136 公爵派貴族達の嘲笑
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ヘクタールの屋敷には次々と公爵派貴族が到着していた。
「シャトー侯爵夫人様、ご到着―」
妙齢の女性が馬車から降りてきた。
この人物、見た目がレジデンス領の『ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス』伯爵に似た顔の女性だった。
「あら皆様、ご機嫌よう」
「シャトー様、お待ちしておりました」
「いつもながらここは空気が汚いわね、田舎臭いのよ。まるで汚らわしい農民のような臭いがしますわ」
「恐れ入ります……」
シャトーと呼ばれた女性、ゴーティ伯爵に似てるのは見た目だけのようだ。
彼女も典型的な選民思想の公爵派貴族だと言えよう。
「そういえばあの愚弟のゴーティも呼んだんですって?」
「シャトー様、下民でしたらいくらでも罵って構いませんが……流石に弟君をそのような言い方はよろしくないのでは」
「あんな妾の子供、弟と思った事ありませんわ。貴族の嗜みも常識もわきまえない愚か者、なぜあのような者が父君の後継者になったのかしら」
「ご心情お察し致します。もっと後継者に相応しい方がおられたのに、全員お亡くなりで汚らわしい下賤の妾の子が後継者になるなど、許されざる事です」
「だがアヤツ、忌々しいが騎士団長までなりおったからのう。曲がりなりにも生まれが貴族である以上、いくら叩こうとしても埃すら出ないからのう」
この公爵派にとってゴーティ伯爵は忌むべき存在だと言えるのだろう。
「だが今回もゴーティは不参加のようだな」
「我ら公爵派に従わない貴族は邪魔なのだよ。アイツは領民に権利を与える不穏分子だ」
「まったくです、神に選ばれた民とそれ以外の違いも分からない無知蒙昧の愚か者が」
「おお貴方は、イグレシア枢機卿どの、ご到着されましたか」
イグレシア枢機卿と呼ばれた人物は豪奢な法衣を身に纏った聖職者だ。
だが、その中身は獣にも劣る畜生である。
彼は権力を笠に、女子供を神の啓示であると称し自らの慰み者として嗜虐している最低の男なのだ。
「おお、皆さんもう揃いましたか。我ら神の子に祝福を、神の子たる者は神が最後に作りたもうた皆様貴族と我ら聖職者の事です」
辺りから貴族の大いなる歓声が上がった。
それを遠目に恨めしそうに見ている人達がいた、この収穫祭の準備、運用を押し付けられた領民達である。
「貴様らぁ、何故賛同しない! 貴様らは神の子たる貴族に奉仕する事こそ喜びだと学ばなかったのか?」
ヘクタールの私兵がイグレシア枢機卿の言葉に賛同をしなかった領民を剣の鞘で叩いていた。
公爵派の貴族達はそれを眺めて笑っていた。
「ほうら、躾のなっていない家畜は叩いて躾けるのが一番なんじゃ」
「見苦しい、あのような下賤な連中目にも入れたくありませんわ」
「オレは楽しいがな、あんな風に弱い物を踏みつけるとスカッとしねえか?」
豪華な服を着崩した乱暴そうな若い男の発言に公爵派の貴族が賛同していた。
「そうじゃのう、クズが大切にしているものを目の前で壊す、これで泣き叫ぶのがとても愉悦なんじゃ」
「オレは家族のいるやつから妻や子供を取り上げていたぶるのが楽しいんだよ、取り上げた奴らを廃墟で死ぬまで弄んでポイ、後始末はモンスターにやらせればいいからな」
「ロビーネ男爵殿、それではゴミ掃除にならんのう」
「バスラ伯爵、まあ他のゴミ利権なら他の所から仕事をまわしてやるよ、オレの手下はついヤりすぎるんでな」
「パティオ子爵夫妻」「バスラ伯爵」「シャトー侯爵夫人」「イグレシア枢機卿」「ロビーネ男爵」「バンク大蔵大臣夫妻」「ファーム農水大臣」「ストラーダ国土交通大臣夫妻」等公爵派と呼ばれる貴族達が次々にヘクタールの屋敷に到着し、全員が集まった。
「皆様、遠路はるばるお越しくださりまして誠に有難う御座います。わが主ヘクタール男爵が皆様をお待ちです」
そして、そこに最後に彼等にとって招かれざる客である「ゴーティ伯爵」の名代であるホームレジデンス、ルームレジデンスとその召使のユカ達が到着したのだ。