133 リットル村解放記念日
悪代官カンポのため込んだ私財はそのほとんどが売り払われた。
だが奴のコレクション以外の物を私達は売らない事にした。
何故ならどう見ても二束三文にしかならないが本人にとっては大事な物といった物があったのだ。
例えばどう見ても他人には価値の無さそうな子供の玩具や子供が描いたであろう絵などである。
カンポはこういった物すら取り上げていた、奴の考えは『なけなしの物だからこそ取り上げるのが楽しい』といった事だったのだろう。
いじめっ子がそのまま大きくなったような奴である。
だからこそ金にならなくても人を苦しめる為にはその相手の心の支えを奪うのが効果的という嫌な実証ともいえるのだろう。
私の転生前の『トライエニアックス』の社長もそういったタイプの奴だった。
意味も無く相手の大事な物を奪う事でモチベーションを下げる、これは物に限らず気持ちもそういったモノである。
奴が就任してから会社のあちこちに『向上心アップ株式会社』の啓発ポスターが貼られた。
これがどれもこれも綺麗事だけのキャッチコピーしか書いてない上、会社の為にお前らは奴隷になれと言っているような破り捨てたくなるようなポスターばかりだった。
実際トイレに貼られていたポスターを水浸しにして剝がさざるを得ない状態にしてやったのだが、その後わざわざラミネート加工した物を発注する始末だ。
こんなもんに外注で金を払うくらいなら経費での備品購入に充ててほしいとみんな思っていただろう。
私はそういう奴が大嫌いだ、だからこそ意味も無く威張るやつはその鼻っ柱を叩き折ってやりたくなる。
カンポはその典型だったが、奴は自らの持っていた食人植物によって自滅した。
これで奴の持っていた物はその大半を村人に返してあげる事が出来るのだ。
カンポがいなくなった日、私達は奴の屋敷から大量の食材を持ち出し、村人全員に美味しい食事を作ってあげた。
村人は全員が喜び、皆が笑顔でお祭り騒ぎを久々に楽しんでいた。
今後はこの日が収穫祭、村の解放記念日として語り継がれていくのだろう。
◇
次の日、私はカンポの家に村人全員を呼んでみる事にした。
カンポの家の中は元村長の奥さんが案内したので村民みんながカンポに取り上げられたなけなしの物を取り戻す事が出来た。
そしてカンポのコレクションを換金した金は冒険者ギルドの町で全て食材購入に使った。
これがあればお祭り騒ぎが終わった後も来年くらいまで食材は備蓄できる。
水が問題なく使えるようになった村はこの後作物も収穫できるようになるだろう。
後はカンポみたいな悪代官が再び現れない様にその元締めのヘクタール男爵を倒すだけだ。
「ユカさん、ここは俺に任せてください」
フロアさんに考えがあるようだった。
そしてフロアさんは村の近くの動物、とくに猛獣を呼び寄せた。
「村人の皆さんは毎日コイツに餌をきちんと用意してください、そうすればコイツが皆さんの村を守ってくれます」
フロアさんが森から呼んだのはこの辺りの猛獣のボスだったのだ。
このボスにきちんとエサを用意する限りは猛獣達がこの村を守ってくれると約束した。
「オンッ!」
「ガウッ! ガオォン!!」
シートが猛獣のボスと話していたようだった。
多分強い獣同士、お互いの約束を交わしたのだろう。
シートと猛獣のボスはその後、お互いの身体を舐めて親睦を深めていた。
「救世主様、本当にありがとうございます。これでこのリットル村も救われました」
「奥さん。ボク本当は救世主じゃないんです、これが村人に一番理解してもらえそうだと思ったので救世主のフリをしただけなんです」
「いいえ、私達は貴方様に村を助けてもらえました、貴方様は創世神様の遣わせた救世主で間違いありません!」
なんだかむず痒いけど、これで村がまとまるなら救世主やっておくかな……。