104 はじめてのおさんぽ
収穫祭も三日目である。
流石に祭りが楽しくても毎日だと私を含めてみんな疲れてきた。
「今日はお城でゆっくりしてて下さい」
「ホーム、ありがとう」
私たちは応接室を広く空けてもらい、そこで双子の狼を世話しながらゆっくりしていた。
目のパッチリ開いたシートとシーツは二匹で転がりながらじゃれあっていた。
銀色の方が兄のシート、真っ白い方が妹のシーツである。
「キャンッ! キャンキャン!!」
聖狼族は生まれた時から体が大きい。
私の目の前の双子の赤ん坊ですら大型犬くらいのサイズはあるのだ。
成長した銀狼王ロボとブランカの大きさはロボで全高4メートル程、ブランカで3.5メートル程はあった。
この双子もいずれはそれくらい大きくなるのだろう。
「キャインキャインッ」
「アンッ! アンッ!! ガウゥ!」
どうやらシートがシーツのしっぽを踏んでしまい、シーツが怒ってしまったようだ。
「キャウゥン……」
シートがシーツに叩かれて泣いていた、とてもこの可愛らしいのが銀狼王の子供だとは思えない。
しかし毛並みは立派に父親のロボそっくりなのだ。
だが、このシート、かなりの弱虫だった。
「キャンキャンッ」
「あら……こっち来たのね」
シートはエリアの胸に飛びついて尻尾をパタパタ振っていた。
「フフフ……甘えたいのね」
それを見ていたフロアさんが何だか少し考え込んだ表情をしていた。
「いかんな……このままでは」
「? フロアさん、どうしたのですか」
「いや、ユカさん。このままでは野生を知らずにただの大きな犬になってしまう危険性がありまして」
「確かに……そういえばそうだ」
私は“ドラゴンズ・スターⅤ”の獣王ボロンゴのエピソードを思い出していた。
ゲーム後半では魔法すら使い、その攻撃力は魔王の守備力すらも上回る最強の仲間だったが、最初に子供にいじめられていた変な猫と思われていた時は弱虫でずっと泣いていたのだ。
しかし主人公と生き別れになり、野生を知らないで育ったはずのボロンゴはそれからしばらくの後、辺りの獣を全て統治する最強の獣王として主人公の敵となり立ちはだかったのだ!
その後、主人公との死闘の中で彼がかつての飼い主で仲間だった事を思い出したボロンゴは最強の使い魔として主人公にエンディングまで付き添うことになった。
「野生を取り戻す……か」
その為にはこの双子を外に出す必要がある。
この双子は生まれたばかりではあるがレベル的には10前後といえる、普通の冒険者では苦戦するくらいの強さだ。
しかしまだこの双子にはその強さも自覚も野生も足りない、ここは心を鬼にして一度外に出た方が良さそうだ。
「みんな、一度外に行こう」
「ユカ?」
「この子達はもう目が開いた。だから抱っこせず、この子達自身に歩かせよう」
「ユカ様……」
「危険ですからアニスさんはここで僕たちの帰りを待っていてください」
「アニスさん、大丈夫です。俺が銀狼王の子達を見てますから。この子達には野生が必要なんです」
「……わかりました、お気をつけて」
私たちは城を出て人気の少ない森の入口の方に向かった。
シートとシーツは最初少し怯えていたが、初めて見る自然に興味を示し、少しずつ走り回っていた。
「キャンッ! キャンキャンッッ!」
シーツは空を飛んでいた虫を見つけ、興味津々で追いかけまわしていた。
「シーツ! 危ないよ!!」
「キャンッ!!」
シーツは虫を追いかけて森の中へ中へと入ってしまった。
シートはそのシーツを追いかける形で同じように森の中に入っていた。
「ふたりとも! 離れちゃダメだよ!!」
しかし二匹は森の中に二人だけで入ってしまったのだ
グルルルル………… ギャギャギャーー!!
二匹の狼の赤ちゃんは森の中に危険な生き物がいる事をまだ知らない。
そして、そんな双子を餌にするためにゴブリンが群れで現れたのだ!!