105 走った 転んだ 戦った!
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森の守護者、聖狼族は最強の獣の種族である。
レベルが上がると40以上になり、ドラゴンすら噛み砕く事も出来るほど強くなる。
しかし、生まれたばかりの赤ん坊になるとそうはいかない。
いくら最強の種族とはいえ、赤ちゃんだと肉も皮も柔らかく、牙も生えそろっていない。
それはドラゴンでも同じだ、最強の種族であるドラゴンも卵から孵ったばかりの雛は生まれた場所が悪いと別の大型の生き物に食い殺されるのだ。
「クゥゥーーーン」
虫を追いかけていたシーツは虫を見失ってしまい、悲しそうな鳴き声を出していた。
しかし、それが災いとなった。
その鳴き声をたどり、数匹のゴブリンがシーツを草むら越しに囲んでしまっていたのだ。
「ゲギャギャギャギャーーーー!!」
「ゲヘゲヘゲヘーー!」
シーツは生まれて初めて見るその生き物が何なのかわからずきょとんとしていた。
彼女はまだ敵の存在を知らないのだ。
「アンッ! アンッ!!」
シーツは何だかわからないけど鳴いてみた。
だが、目の前の生き物は気味の悪い笑いをしながらよだれを垂らして棍棒を構えた。
「キャンッ! キャンッ!!」
そこに追いついたのがシートだった、しかし彼も敵が何かを知らない。
ゴブリン達はご馳走が増えたと喜び、下卑た笑いをうかべていた。
「ゲゲゲゲギャー! ギャギャギャー!!」
リーダーと思しきゴブリンがシートに殴り掛かった!
しかし、とっさのとこでシートは身をかわした、生存本能が働いたのだろう。
「ギャンッ! ギャキャン!!」
「キャウウーン……」
二匹の兄妹はこの時、初めて命の危険と恐怖という感情を知った。
しかし……まだ戦う事を知らない二匹は、一緒に逃げる事を選んだ。
「キャウウーン!!」
シートを追いかけてシーツも逃げ出した!!
その後ろからはゴブリンが追いかけてきた! 中にはブラッディーウルフに乗った個体も存在する。
ブラッディーウルフは野犬が魔素でモンスター化したものだ、サイズ的にはシート、シーツよりも一回りは大きい。
そして、ブラッディーウルフは双子を追いかけ、あっという間に追いついてしまった!
「! キャアアーン」
ビックリしたシーツは思わず転んでしまった。
そんなシーツをゴブリンとブラッディーウルフが襲った!
「ギャンッ! キャーーーン」
シーツの白い毛皮にゴブリンの振るった棍棒とブラッディーウルフの牙が襲い掛かった。
白い毛皮に血が染まっている、幸い致命傷は避けたがシーツは痛くて動けないようだ。
「ウウウゥウ……グゥウルルウ……」
シートはそんな妹を見ている事しかできなかった、足がすくんで動けないのだ。
そして動けないシーツをゴブリンが叩きだした、シーツは痛みで泣いていた。
「キャウンキャウン! キャキャーーーン……クゥゥゥ」
「ウウウウゥゥゥ……グルルルガア」
シートも泣いていた、怖いからではない。自分の意気地無さを初めて痛感したのだ。
ぼくに力があれば……そんな風に思っていたのかもしれない。
「ゲゲゲエーー!」
動けないシートの頭目掛けてゴブリンが棍棒を叩きつけようとした!
その時、シートの頭の中で何かが弾けたような気がした!!
「ギャオオオオーーーーン!!」
シートが全力でゴブリンに全力で体当たりをした! レベル10相当の体当たりだ。
ゴブリンは吹っ飛ばされ、岩に体を打ち付けられて即死した。
「グルルル……! ガアアアーー!」
そこには既に妹に泣かされる弱虫な負け犬はどこにもいなかった、猛々しい小さな獣王がそこにはいた。
彼は妹を守る為に一匹でゴブリンの群れと戦う事を選んだのだ!
「ガオオオオオ!」
その雄たけびは双子を探すユカ達にも届いた。
「あの鳴き声は!」
「アレは……シートじゃないのか」
「急ごう!」
ユカ達は大きな雄たけびの聞こえた森の奥の方に向かった。