106 二匹(ふたり)は双子 戦う双子
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ゴブリンのレベルはせいぜい6、ホブゴブリンで10といったところである。
しかし双子の狼の赤ちゃんはまだ生まれてあまり経っていない。
恵まれた体格で生まれてきたとはいえ、レベル10の力を発揮できていないのだ。
「ガルルルル……」
「ガガギャギャギャー!」
「グエグエグエェー」
シートは妹を守る為に戦う事を決意した。
敵はゴブリンが六体、ブラッディーウルフが二体である。
先程の体当たりで一体が死んだので残りはゴブリンが五体である。
「グオオオ!」
シートはその体でゴブリンに飛びかかった!
しかし戦いの経験は未熟というよりほぼ皆無なのであっさりと避けられてしまった。
「ギャギャギャ!」
攻撃を避けたゴブリンが笑っている。
他のゴブリンがシートに石を投げてきた!
シートは避けれず体に石が当たった。
「キャウン!」
石が当たったシートは痛みを感じた、銀色の毛皮に血が滲みだした。
「クウウウ……グルル」
だが痛みで泣き出す弱虫はもうそこにはいない、ここにいるのは傷つきながらも妹を守ろうとする頼もしい兄だった。
「ガウウウウ!」
シートは低く体を構えた、攻撃が当たらないので相手を待ち受けようというのだ。
これは聖狼族の持つ戦いの遺伝子がもたらした行動だと言えよう。
「ギャギャーーー!!」
ゴブリンが棍棒を叩きつけてきた、シートはそれを待ち構え、まだ歯も生えていない口でゴブリンの手を噛んだ!
「ギャギャギャー!!」
そして相手の力を利用し、口で手を咥えたまま棍棒を振り下ろしてきたゴブリンを地面に叩きつけた!
ベキャッとゴブリンの腕の骨が折れた音が聞こえた。
「ガウウウ!」
そしてシートはその倒れたゴブリンに全力で真上からのしかかった。
ゴブリンは頭の骨を折られ、即死だった。これで残り四匹である。
「ゥキュウゥン……」
シーツは自らの痛みを忘れ、兄の戦う姿を見ていた。
そんなシーツにも体の奥底から湧き上がる熱い何かが感じられたのだ。
聖狼族の戦う遺伝子はシーツにも存在している。
「グルルガアア!!」
ゴブリンがブラッディーウルフに手で何か指示をした、殺せと言ってるようだ。
そしてシートに二匹のブラッディーウルフが襲い掛かってきた。
シートはその二匹に前後から囲まれた。
「グクゥゥゥ……」
二匹が同時に襲い掛かってきた! そのタイミングを狙ったかのようにシートは体を低く身をかがめた。
牙をむき出しにして全力でシートに噛みつこうとしたブラッディーウルフは二匹がお互いを噛み殺しあってしまいどちらも自滅した。
これで残りはゴブリン4匹だ。
「ガギャギャギャー!!」
ゴブリンは悔しそうだった。
ご馳走と思っていた相手に仲間が何匹も返り討ちに遭っていたのだ。
だが目の前のご馳走を逃したくないゴブリンは棍棒をやたら滅多に振り回してきた。
その棍棒が運悪くシートの顔面に当たった!
「キャウン!!」
シートは顔を攻撃されて転がってしまった。
いくら強くなろうとしても痛い物は痛い、シートは痛みを受けてゴロゴロ転がってしまった。
「ゲゲゲゲギャー!」
それを見てゴブリンがニヤニヤ笑っている、今度こそご馳走をいたぶれると思っているのだ。
「クゥゥゥ……」
シーツはそんなシートを見ていた、このままではお兄ちゃんが殺されてしまう、そう思ったのだろう。
そして彼女はとっさの行動に出た!
「ギャーーーン!!!」
シーツはゴブリンよりも大きな自分の身体を使い、シートの前に飛び出してから自らの身体を思いっきり回転させたのだ!
レベル10相当の回し蹴りは二匹のゴブリンを同時に蹴り飛ばした!
彼女にも戦いの天才の遺伝子が存在したのだ。
「グルル……」
そんな妹の姿を見てカッコ悪いところを見せられない!
シートは顔から流れる血を無視して起き上がった。
二匹で一緒にゴブリンと戦う為である。