」
「カ……カッコいいですわ」
二人の決闘を見ていた女の子がホームの戦いぶりを見てうっとりしてる。
見た感じはホームと同じ年くらいに見える、彼女も貴族の令嬢なのだろう。
「ローサ、君は一体どちらを応援するのかね」
「あーら、お父様。ワタクシはあのお方が欲しくなりましたの」
「……ローサ、また玩具が欲しくなったのか? だがアレは壊していい下民ではないぞ」
「そんなのわかっておりますわ、ワタクシあの方をお慕い申し上げますの」
「だが奴は忌まわしいゴーティ伯爵の息子だ」
「でしたらワタクシがあのお方をお父様の認める立派な貴族に躾けてご覧にいれますわ」
何やら親子で会話をしているようだが内容までは私のいる場所までは聞こえてこない。
何故なら剣で斬り合う金属同士のぶつかる激しい音で周りの会話が聞こえないからだ。
「テメェ、ウゼェんだよ! さっさと死ねやぁ」
痺れを切らしたロビーネ男爵が足払いをかけてきた。
それを躱したホームだったがロビーネ男爵はその後口から何かを吐き出した。
「! ックッ!!」
いきなりホームの動きが鈍くなってしまった、麻痺毒の含み針か何か細工をされたのだろう。
その後有利だったはずのホームは防戦一方になり後ろに転倒してしまった。
「お父様! 卑怯ですわ」
「ローサ、あれは卑怯ではない。選ばれた私達がする事はどのような事でも神が認めるのだ。卑怯と言えるのは下民が同じ事をやった場合だけだ」
「流石はお父様ですわ、ですがワタクシあのお方が負けるのは見たくありませんわ」
転倒したまま動けないホームの足を踏みつけたロビーネ男爵は剣を突き立てきた。
「その綺麗な顔を二度と見れなくしてやるぜ! まずは目、耳、そして鼻だ!」
だがホームは持っていた魂の救済者を逆に持ち、その柄を上から襲いかかるロビーネ男爵の顔の前に構えた。
「ギャアアアーー!」
汚らしい声で悲鳴を上げたのはロビーネ男爵の方だった、彼は勢いよく襲いかかろうとしたところ、反対にホームの持つ魂の救済者の柄で右目を潰されてしまったのだ。