98 やっぱり子供の二人
冒険者ギルドの町で荷下ろしを終わらせた私達は伯爵の城に向かう事にした。
最初に伯爵の城に向かった時は私が大半の敵を倒し、ホームとルームが手伝う形だった。
しかし、今回の道中では私はエリアと一緒に馬車の中で双子の狼の赤ちゃん、『シート』と『シーツ』の見守りをアニスさんとしていたので戦いには参加できなかった。
いつこの双子の狼の赤ちゃんの目が開くのかが予測できないからである。
実際、双子は生まれて既に一週間少しが経っていた。
だが、ホームとルームはそれぞれが魂の救済者、魔獣使いの杖を使い、ゴブリンやコボルドどころか、オーガーすらも余裕で撃退していた。
「ルーム、中々腕を上げたね!」
「お兄様こそ、オーガーを一人で倒すなんてやりますわね!」
この二人はもうA級冒険者と言えるだけの強さである。
あの盗賊の住処の死闘が二人のレベルを大きくアップさせたのは間違いない。
二人共一人だけでも充分どの冒険者グループに引く手あまたでスカウトが来るレベルだ。
「あーもー。見張りしてるだけなんてあーし退屈なんですけどー……」
「まあそう言うな、俺達が戦わなくていい分だけ、俺は馬車の馬や他の動物の状態を見るだけで済んでるんだ」
「しかしエリアちゃんの力って便利ねー、荷物が腐らない様にレザレクションかけておけばいいんだから」
これはレザレクションの少し変わった使い方である。
エリアのレザレクションを穀物や果物、野菜にかけるとなんと新鮮なままで保てる事がわかったのだ。しかし、肉類の死んでいるものには効果は無かった。
「……いえ、皆さんのお役に立てて……良かったです」
私達はこの道中は何の問題もなく数日後に伯爵の地元の町に無事到着したのだ。
◇
「ホーム様! ルーム様! お帰りなさいませ!!」
「ああ、みんなただいま」
「収穫祭の準備はもうすぐ終わります、さあ早く伯爵様にご報告を」
領民達はみんながそれぞれ忙しそうに、でも楽しそうに収穫祭の為の準備をしていた。
それを見た私は昔、“ドラゴンズ・スター”の打ち上げパーティーをやった時のみんなの行動を思い出した。
あの時はまだ会社も小さかったがみんな楽しそうに自分達で会社の机やパソコンを全部動かしてピザや寿司を頼んで近所の商店で酒とか飲み物を買ってきたよなぁ……。
その後、シリーズを重ねるごとにどんどん会場が大きくなってホテルの大ホールを使ったりしたが、やはり自分達で用意した頃の方が楽しかったような気がする。
「ユカ様? どうかされましたか」
「い、いや別に……昔の事を思い出してね」
「昔? ですか」
「あ……あ、あのね、父さんに昔収穫祭に連れてきてもらった事だよっ」
我ながら挙動不審である、しかし前世の記憶を思い出したなんて言えるわけがない。
「変なユカ様……。そうだ、私と一緒に後でお祭りを見て回りませんか?」
「う、うん。みんなで一緒に見ると楽しそうだよね」
「! いいですわっ! ユカ様はエリアさんと見て回ってくださいませ! 私は急用を思い出しましたわ!」
またである……最近、ルームの態度がなんだかツンツンしてるような気がする。
「ユカ様……ルームは貴方に……」
ボガッ!
ルームが魔獣使いの杖をフルスイングでホームの後頭部を殴り飛ばした!
「お兄様! 余計な事を言わないでくださいませっ!!」
ホームはいきなりの後頭部への一撃で前のめりに気を失っていた。
「あーあ、これはホームくんが悪いわー」
「俺は……知らん……」
マイルさんとフロアさんが何だか呆れた態度を示していた。
「大丈夫……?」
エリアがレザレクションでホームの傷を治してあげていた。
「イテテテ……ルーーーム!! お前許さんぞー!!」
怒りのホームは鞘に入った剣を持ったまま走って逃げるルームを追いかけまわしていた。