137 招かれざる客
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私達がヘクタールの屋敷に到着したのはどうやら最後のようだった。
他の貴族達が豪奢な馬車で到着した中、私達は徒歩だったので貴族達は侮蔑の目で私達を見ていた。
「僕は『ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス伯爵』の名代で参りました『ホーム・フォッシーナ・レジデンス』です。ヘクタール男爵卿に父上の書簡を預かってまいりました」
ホームが最も礼儀正しい礼を尽くした挨拶をし、最高級の書簡をヘクタールの手下に渡していた。
「遠路はるばるご苦労様です。ゴーティ辺土伯の書簡、確かにお預かりいたしました」
ゴーティ伯爵は正しくは辺境伯である。
辺境伯と辺土伯、肩書の違いだけではなく、実際の所は伯爵と男爵くらいの違いである。
ヘクタールとその手下はゴーティ伯爵をヘクタールと同等、いや下手すれば下の立場と決めつけておきたいのだろう。
「ご苦労様です。申し訳ございませんが、僕達が最後になりましたのは途中で不死身のアジトという盗賊に襲われてしまったからなのです。まあここにいる僕の護衛が退治してくれましたけどね」
それを聞いた貴族たちの一部に青ざめた顔の者がいたが、それに気づいたのは一部の人間だけだった。
どうやらアジトと組んで奴隷売買をしていた元締めがいるようだ。
ホームはそれを薄々感じつつ、けん制するように笑顔で穏やかに話していた。
「おや、シャトー侯爵夫人の伯母様。何やら顔色が悪いようですが、いかがなされましたか?」
「なんでもありませんわ! それよりわらわは其方に伯母呼ばわりされる筋合いはございません、不愉快ですわ。わらわは少し休ませていただきます」
「おお、シャトー侯爵夫人殿、ワシもお供いたしますぞ」
いかにもといった妙齢の女性と法衣の神父といった男が二人で別室に移動していた。
こいつらは確実にアジトの盗賊団からの奴隷を受け取っていた連中なのだろう。
「面白くねぇ、空気を読めよクソガキが」
「貴方はロビーネ男爵卿ですね。貴方様の武勲の数々は聞いております。どうやらワイバーンを退治したという話だそうで、元騎士団長の父からよろしくと伝えておいてくれとの伝言をお聞きしております」
「ケッ! テメェあの堅物のクソッタレの息子か」
このロビーネという男爵はいかにも武闘派気取りのチンピラといった雰囲気だ
「父上を侮辱する様でしたら許しませんよ」
「ああ、許さなければどうするってんだ? ここでオレと決闘でもするか?」
周りの貴族達がニヤニヤしながらこちらを見ていた、明らかにホームを怒らせて決闘に持ち込んでボコボコに叩き潰したいのだろう。
だが自分達やその手下では自信が無いのでこのロビーネ男爵なら勝てると見た算段だ。
「遠慮致します。私闘は国の法律で禁じられておりますので」
「ああん、逃げるのか? この腰抜け。騎士団長を辞めて引き籠った父親みたく、とっととこの場から失せろや」
「……これ以上の侮辱をするようでしたら、容赦はしませんよ」
「へっ、やる気になったか。まあこれは私闘ではない、祭りの余興の演武だ」
「受けましょう、武器は真剣で大丈夫ですか?」
「元からそのつもりだ、死んでもオレを恨むなよ」
貴族達はロビーネが負けるわけが無いと思っているのだろう。
いわばこの連中は気に入らない伯爵の息子に対して難癖をつけた上、公開処刑を楽しめると思っているのだ。
「貴方こそ、手加減は必要ありませんよ」
「クソ生意気なガキだな、目上の人間に逆らうとどうなるか思い知らせてやるよ!」
ホームが鞘から魂の救済者を引き抜いた。
そしてロビーネ男爵も剣を取り出した、奴の剣はかなり高レベルの魔剣のようだ。
「へへへ、久々に切り刻まれて泣き叫ぶガキの顔を見れるぜ!!」
そして決闘が始まった。