99 伯爵との再会
そして、伯爵の城に戻った私達は大いに歓迎された。
「お帰りなさいませ! 旦那様がお待ちです」
「ああ、みんな。ただいま」
ホームとルームの二人は今回、報告を済ませて早く収穫祭に行きたいらしい。
まああの音楽という名の拷問を聞きたくないからさっさと出たいのが本音だろう。
私も流石にあのバイオリンと歌のダブルコンボは勘弁してほしい。
「旦那様、皆様がご到着されました」
「ご苦労、中に入ってもらいなさい」
「失礼します」
伯爵は何やら神妙な面持ちで書簡を睨んでいた、どうやら少し難しい事態のようだ。
「あ、ああ皆さん、戻られたのですね」
「父上、ただいま戻りました」
「ああ、よく無事で戻ってきた……お前達も成長できたようだな」
伯爵はホームの腰の剣を少し眺め……一言呟いた。
「よほどの死闘だったのだな、まあ家宝の剣を失った事はとやかくは言わない。道具は使えばいずれ消耗、もしくは紛失破損するものだ」
「父上……」
「だが、今手にしているその剣がお前を選んだと思え、その剣はお前の一生の友となるだろう」
伯爵はホームに多く弁解させず、全ての事情を受け止めた。
「それで、ホーム。お前はその剣になんという名を付けたのだ?」
「父上……この剣はかつて魔剣魂喰らいと呼ばれていました。それをエリア様が浄化してくれた事で新たに『魂の救済者』と名付けました!」
「そうか……魔剣魂喰らいの名前は私も聞いた事がある、それがお前の剣になったわけだな」
伯爵は多くは語らなかった。
「『魂の救済者』良い名だ。ホームよ、お前はその剣に恥じない立派な騎士になるがいい」
「はいっ! 父上!!」
伯爵は為政者であるが父親でもある。
公私混同するタイプではないが息子の成長は嬉しかったのだろう、表情が少し穏やかになった。
「ユカ様。約束通り盗賊を退治してくれたのですね」
「はい、盗賊の住処は全て叩き潰しました!」
「有難う、約束の物は用意しますよ」
「ありがとうございます!」
これでヘクタール領への関所を通る通行証を伯爵に出してもらう事が出来る!
「ただし、何人分かになりますので、あと数日待っていただけますか」
「わかりました」
「それまでどうぞ収穫祭を楽しんでください」
私達は盗賊の住処で手に入れた財宝の事を伯爵に伝える事にした。
「伯爵様、盗賊の住処には大量に奪われた盗品がありました。持ちきれない物は商隊と一緒に一部換金しましたが馬車に用意しています」
「そうですか! それは有り難い。奪われた物なら全て領民達に返してあげましょう」
「ありがとうございます」
「では早速部下に宝物の確認をさせます。バスティアン、みんなを呼んでくれ!」
「旦那様、承知致しました」
この奪われた財宝の分配には時間がかかりそうだ。
しかし、伯爵はそれをあえて領民の為に時間をかけても返してあげようというらしい。
収穫祭にはこれらの財宝は費用に充てずあくまでも伯爵の私財から出そうというのだ。
これが伯爵領の税金が高くても誰も文句を言わない一番の理由だと言える。
「それでは皆様はどうぞ今夜からの収穫祭を楽しんでください」
「はいっ」
「さて、せっかく来ていただけたのですから……よろしければ私の演奏を」
! これはマズイ!! 断るのも大変だ!!
「あのー、伯爵様……実は今手を離せない特別な事情がありまして」
「おや、どうされましたか?」
「すみません、マイルさん、フロアさん。外から連れてきてもらえますか」
そしてマイルさんとフロアさんが目の閉じたままの狼の双子を抱えて応接の間に入ってきた。
「ほう、これは……聖狼族ではないですか。それも双子」
「伯爵はご存じだったのですか?」
「森の守護者と言われている伝説の獣の種族ですね、まさか私も本物を見るのは初めてです」
双子の狼の赤ちゃんのおかげで私達は音楽の拷問から逃れる事が出来た。




