124 ユカ 救世主になる
私が床を綺麗な泉にスキルでマップチェンジをしたのを見た親子はとても驚いていた。
「かあちゃん、水だよ! 水だよー!!」
「あ……貴方様は救世主様、神様なのですか?」
「いいえ、ボクはタダの冒険者ですよ」
「いいえ、貴方様は救世主様です」
母親は子供と一緒に私に深々と頭を下げたまま上げようとはしなかった。
少し困った私は一芝居打つことにした。
「仕方ありません……隠していたのですが、貴女方にはわかってしまったようですね。そうです、私は貴女達を救う為に創世神から遣わされた者です」
「まさか、ユカ様が……救世主だったとは。私知りませんでしたわ」
「ルームちゃん、芝居、芝居だってばぁ」
マイルさんは私がこの場を収める為に芝居をしていたのがわかっていたようだ。
「祝福の時などというものは邪悪な者が正しき人を惑わすために作った偽りに過ぎません。むしろ私達の祝福を受けるべきは貴女達のような正直で日々生きている人達なのです」
「救世主様。ありがとうございます、ありがとうございます」
「さあ、顔をお上げください、私達と一緒に美味しく食事をしましょう」
こう言っておけば自分達は食べずに我慢するという間違った道徳観を拭い去る事もできるだろう。
「救世主様、それでは不肖ながら僕が皆様に食事を作らせていただきます」
ホームはノリノリである。この状況を楽しんでいるようだ。
そしてホームはエリアのおかげで新鮮に戻った野菜と持ち合わせの干し肉を使い特製シチューを作った。
「かーちゃん、ぼくこんな美味しいもの生まれて初めて食べたよ」
「これは……レジデンスで収穫祭の時にいただいた物と同じ、生きているうちにまた食べる事が出来るとは思っていませんでした。姉さん達にも食べさせてあげたかった」
親子は私達の用意した食事を、二人共涙を流しながら食べていた。
そして、私達も一緒に全員で食事をしたのだ。
そして寝る前に他の人に見つかると厄介な事になるので、私は泉にした床を元の床に戻しておいた。
◆◆◆
ここはリットル村の代官、カンポの屋敷である。
「美味い! こんな美味い物が食えるとはなぁ」
「カンポ様、いかがですか? これはミクニ産の調味料でショーユというものです」
「すばらしい、そして何よりもクズ共が飢えている事を考えながらワシだけが美味い物を食えるという事がさらに食欲を増すのじゃ!!」
「そうですね、まあ自分もご相伴にあずからせていただきますが」
「なあに、そなたは特別な客じゃ、しかし一つだけ気がかりがあってのぅ」
フィートはニヤリと笑って酒をあおった。
「ご心配御座いませんよ、水税よりも確実に儲けられますから」
「なに、それは本当か!」
「はい、あの水差しの中には中毒性の高い草の粉末が入っておりまして、そしてあの水差しは吸水性の高い石を底に埋めております」
「むう、それはどういう事なのじゃ?」
「依存性の高い水、しかし中身は知らないうちに水差しの底に吸水されていて次の日にはほとんど残らない、つまり村民共はいくら高くても水を欲しがるというわけです」
それを聞いたカンポは大口で肉をかじりながら笑っていた。
「流石はポディション商会じゃな、それで今度は水を高く売りつけるわけか」
「はい、これですと強制的な水税よりも自主的に村民共は高くても水を買う、つまりは水税を取るよりも大きく搾取出来るわけです」
「それは素晴らしい! 農民と油は搾れば絞る程出るからのう。絞り切って出なくなれば別の場所でまたやればいいだけじゃ。そろそろヘクタール様に配置換えをお願いするかのう」
この二人は村が滅びるまで村民から全てを絞りつくそうとしているのだ。
「おぬしもワルよのう」
「いえいえ、カンポ様ほどでは」
外道二人の会話は深夜遅くまで続いた……。