125 目論見を叩き潰せ!
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私達は昨日の夜お腹いっぱいに食べたのでぐっすりと眠れた。
これからの季節、もうすぐ冬が来る。
私達の泊まったこの親子の家はお世辞にも綺麗とはいえないボロ屋だ。
どう考えてもこの冬には凍えてしまうであろうくらい隙間風と壁の穴が目立つ。
早くこの領をヘクタールから解放しなければこの親子も餓死でなくても冬には凍え死にしてしまう! 急がなくては。
「お早うございます」
「救世主様、よくお休みになれましたか?」
「はい、それでは朝食を用意しましょう」
私は再度床の一部を泉に変えて朝食用の水を用意した。
そして今朝はマイルさんが植物使いスキルで生やした小麦を元に小麦粉を作り、作りたてパンをみんなで食べた。
「ぼく、こんなおいしいパンはじめてだ」
「ボウヤ、まだまだあるからね」
「ありがとう、おばちゃん」
「お……おば……」
マイルさんが顔をヒクヒクさせていた。
まあ悪気が無いとはいえおばちゃん呼ばわりはお気の毒である。
後ろで笑っていたフロアさんはそのモジャ頭の中にまでマイルさんのゲンコツをくらっていたが自業自得である。
朝食の済んだ私達は作戦を考える事にした。
「あのカンポっての、絶対ロクな事考えてないぞ」
「フィートの奴は絶対に今日何かやらかすよ、アイツは辛抱がないからねぇ」
「では外の様子を見てみようよ」
私達は床を泉から元の床に戻してから外に出てみた。
マイルさんの予想通り、目の前には酷い光景が広がっていた。
「水、水をくれー!!」
「みみみみみず、みず、みずーーー!!」
「あたたたあたしにみみみずをください!!」
「水! 水! 水―!!」
村民のみんながおかしくなったかのように水を欲しがっていた。
誰もが誰も相手を押しのけてでも水を欲しがっている、これは間違いなく異常事態だ。
「ハイハイハイハイ、皆様、水はいくらでもありますよ。ですが、少し値が張りますがね、銀貨五枚でその水差しに汲ませていただきますよ」
フィートがニコニコした顔で昨日より値上げした水を売りつけていた。
後ろでは悪代官のカンポが左うちわで笑っている。
それを見ていたマイルさんが鬼の形相でフィートを睨みつけていた。
「アイツ……! 商売人として絶対にやってはいけない事をやりやがった!!」
「マイルさん?」
「ユカ……商売で一番やってはいけない事って何だと思うぅ?」
「え……と、焼畑商法かと」
「ユカ、よくその言葉知ってたねぇ。その通りだよ!」
焼畑商法、『トライエニアックス』のバカ社長がやっていたやり方だ。
私達は『トライア』時代は堀口さん主導の下“ドラゴンズ・スターシリーズ”以外のゲームも力を入れてゲーム制作をしていた。
だが、新社長は堀口さんを排除し、“ドラゴンズ・スター”ブランドの安売りの劣化リメイク商法と新規のライトユーザー層だけを狙い、古参ユーザーを蔑ろにした客を馬鹿にしたその場で売り切れば良いという信用を溝に捨てた焼畑商法を強引に推し進めたのだ。
焼畑商法で得られるものはその場の金だけ、信頼も古参ユーザーも何一つ残らない。
主導する一部の連中だけが儲かり、他の誰もが不幸になるのが焼畑商法である。
「アイツは昔からそうだ。自分のアイデアで売れば何でも売れると勘違いして人の求める物ぉ、幸せになる物を売ろうという気持ちが欠片も無い、売れればそれでいいのさ」
「酷い……!」
「どうせ水差しの中に依存性のある草を入れて売ったんだろう、アイツはあーしがその草の取引をやめさせたのを逆恨みしていたからねぇ」
だが今は証拠が無い上に今は人が群がりすぎていてあの状況を止めるのは不可能だ。
それなら私達の出来る事で奴らの目論見を叩き潰してやるしかない!!
まずは村の水源を確保して水を取り戻すのが先にやるべき事だ。
「みんな、村の外に行くよ!」