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110 伯爵の通行証

 伯爵は静かにお茶を飲んでいたがその怒りは私達にひしひしと伝わっていた。

 私達は執事のバスティアンさんが用意してくれたお茶をいただきながら伯爵の通行証を待ってきた。

 先程の慇懃無礼な招待状はその際に見せてもらったものだ。

 伯爵はお茶を飲み終えるとペンと紙を用意し、私達の人数分の通行証の記入を続けて書き始めた。


「皆様、ご覧いただきましたか?」

「はい、見ました」


 伯爵はとても冷静だがその目は確実に怒っていた。


「私はですね、男爵に自分の事を馬鹿にされた事で怒っているわけではありません」

「はい、わかります」

「あえて爵位を間違えて書いたのも、自身を高める事の出来ない無能による意図的で稚拙な嫌がらせという事もわかっています」

「それでは一体何に」

「奴の破廉恥な態度が許せないのです。奴は事もあろうに我が領民を人質に取り、収穫祭と称した奴の就任記念式典に来なければ自領で勝手に処罰すると言っているのです」

「何だそれ、ヤクザかチンピラか?」

「……私にはその言葉の意味はよく分かりかねますが、奴の傲慢な有様が私には許せません、奴は人質を返して欲しければ私に出向いてこいと言っているのです」


 つまり、ヘクタールは手紙でわざと慇懃無礼な招待状を送りつけてきておいて、盗賊にお前の所の領民をさらわせたので、返して欲しければ直接身代金を持ってお前が出てこいと言っているのだ。


「あの手紙の字を見てすぐ分かりました、あの字の特徴は私の所の書士のアマニュエの字と全く同じでした。彼が攫われた一行の中にいたのは間違いありません」

「それで人質を返して欲しければ伯爵様に出てこいと言っているわけですね」

「奴の目論見はわかっています。公爵派の貴族を全員集めた式典で私を田舎者と馬鹿にして自身の溜飲を下げたいだけなのですよ」


 なんというか、私はヘクタールという人間のレベルの低さを聞いて『トライエニアックス』のバカ社長を思い出した。

 奴も自身を偉く見せる為に必要もないのに部下をこき使ったまま自分だけ出席したパーティーで周りにアピールする無能そのものだった。

 レベルの低い人間というのは時代や世界が違っても同じようなものなのだろうか。


「おっと、いけない。話しながら作業するものではないですね……」

「いえ、ボクこそ気を散らせてしまい申し訳ありません」

「いや、これは私のミスです。もうしばらくお待ちいただけますか?」


 伯爵は通行証のサインを書いている際に冷静さを欠いた事でペンのインクが滲み、サインを書き損じてしまったようだ。


「バスティアン、この紙を洗って再度使えるようにしてくれ」

「承知致しました、旦那様」


 この世界の紙とは羊皮紙の事が大半である。

 植物性の紙もあるがそれらは輸入品が大半でそれも海を隔てた島国、ミクニからの高級品だそうだ。


「皆様、少しの間公務に集中しますのでご容赦下さい」

「わかりました」


 伯爵はその後人数分の通行許可証を用意してくれたのだった。


「父上! 僕達の通行許可証はいただけないのでしょうか?」

「ホーム、君達には別に持って行ってもらう物があるから少し待っていてくれ」


 そう言うと伯爵は棚の上の方の高級な木で出来た箱を用意した。

 中に入っていたのは……見るからに高級な紙であった。


「凄い! こんな高級な紙ぃ、見るの久方ぶりだわぁ」

「マイルちゃん、これはミクニ産の草木から作られた紙だよ」


 流石は伯爵である。無礼な態度を示した相手にあえて最高級の返事をしようというのだ。


「私がホームとルームの二人に私の特使としてヘクタール領に行ってもらうので、その為の男爵に渡す書状を用意する。これを持ってヘクタールの所に行ってくれ」

「父上、承知致しました!」

「お父様、わかりましたわ」


 ホームとルームの二人の通行許可証が無い理由が分かった。

 二人にはゴーティ伯爵の特使として書状を持ち関所を通らせるのが目的なのだ。


 さあ全員でヘクタール領に行くぞ!

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