120 水を求める親子
◆◇◆
ヘクタール領の寂れた街道を歩き続けた私達は村にたどり着いた。
しかしそれまでの道のりでは色々と見たくない物を見てしまう事になった。
行き倒れた埋葬されないいくつもの屍、それらの一部を咥えたやせ細った野良犬やモンスター。
動けず物乞いをする家族連れ、私達から金目の物を奪おうと襲ってくる野盗。
どれも伯爵領では普段まず見かけないものばかりだった。
「酷すぎる……ここは地獄なのか」
「為政者が無能で悪徳だとこうなるのか……父上の言った通りだ」
「私許せませんわ……ヘクタールをぶっ飛ばしてやりますわ!」
あまりの凄惨さに私達の誰もが怒りと悲しみの混ざった複雑な感情を抱えていた。
その道のりの果てにあったのが今たどり着いた村というわけだ。
◆
村に入った私達が最初に目にしたものは兵士に叩かれる女性と泣き叫ぶ子供だった。
「貴様! 夜中に無断で水を汲もうとしたな!!」
「ひいぃぃ! おゆるしを、この子に少しでも水を与えたくて」
「かあちゃん、かあちゃあぁあん!!」
どうやら水を勝手に汲もうとしたという事で見せしめにされているようだ。
しかし誰一人として彼女を助けようという人はいなかった。
「酷い……」
「許せません! 領民を虐げるなんて!!」
「ホーム、落ち着こう。ここは一旦様子を見ないと」
「ユカ様! あんなに苦しめられている親子をそのままにするのですか!? 私許せませんわ!!!」
「ルーム! 待つんだ!!」
「およしなさい!! 今すぐにその女性から離れなさい!!」
「なんだこのクソガキは!?」
ルームは正義感が強いのだが頭に血が上ると考えずにすぐに行動をしようとする。
まあそれが悪い事ではないのだが、今はタイミングが悪かった。
「アナタ達のようなクズに名乗る名前などありませんわ!!」
「なんだと、このクソガキ! 傷めつけて奴隷として売ってやろうか!!」
「あら、語るに落ちましたわね、奴隷商売までやってますのね。これはオシオキ確定ですわ!!」
ルームが嬉々として魔獣使いの杖を振りかざした。
やりすぎなきゃいいんだが……。
「ルーム、やりすぎないでね」
「大丈夫ですわ……人間相手ですから手加減はきちんとしますわよ」
「おらぁ! クソガキ、大人に逆らうとどうなるか教えてやるぜ!!」
「ナム!」
「!!?」
私はルームがファイヤーウォールやサンダーボルトを使わないか不安になっていたが、ルームは相手を痺れさせる程度の麻痺の初級魔法をかけただけだった。
しかし魔獣使いの杖と魔力増幅のサークレットのおかげでその効果は複数人の指定が出来た上で魔法をかける事ができたのだ。
「そこでしばらく頭を冷やしなさい」
ルームがドヤ顔で兵士を見下ろしていた、しかし事態はその後悪化したのだ。
「カンポ様! コイツらがオレ達に逆らいました!!」
「なんですと、それは許せませんねぇ。クズのくせにヘクタール様の代官であるワシに逆らうとは」
私達は知らないうちに馬に乗った代官とその兵士十数人に囲まれていた。
まああの数十人、百人近くの盗賊との戦いに比べればレベルも装備も今の私達にはザコでしかないが一旦様子を見よう。
「お前は誰だ!!」
「口の利き方に気をつけなさい無礼者、ワシは代官のカンポじゃ。このリットル村の支配を任されておる、ワシの言葉はつまりヘクタール様の言葉。ワシに逆らう者はヘクタール様に逆らうのと同じなのじゃ」
もう典型的な悪代官といった奴が出てきた。
このカンポ、馬の上から落馬しそうなくらいのバランスの悪いデブで私は思わず吹き出しそうになっていた。
「貴様ら、ワシの水を勝手に飲もうとした罪人を助けたそうじゃな」
「それがどうした!!」
「罪人をかばう者はそいつも罪人じゃ、よって貴様ら全員死刑にしてやる」
無茶苦茶な論理だ、そんなもので死刑にするなんてイカれているとしか言えない。
そして私達に武器を持った兵士達が攻撃してきた!