122 水の枯れた村
この国の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨で成り立っている。
銅貨が1000円、銀貨が10000円、金貨が100000円、白金貨が1000000円といったところだろう。
銅貨以下は物々交換でも成り立っている。100円相当の物なら物々交換で十分なのだ。
まあ正しく銅貨=1000円というわけではないが、それくらいで取引されていると言える。
この親子は銀貨一枚すら持っていないので目の前の水を買えないのだ。
しかし水ボトル1本10000円相当ってのもかなりぼったくりではあるが、それくらい水不足だともいえる。
「もしよろしければ、ボクの水をあげましょうか?」
「本当に!! あ……ありがとうございます、ありがとうございます」
母親は何度も何度も頭を打つくらいに私に頭を下げ続けた。
「かあちゃん……水」
「母さんは良いのよ、お前だけでもお飲み」
「……良ければ僕のを差し上げます」
「私のも差し上げますわ」
みんなが水を親子にあげようとしていた。
「こんなに……ですが私等にはお返しできるものなど何もございません。こんなに多くいただけません」
そこまで言われても困るんだが、何故ならこの水は私がマップチェンジで用意した泉から全員分を汲んだものなので元手はタダなのだ。
「大丈夫ですよ、何か返して欲しいわけじゃありませんから」
「では……せめて私等の家に泊まっていってください。何もありませんがせめて……」
「わかりました、それではお水のお礼としてそのお気持ちお受け取りします」
村は水差しを買った村人たちが全員家に帰った後だった。
あのフィートという商人は代官の屋敷に招かれて行ったらしい。
◆
「何もない所ですがせめてお休みください」
「お邪魔します」
私達は親子の家に泊まらせてもらう事になった。
「旦那さんは?」
「生憎の落盤事故で……」
聞いてはいけない事を聞いてしまったかな。
「すみません……」
「いいえ、もう過ぎた事ですから」
彼女の話を聞くとどうやら元々このリットル村は貧しいヘクタール領の中では珍しく水が豊かで作物の取れる村だったそうだ。
しかし、水源に住み着いたモンスターのせいで水源地には近寄れなくなってしまった。
そうなると途端に水は枯渇してしまい、そこに運悪く就任した代官があのカンポだったそうだ。
カンポは井戸を掘る為の工事を強制させ、掘り当てた井戸は工事にかかった費用として重い水税を取るようになったのだ。
そして彼女の旦那さんはモンスターのいる水源から水を引くための水道工事の最中に落盤事故で帰らぬ人になってしまったらしい。
「胡散臭いですわね」
「ルームもそう思うか、僕もだ。そのモンスターが代官に用意されたものだとしたら?」
「十分考えられますわね、水を与えない為にモンスターを野放しにする」
確かに私も胡散臭いと思う、どれもタイミングが狙ったかのように重なっているのだ。
水税、現代日本でいえば水道代と言えるだろう。確かに水道代は必要だ。
私は“ドラゴンズ・スターシリーズ”の開発のクライマックスで家に数か月帰れない時があった。
ホテル暮らしや会社泊まり込みがずっと続き、久々に家に帰ると電気ガス水道の全てが止まっていた事もある。
まあこれは本来の利用料金滞納なので止められても文句は言えないが、このリットル村の水税は理不尽だ。
「私達は年間金貨一枚の水税を払えないと村を追放されるのです……」
「酷い……!」
「私の姉も一週間程前、水税を払えず村を追放されてしまいました」
そう言っていた女性の胸元には小さなペンダントがあった。
「失礼ですが、その胸元のペンダントはどうされましたか?」
「え? これですか」
「そうです、ボク達が会った女性が同じ物を持っていたのです」
「姉さん! 姉さんは無事だったのですか!?」
あの最後に子供の水を欲しがった母親は彼女の姉だったのだ!
「実は……」