121 望まぬ再会
私達は剣を構えた、シートとシーツの二匹もかかとを叩いてゾルマニウムクローを引き出していた。
この程度の兵士の数ならあっという間に片付くだろう、そう思ったのだが……。
「皆様、こんな儲けにならない事やめませんか?」
謎の人物が現れ、私達に襲いかかろうとした兵士を止めたのだ。
「おお、あなたはこんな所に何故?」
「自分は商人です、儲け話のある場所でしたらどこでも現れますよ」
私達の前に現れた男は代官と親しげに話しをしていた、その男を見たマイルさんの表情が普段見ない程険しくなっていた。
「……貴様は……フィート……忘れたとは言わせねぇ」
「おやおや、そちらにおられるのはマイル様ではありませんか。お久しぶりでございます」
「貴様……よくもまあ私の前におめおめと姿を見せたなぁ……」
「貴女こそ、没落して賞金稼ぎに落ちぶれたと聞きましたが」
マイルさんはフィートの挑発に全く表情を出さなかった。
これが商売用のポーカーフェイスというのだろうか。
「言いたい事はそれだけかぁ? 強いと思った相手に信念も無く媚び諂う貴様程落ちぶれてはいないがな、ゲスがぁ」
マイルさんが普段とは全く違う口調だ、目つきもまるで違う。
「フフフ、負け犬ほどよく吠えますねぇ。私は今やポディション商会の若頭です。ヘクタール男爵とのやり取りは全て私が請け負っているのですよ」
このフィートという男、自分がヘクタールと組んで悪徳商法をやっていると恥じる事も無く堂々と宣言していた。
「さて、カンポ様。ここは私にお任せいただけますか?」
「おおう、フィート殿。あなたが来たという事は何かいい儲け話があるのですな」
「ええ、そうです」
そう言うとフィートは荷車からポンプらしき物を取り出した。
それを井戸の横に設置したのだ。
「これは魔法道具のポンプと呼ばれる物です。これは土地にある水の元素を集めて吸い出す事が出来るのです」
「おお、これは素晴らしい!!」
「カンポ様、無い所から水税を搾り取るよりはこれで水を売った方が大きく儲ける事が出来ますよ」
「じゃがこんな物があると水税が取れなくなるじゃろうが……」
「ここは自分にお任せ下さい」
フィートはコップと水を入れる器を二つ取り出した。
そしてコップに水を、水を入れる器にも同じように水を入れた。
「皆様、ご覧ください。土地の水の元素は普通のコップには溜まりません」
魔法のポンプから汲んだ水はコップに入る前に気化してしまい、コップは空っぽのままだった。
「ですがこの魔法で加工された特殊な器に入れると」
魔法のポンプから汲みだした水は水差しの中になみなみと注がれた。
そしてフィートはその水を代官に差し出したのだ。
「うむ、美味い! これは最高の水だ!」
村中の人間が集まり、渇望の眼差しでポンプと水差しを見ていた。
「私は商人です、本来これはとても高価なものなのですが今ここにいる皆様に特別価格でご奉仕させていただきます。なんとこれ一つで銀貨一枚! 早い者勝ちですよ」
フィートの宣伝の直後、村人は集団で押し寄せ我先にと銀貨一枚で器を買っていた。
「……こんな事したらせっかくの水税が取れなくなるではないか」
カンポは徹底して水税を取ろうと考えているようだ。
「カンポ様、大丈夫ですよ、私にお任せ下さい」
マイルさんがフィートを睨みつけている。
「気に入らないねぇ。あの守銭奴が銀貨一枚で満足するわけがない」
「マイルさん、それは……どういう事ですか?」
「アイツは間違いなく尻尾を出す、それまで待つしかないねぇ」
村人が銀貨一枚を握りしめ水差しを買い占める中、先程の親子連れはそれを眺めているしかできなかった。
「かあちゃん、おれ、水飲みたいよ」
「ゴメンね、うちは貧乏で水差し一つ買えないんだよ……ゴメンね。ゴメンね」
子供にしがみつき母親が泣いている。
私達はとてもそんな親子をそのままにしておくわけにはいかなかった。