101 みんなの楽しい収穫祭
そして収穫祭は盛大に始まった。
まずは各村々の村長による挨拶だ。
子供達には退屈な事かもしれないが、今年は凶作だった。それでも伯爵様の尽力により誰一人飢える事無く収穫祭を行えたという感謝が伝えられた。
その次は各村々に伝わる伝統の奉納が行われた。
創世神への感謝を伝える為に簡易的に作られた祭壇に各村々から出来立ての野菜や果物を供えたのだ。
「どれも……とても素晴らしいです」
エリアが思わず言葉を口にしていた、まるで当事者の創世神であるかのような話し方だった。
その後は踊りの披露だった。
剣舞、獣踊り、仮面を着けての激しいダンス等、各村々がそれぞれに伝わる踊りを披露していた。
「ほう、あの獣の踊り、モッサールの者に近いかもしれない」
踊りを踊っていたのは獣人の女性だった。これがフワフワ族なのだろうか?
挨拶、奉納、踊りと続き、その後伯爵本人が現れて挨拶をした。
「皆様、私がこのレジデンス領の領主、ゴーティ・フォッシーナ・レジデンスです」
辺りから割れんばかりの拍手が巻き起こった。
伯爵がどれだけ多くの人達に慕われているかがこれでよく分かるものである。
「今年は残念ながら例年に比べて凶作でした。更にこの付近には盗賊まで出没するようになり、このままでは食料が不足し、例年の楽しみであるこの収穫祭を行う余裕すらなくなるところでした。」
それを聞いた住民達が少しざわついた感じだった。
「ですが……我が息子と娘が、勇敢な冒険者に盗賊退治を依頼する為に出向き、ここにいる勇敢な冒険者とその仲間達が見事……盗賊団を退治したのです!」
住民達はそれを聞いて歓声を上げていた。
「それではご紹介します! 今回の収穫祭のメインゲスト、100体斬りのウォール戦士長の息子、『盗賊退治のユカ・カーサ』様です!!」
そして、その後私達は割れんばかりの拍手に包まれた!
「あれが盗賊退治!」
「あんな女の子みたいなかわいい子が……」
「ウォール戦士長の息子なら納得だ」
「うちの娘の婿に欲しいわ」
みんなが私を褒め称えていた、なんだか少しむず痒い感じだ。
この後の展開はもう見えている、普通ならこれで緊張するのだろうが私は経験者だ。
あまり大人すぎない程度の挨拶でこの場は抑えよう。
「……えー、ボクがご紹介していただきましたユカ・カーサです」
私なら経験上もっと気の利いた挨拶は可能だ、だがこの程度の方が自然に見える。
「ボクは、ゴーティ伯爵の息子さんと娘さんのホームさん、ルームさんに依頼され、冒険者ギルドのリーダーとしてこの依頼を受けました」
「あの若さで冒険者ギルドのリーダーだって!?」
「あの堂々とした態度、将来大物になるな」
「どうやらA級冒険者ハンイバル氏の推薦だそうだ」
「それって凄くねぇか!?」
まあこの反応は当然だろう、今の私は見た目がどう見ても成人したばかりのひよっこだ。
「ボクはその依頼を受けた後、商人が襲われていると聞き、元一流商人のマイルさん、そして魔獣使いが敵にいると聞いたので動物使い一族の生き残りだったフロアさんの協力を得て、盗賊退治に向かったのです」
ここで二人共最初は敵として出会ったとは言う必要はあるまい、これが既成事実になればいいのだ。
「??? ええ? 俺、もっと違ったよな」
「しっ! ここはユカのいう事に合わせておくんだよぉ、死刑になりたいのかいぃ?」
マイルさんは流石である、私がアドリブで事実を入れ替えた事をすぐに察したのだ。
「二人の協力と、レジデンス兄妹のおかげで盗賊団の住処を見つけたボク達は奴らの住処だった邪神の神殿跡に向かい、盗賊を退治しました」
再度、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
……だが、良い事ばかり話しているのも問題である。この後、厳しい事実も伝えなくてはいけないのだ。