103 双子の狼の開眼
収穫祭は数日続く。
最初の日は踊りや伯爵の挨拶、私達のヘクタールへの宣戦布告等があったが、その次の日は本当のお祭り騒ぎだった。
「あー、あれ美味しそうですわ!」
「ルーム、少し……はしたないよ」
「あーら、お祭りだから普段みたいにかしこまらなくていいんですわ!」
いるいる、こういうお子様。
昨日は主賓席で座ったままだったのでとても退屈そうだったルームだが、今日は目をキラキラさせていた。
「まあいいんじゃないのかなぁー」
「マイルさんまで、ルームを甘やかさないでください!」
今回の収穫祭でマイルさんは色々な屋台を周り研究していた。
どうやら賞金稼ぎよりも本格的に商会の立て直しをするために今何が売れるのかをマーチャンダイジングしているようだ。
「ユカ様、そろそろミルクの時間です」
「アニスさん、わかりました」
アニスさんは昨日私達が主賓席にいる間も双子の狼の赤ちゃん『シート』と『シーツ』の世話をしてくれていた。
双子はすくすくと育ち、もうフワフワの毛が全身を覆っている。
綺麗な銀色と真っ白の毛がとても可愛らしい。
「すっかり元気になりましたね」
「ユカ様、エリア様達が銀狼王のお子様達をしっかりお世話してくれたからですわ」
「いや、アニスさんのおかげだよ」
実際、飼育の経験者の彼女がいなければここまで双子がきちんと育つ事は無かっただろう。
「そういえばそろそろ目が開いてもおかしくない頃ですわ」
「そうなんですね!」
「ユカ様、しばらくは赤ちゃんと一緒にいてください。赤ちゃんは最初に見た物を親だと思いますから」
「わかりました!」
シートとシーツは目を閉じたままあくびしたりもじもじしていた。
瞼の辺りがピクピクしている、そういえば今日で生まれて10日目だ。
「ユカ様―、おおかみさん、もふもふしてもいいですかー」
「いいよ、背中をなでてあげて」
その辺りにいた子供達がシートとシーツを見たがって集まってきた。
あっという間に黒山の人だかりができたのだ。
「わー、もふもふだー」
「かわいいー」
「まっしろ、まっしろ」
「こっちは綺麗な銀色だわ」
子供達は初めて見る狼の赤ちゃんに興味津々だった。
「皆さん、しーっですよ。赤ちゃんは大きな音を怖がるんですから」
しかし、それは普通の動物の場合だろう、この双子はお祭り騒ぎも気にせずマイペースに見えた。
「あ、おめめがぴくぴくしてるー」
「ほんとだー」
それを聞いたアニスさんが子供達に説明した。
「はいはいみんなー、一旦オシマイ。今からこの子達は大事な事があるからね、また後で見に来てね」
「えーつまんないのー」
「またくるー」
「ワンちゃんばいばーい」
そして私、エリア、フロアさん、アニスさんは双子を連れて祭りの運営の為のテントの仕切った一室に向かった。
「ユカ様、そろそろです」
「わかりました!」
双子の狼の赤ちゃんは敷き藁の床の上でゴロゴロしたりバタバタしてたまにキューンキューンと鳴いていた。
「ユカ様、目が開きますよ!」
「うん!」
双子の狼の目がゆっくりと開いた。
そしてシート、シーツの二匹は初めて見た私とエリアをジーっと眺めていた。
どうやら私達を本当の家族だと思ったようだ。
その目は大きめのビー玉くらいだったが、とても澄んだ綺麗な色をしていた。
「綺麗……」
「シート、シーツ、はじめまして」
その後、しばらくじっとしていた狼の双子だったが、二匹ともがすっと起き上がり、大きな鳴き声で吠えた!
「キャーーーーーン! キャオオオーーーーン!!」
「キャーン! キャキャーーーン!!」
双子の鳴き声はとても高らかで澄んだものだった。
そして双子の狼は私達にその大きな体で飛びついてきて顔をペロペロと舐めだしたのだ。
「ハハハ……くすぐったいよォ」
双子の狼の赤ちゃんと私達はこの日、本当の仲間……家族になった。