111 鍛冶屋ターナの約束
収穫祭は最終日になっていた。
流石に最終日にもなると遠くから来ていた村や町の人達は帰省準備をしていた。
「ユカ様。私達も冒険者ギルドへの荷物を運びます」
「うん、途中までは一緒ですね」
私達は商隊と共に冒険者ギルドまで行く事にした。
ヘクタール領との関所から一番近いのが冒険者ギルドのある街なのだ。
私がワープ床を作れば簡単に移動が出来るがこれは出来るだけ最終的に困った場合にだけ使うべきだろう。
商隊の旅準備は後数時間かかるようだったので私達は一旦伯爵の城に戻る事にした。
「バスティアンさん、この城の中で普段使わない部屋はありますか?」
「ユカ様、普段使わない部屋でしたら亡くなられた奥様の部屋と物置小屋になっている部屋がありますが」
流石に亡くなった奥さんの部屋にワープ床を作るのはあまりにも失礼すぎるので私は物置を使わせてもらう事にした。
「わかりました、物置小屋に案内していただけますか?」
「承知致しました」
私はホーム、ルームの二人と一緒に物置小屋に行く事にした。
他の仲間とシートとシーツは応接の間で待ってもらっている。
「けほっけほっ、いつ来てもカビ臭くて埃まみれですわ」
「ルーム、普段使わないからだよ、ここまで掃除は行き届いてないからね」
むしろその方が好都合だ、入る者がいないと秘密が守れるからである。
「物置小屋の床をワープ床にチェンジ!!」
「ユカ様、凄いですわ!!」
これで以前ルームが作ってほしいと言っていたワープ床を伯爵の城に用意する事が出来たのだ。
このワープ床のある物置小屋の鍵は伯爵本人かレジデンス兄妹しか持っていない。
それなのでこの秘密を知っているのは私とごく少数だけだ。
「これでいざという時はここに戻ってこられるよ、でもそれは最終手段だからね」
「承知致しましたわ。普段から便利なものに頼ってしまうと後々が大変ですものね」
ルームは普段強気な態度をしているがこういう際には思慮深く考える事が出来る、これは伯爵の教育が良かったからなのだろう。
「よし、では行こう!」
私達は物置小屋の鍵を閉め、冒険者ギルドに向かう事にした。
これで内側から入れば中からは開けられる状態を確保した、反対側は冒険者ギルドの特別室に作らせてもらおう。
「では出発だー!!」
◇
冒険者ギルドに到着した私達はターナさんの鍛冶屋に向かった。
「ユカ! 待ってたよ」
「ターナさん、お久しぶりです」
ターナさんには一通りの素材を渡したのでそれを加工してもらっていたのだ。
収穫祭が終わる頃には完成すると聞いていたが……彼女は約束通り全ての加工を終わらせてくれていた。
「このローブは……エリアちゃんの分ね」
ターナさんがエリアの為に用意してくれたのはレジストの宝石をいくつも魔法の糸で縫い込んだ防魔のローブだった。
「私……これを?」
「ああ、アンタは戦う力が無い、ならばせめて防御だけは徹底した方が良いからね」
死、精神、光、闇、呪いのデバフ系のレジスト宝石を縫い込んだローブは一切のデバフを受け付けない最高の装備になった。
「アンタにはこれだね」
「これは……凄い! こんな軽くて硬い鎧が存在するなんて!!」
ホームには私と同じ古代金属ゾルマニウムを使った鎧を特注サイズで仕立てていた。
「アンタが大きくなったらそれに合わせてサイズも変えてやるから、大事に使いなよ!」
「有り難く頂戴致します! このご恩は決して忘れません!」
ルームが羨ましそうに見ていた、このやり取りを見るのも何度目だろうか。
「あ、そうそう。アンタにも良い物あるからね」
「本当ですか!?」
ルームの目がキラキラしていた、何がもらえるのかとワクワクしているお子様の目だ。
「はい、アンタにはこれだよ」
「これは……とても素晴らしいですわ!」
エリアがルームに用意したのはサークレットだった。
中央部分には魔力集中の宝石が埋め込まれており、その周りは私やホームの鎧と同じゾルマニウム製だった。