135 公爵派貴族達の談笑
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ヘクタール男爵の屋敷には何台もの豪華な馬車が到着していた。
馬車の中には車輪に血糊らしき物が染みついた物も存在する。
この者達は馬車を走らせて何かを轢いたとしても轢かれた相手が悪いと考える。
むしろ相手が下民だった場合馬車を汚した者の遺族に清掃代を請求するくらいだ。
公爵派と呼ばれる貴族はそういう連中だ。
自らを創世神に最後に作られた者だと自負している彼等彼女等は決して相手に頭を下げない。
首を垂れるのは下々の者のする事、相手に謝らされた者は一生その相手の下になるという間違った価値感を持っているのだ。
「パティオ子爵様御一行ご到着―!」
馬車からは品の良さそうな服を着たいかにも上流貴族といったたたずまいの親子が降りてきた。
両親は美男美女を絵に描いたような長身で金髪碧眼の真っ白な肌で見た目は確かに神か天使と言っても通用するくらい美しい。
そしてその娘がその後馬車から降りた。
この娘、両親と同じ真っ白な肌にアイスブルーの瞳、キラキラ光る金髪に可愛らしいゴシック調のドレスを着ていた。
そんな彼女が馬車から降りた瞬間、降りた場所の泥が跳ねてしまった。
「キャア! ワタクシのドレスに泥が」
「何だと、この馬車係を呼べ!!」
パティオ子爵がいきなり怒鳴り声を上げた。
そして呼ばれた馬車係はいきなり馬車用の鞭で打たれた。
「貴様! 私の可愛い娘を泥が跳ねるような場所に下ろすとはどういう事だ!?」
「お、お許しを……」
「黙れ!!」
パティオ子爵は鞭で何度も馬車係を打ち据えた。
それを見ていた娘は一言父親に呟いた。
「お父様、ワタクシが悪いのですわ。このような下賤の者の無能ぶりを知らずにそのまま降りてしまいましたから」
「ローサは賢いな、そして優しい。このような下賤な者の事を考えるのだから」
「あなた……」
「だが、貴族は謝ってはいかんのだ! 特に下々の者には私達が間違いを躾ける必要があるのだ」
「お父様、わかりました。ワタクシにそれをお貸しくださいませ」
ローサは父親から鞭を受けとり、父親以上に強く馬車係を鞭で打ち据えた。
「ワタクシが間違っておりましたわ。このような下賤の者の事を考えてしまうなぞ」
ローサは馬車係が鞭打たれて倒れてしまったのを更に鞭で打ち据え、足で踏みつけた。
彼女の着ていたドレスは泥どころではないくらい返り血で汚れてしまっていた。
そして何十回も打たれた馬車係は動かなくなった。
「お父様、泥で汚れたこのドレス捨ててよろしいですか?」
「勿論だ、下賤の者と関わった忌まわしいドレスなどすぐにでも捨ててしまいなさい」
「おお忌まわしい……下賤の者の赤い血、汚らわしい」
「お母様……」
「おい、誰か。女の召使を呼んで来い。ローサの着替えをさせるのだ」
「ははっ、すぐ来させます」
「それとその目の前の汚らしいゴミを片付けろ!」
パティオ子爵は目の前の動かなくなった馬車係の死体をヘクタールの部下に片づけさせた。
そしてその後、ローサが召使にドレスを着替えさせて馬車から降りてきた。
別の召使がローサの足元に赤いじゅうたんを敷いて足元の泥が付かない様にしていた。
「お父様、お待たせ致しましたわ」
「おお、ローサ、なんと美しい。まるで美の女神そのものだ」
「いいえ、その言葉はお母様にこそふさわしいですわ」
「まあまあ、この子ったら」
パティオ子爵夫妻とその娘ローサは先程の事など何もなかったかのように優雅な仕草でヘクタール男爵の屋敷に送迎されていた。
「おや、パティオ子爵ではありませんか」
「これはこれはバスラ伯爵殿、お久しぶりです」
「最近、卿はいかがですかな?」
「フフフ、私は最近狩りを楽しんでおりますよ、逃げ惑う娼婦を狩るのが楽しくてね、特に妊婦なんて命を二つ分同時に狩れるのが最高ですよ」
「ほほう、それは良い趣味をしておりますな。ワシは仕事の方が忙しくてのう」
「バスラ伯爵こそ立派ですよ、使い物にならなくなったゴミを領で処分してくれておりますからね」
「まあな、ゴミ捨て場を作るのに逆らった者共を悉く見せしめでゴミにしたら下民共は黙りよった」
この人道的に到底人間だとは思えないような会話を平然としているのが公爵派貴族という連中なのである。