雨ふり女の子とふしぎな木siteB~ 虹色の指輪~
「やっぱりまだいた」
「やっぱりここにいた」
シスターアンジェラが日の差さない森の奥へ駆けつけてきた。
「何だ、次はお前か」
テントを張りハンモックに横になってテンガロンハットで顔を隠しているジャックが面倒そうに言った。
「さっきニコラスさんが呼びに来てくれたでしょ、どうして言う事聞けないの」
「うるせぇな、子供扱いするなよ」
「十分子供です」
シスターアンジェラはそう言って腰に手を当てた。
「あなたまだ15歳なのよ。本当なら子供達の面倒見て欲しいと思っているのに5年前に孤児院を出てこんな村の者が来ない様な森の奥で1人で生活してるなんて、シスターマリアが心配してるのよ」
シスターマリアはジャックの育ての親だ。10年前村に流行った伝染病でジャックもアンジェラの両親も亡くなってしまった。
シスターマリアは普段は教会のシスターをしているが同時に孤児院の園長でもあった。
アンジェラは5歳の時、ジャックは生まれて間もなく孤児院に預けられた。
アンジェラはジャックの面倒をみて何かに付けてオムツを替えてやったとジャックを子供扱いした。ジャックは口応えしても、アンジェラには勝てなかった。普段テンガロンハットをかぶっているのもアンジェラと向き合うのが照れくさいからだった。
「ニコラスさんがわざわざ呼びに来てくれたのに・・村長が村の者全員集めるようにって言われたでしょ、さあ行くわよ」
アンジェラはジャックをハンモックから引っ張りあげた。
「面倒だな、どうせたいした話じゃないだろ」
ジャックは伸びをしてあくびをした。
「何か大切なお話よ。だって孤児院の子供達も皆集まるように言われたんだから」
ジャックはたき火の火を消してやっと重い腰を上げた。
村の広場には本当に村の者全員が集まっていた。
「ジャック兄ちゃん」
孤児院の孤児達がいっせいに飛び付いて来た。
「お前ら元気だったか」
ジャックは月に一度孤児院を訪れていた。抱えきれない果物を持って来たり、竹を切って園の修理をしたり・・・子供達はジャックに一緒に住んでくれと頼んだが、やらなきゃならない事があると今はテント生活をしていた。
「皆、忙しい所申し訳ないが泉の水が湧き出ていない事がわかった」
場内はざわめいた。
「それで皆とこのオアシスを出て新たな水場を探す事が決まった。一ヶ月後ここを離れるからそのつもりで準備をしてほしい」
村長であるライオンのジルバが言い切った。
「あとはシュナウザー博士に代わる。皆聞いて欲しい」
ひげを撫でながらトラのシュナウザーが前へ進み出た。
「この一ヶ月の間に旅に出る準備をして欲しい。保存食を仕込み、水を運ぶ荷車など大人だけではなく子供達も手伝って欲しい」
シュナウザー博士は長く伸びたアゴヒゲをなでた。
「この一ヶ月分の水を皆の体に合わせて樽を作り詰めておいた。全員後で取りに来るように。そして食事は今日から全員一緒に炊場で取るようにしてほしい。これは水を極力使わない為でもあるし、働いてくれた者達に力を付けてもらうためでもある。女衆は悪いが交代で食事を作って欲しい。男衆は樽を運ぶのを協力して行なって欲しい」
「泉の水はこれから樽詰めしてこの水を持って旅立つ」
ジルバが前に出て言った。
村の者全員が集まっている今しかない、リスのグリンが前へ転がり出て来た。
「村長、お願いです。この泉の水を僕に預けてもらえませんか」
グリンは砂漠で女の子と出会い双葉に毎日ガラスのコップで水をやらなければならない事を説明した。
「そのガラスのコップを見せてごらん」
グリンはかばんからガラスのコップを取り出した。
「コップはどこにあるのかい」
ジルバは声は優しいが鋭い目付きで言った。
「コップなんて見えないぞ」
「ええ、あるじゃない」
意見は真っ二つに分かれた。
「あの、俺にも見えますけど」
ジャックが手を上げた。
「あのひねくれ者のジャックが見えるんなら私だって」
「あ、見えた」
「本当だ」
村の者達が騒ぎ始めた。
「コップが見えた者手を上げて」
いっせいに手が上がった。
「見えなかった者は?」
誰も手を挙げなかった。
「泉の水を使う事を許そう」
そう言ってジルバはグリンの手からコップを持ち上げた。
シスターアンジェラと今孤児院には子供は10人いる。そしてシスターアンジェラの他にベテランのツキノワグマのサリーがいた。樽は村の男達が運んでくれた。ジャックは自分の樽はテントにそうそうに運ぶと孤児院に戻った。荷車から降ろした小さな樽をジャックは貯蔵庫に運び入れた。シスター達は荷車を見送った後、貯蔵庫を見に来た。名前の書いた樽がキレイに並んでいた。水筒に水を入れ集めると子供達の首から掛けた。節約して飲むように言ったがちゃんと分かっているのか心配はしたがこればかりはどうしようも出来なかった。
ジャックの住むテントはこのオアシスでも珍しく湿った土に木が生えコケが生えていた。普段村の者はこのへ来る事のない快適なねぐらだった。しかしジャックはただ一日中ハンモックに揺られているだけではなかった。ジャックはトレジャーハンターだった。このオアシスには珍しく大きな岩山そびえ立っていた。その岩を削り宝石を掘り当てていた。ルビーやサファイア、エメラルドの宝石を発掘しては村人達と物々交換をしていた。
宝石事態には特に興味はなかったが加工しやすく周りの岩を丁寧に削っていた。要は暇つぶしだった。
ジャックは水筒に水を入れ少し飲んだ。そして水筒を樽の上に置いてハンモックに横になった。
「ジャック」
声を掛けられテンガロンハットを取った。そこにはキツネのロイが立っていた。
「さっき声を掛けようと思ったんだけど、何だかオオゴトになっちゃって追いかけて来たんだ。宝石を分けて欲しい」
ジャックはハンモックから降りてテントの中に入った。
「どれが欲しい、好きなの持って行きな」
たくさんの宝石の原石が山盛りあった。
「じゃあこのエメラルドで・・・」
ロイはきれいな緑色のエメラルドを選んだ。
「これで指輪を作ったら彼女も大喜びするだろうな。これ、お礼です」
ロイはブドウ酒の瓶を3本手渡した。
「あなた達、何をしているの」
アンジェラが話の途中で声を掛けてきた。
「シスターアンジェラ、こんにちは」
ロイが挨拶するとアンジェラも頭を下げた。
「それブドウ酒でしょ」
アンジェラは息巻いた。
「ロイさん、この子まだ15ですよ。お酒なんて、ブドウジュースにして下さい」
ロイは叱られた。
「でも・・・」
ロイは言いにくそうに言った。
「ジャックへの報酬はブドウ酒だって村で噂になっていたから」
「これまでもブドウ酒飲んでたって事、シスターマリアがなんと言うか・・・ジャックが不良になったと聞いたら倒れ込まれてしまうかも」
アンジェラは嘆いた。
「俺、後半年で16歳になるんだから今飲もうと対した違いなんかないだろ」
「最近飲み始めたならの話だったらね。あなたいつからお酒飲んでるの」
「いつからって、宝石が採れる様になってからだから一年くらいだぜ」
「やっ張り不良になってたのね」
アンジェラはまた嘆いた。
「あの、僕はもう帰ってもいいんでしょうか?」
「ああ、もういいから」
ジャックがロイを気遣った。
「ブドウ酒はブドウジュースに変えた方がいいですか」
アンジェラが言った。
「いえ、結構よ。このブドウ酒は私が没収しますから、ロイさんはジャックへの報酬はブドウジュースにするように広めて下さい」
「分かりました、それじゃあ」
ロイは急いで森を出ていった。
「じゃますんなよ」
「じゃまなんてしてません。私はあなたを正しているのよ。このブドウ酒は没収よ、それじゃあ私は帰るわね」
アンジェラは酒瓶3本持って帰ろうとした。
「ちょっと待て、何か用があって来たんじゃなかったのか」
ジャックの問いに忘れた〜と言って帰って行った。
「こんにちわ」
そこにはグリンを連れたニコが立っていた。
相変わらずハンモックに揺られていたジャックは顔の帽子を取った。
「何かようか」
ジャックはハンモックに座りテンガロンハットを被り直した。
「何してんの、ちゃんとお礼言いなさいよ」
ニコに急かされグリンは前にでた。
「お礼?」
「ジャックさんのおかげで村の人達が僕の事信じてくれて・・・ちゃんとお礼言っとかなきゃと思って来ました。ありがとうございました」
「ああ、ガラスのコップのチビすけか。俺は何もしてない。本当の事言っただけだ」
「村の嫌われ者・・・じゃなかった・・・ひねくれ者のジャックさんに負けまいと村が団結したんだもの」
ニコが散々言った。
「俺、そんな事言われてるのか。まぁなんて呼ばれようと俺は気にしないからな。もう帰んな」
ジャックはまたハンモックに寝転がり帽子で顔を隠した。
「これお礼のブドウジュースです。置いときますね」
ニコはブドウジュースを2本置いて帰った。
「今日はブドウ尽くしだな」
ジャックはため息を付いた。
「よう、皆元気にしてるか」
ジャックが不意にやってきた。
「何何、それなあに」
子供達はジャックが肩から背負っている袋に興味津々だった。
「あらジャック、今日はどうしたの」
「シスターサリー、こんにちは」
ジャックは担いでいた袋を下ろした。
「ハロルドさんにルビーが売れて欲しい物はないかと聞かれたからお菓子をたくさんもらって来たんだ」
ジャックは袋から木ノ実を砕いて作ったクッキー、焼菓子、ケーキ、パイをテーブルに並べた。
「すごい、美味しそう、キレイ」
「なあに、騒がしいわね」
シスターアンジェラが戻って来た。
「いつもなら極上のブドウ酒をくれているんだが、どっかのおせっかいのせいで酒は飲めなくなったからな。それでお菓子をもらって来たんだ。ハロルドさんも孤児院に行くならってこんなに用意してくれたんだ」
「まぁまぁ、皆手を洗って来なさい」
シスターサリーが号令を掛けると一斉に子供達は手洗い場へ急いだ。
「これでモンクはないだろう。シスターアンジェラ!」
嫌味をふっかけられたアンジェラはわざと涼しい顔をしてにっこり微笑んだ。
「どうもありがとうございます、ジャックさん!」
二人は笑いながら目には火花が散っていた。
「せっかくだしお茶にしましょう、ジャックあなたがもらって来てくれたんだし一緒に食べていってね」
サリーは険悪な空気をどうにかしたかった。
「アンジェラ、お茶の用意をお願い」
はいと言ってアンジェラはキッチンへむかった。
ザー突然、雨が降り出した。
「すぐやむと思うしもう少しゆっくりしていってね」
サリーの言葉にジャックは従った。子ども達はおやつを食べ終わってお昼寝していた。
「お茶、よかったらおかわりいる?」
アンジェラが少しぎこちなく聞いてきた。
「もらおうか」
平然とした顔でジャックは言った。
アンジェラはばからしくなってきた。
「ほら、おかわりどうぞ」
ポットから熱いお茶がカップに注がれた。
「ねえ、虹よ」
いつの間にか雨はやみ窓の外から虹が見えた。
「子供の頃、雨上がりの虹を手にかざしてまるで虹色の指輪だって言った事があったわ、あれはいつだったのかしら。その時一緒にいた子が俺が探して来てやるよって言って指切したのよ。あれは誰だったのかしら」
懐かしそうにアンジェラは振り返って言った。
「バカらしい、ケンカなんてやめましょう」
アンジェラの言葉にジャックもうなずいた。
「俺そろそろ帰るよ、チビ達が起きると厄介だからな」
ジャックは腰を上げた。
「今日は本当にありがとう」
ジャックはたき火に鍋を掛けスープを作っていた。ジャックは村長に言われたとおり炊場へは行かず食事は自分で作っていた。肉の実や果物などこの森には食料には困らなかった。何よりジャックは人混みが苦手だった。
「ジャックさん」
聞き覚えのある声を掛けられた。
ジャックは目深にかぶっていたテンガロンハットのつばを上にあげた。そこにはニコとアイラがいた。
「いい匂い」
二人はスープの匂いに惹かれた。
「何だ、ガキ共か。俺に何か用か」
ぐ〜ニコとアイラのおなかが同時に鳴った。
「なんだ、昼飯食ってないのか」
二人はぶんぶん首を振った。
「さっき食べてきたけど、悪魔的にそのスープが美味しそうなんだもの」
「分かった、食っていいぞ」
アイラはよそってもらったスープを何回もおかわりしてスープをたいらげた。
「お前、遠慮ってものを知らないのか」
「育ち盛りなもので、あー美味しかった」
アイラが至福の時を迎えた頃、ニコが泣きそうな顔をした。
「アイラだけズルい、私も食べたい」
ニコはダダをこねた。
「仕方ないじゃない。あんたは肉のスープは食べられないんだから」
アイラの言葉にニコはふくれた。
「ジャックさん、野菜スープ作って!」
「無理言うなよ。俺は肉のスープしか作れないぞ。まぁ果物でも食べな」
ジャックは3種類の果物を2本づつ6本出してくれた。
「何、こんなの見たことない」
ニコは果物にかぶり付いた。
「すっごく美味しい」
他の2種類の果物も美味しそうに食べた。
「どれどれ」
アイラが果物の一つにかぶりついた。
「何これ、すっごく美味しい」
アイラは思わず声を出した。
「あーアイラ、勝手に食べないでよ」
やっと一つの果物を食べきったニコが他の果物を両手に持った。
「あんたの分まで取らないわよ」
そう言うと後の2種類もぺろりとたいらげた。
「あ~美味しかった」
ニコも3個の果物を食べて満足した。
「お前ら何しに来たんだ」
ジャックは話を戻した。
「ああ、そうだった。この前来た時に興味が出てもう一度来て見たかつたの」
「ねぇ、ここの果物もらって帰ってもいい」
「好きなだけ持ってけ」
「それじゃあ一度帰って背負子とってくる」
二人は足早に帰って行った。
「今の内に昼飯作ってさっさと食っとくか」
ニコとアイラがもどって来たのは食事をすませた直後だった。
「ではおねがいします」
上品な紳士が訪ねて来ていた。
「お嬢さん達、こんにちは」
紳士はすれ違いざま頭を下げた。
「今の誰?」
「客」
「そんな事わかってるわよ」
ニコはふくれた。
「ハロルドさんとこの執事」
「さすが気品があるわよね、ハロルドさんはうちの病院にも寄付してくれるもの」
アイラが言った。
「そんな事より果物果物」
ニコはごきげんだった。
二人は早速果物の木へ向かった。と、ジャックは突然駆け出した。
「その木にはトゲがあるんだ」
ジャックの声が早いか木に登っていたアイラにトゲが刺さりそうになっていた。間一髪アイラにはトゲは刺さらなかったがアイラを抱えたジャックの腕にトゲでひっかき傷が出来た。
「大丈夫か」
「私は大丈夫だけど、あなたが怪我してるじゃない」
アイラはウエストポーチから消毒液を出してジャックのキズを消毒した。そしてぬり薬を塗って包帯を巻いた。
「いつもそんなもん持ち歩いているのか」
ジャックは腕を回してみた。
「当然、これでも医者の娘ですから」
アイラは薬をポーチにしまいながら言った。
「私だってこれ、包帯になるのよ」
そう言ってニコは左ミミのリボンを外した。そのリボンは伸縮性のあるまさしく包帯だった。
ニコはリボンを結び直した。
「果物は俺が取ってやる」
「お前ら下で受け取れ」
ジャックは腰のベルトに刺したサバイバルナイフを使って果物を落としていった。
「なんで分からないんだよな」
背負子は果物であふれていた。
「誰が運ぶんだ、コレ」
「サイのデリーかカバのサクラでも呼ぶ?」
ニコとアイラは目を輝かしてジャックを見つめた。
「どうせ村には用があるから持ってやるよ・・・そうだ、ちょっとまってろ」
ジャックはテントに入って箱を持って来た。
「どれでも選べ」
ルビーの原石が入っていた。
「いいの」
「小さ過ぎてペンダントくらいにしか出来ないから期待はするなよ」
「私コレ、ポーチのチャームにする」
「私はコレ、お母さんにペンダントプレゼントするわ」
「この袋に入れとけ」
ジャックは背負子を背負って袋を持って村へ出掛けた。
皆ジャックに注目した。
「まるで見せ物ね、大声で言ってあげましょうか。変わり者だけどひねくれ者じゃありませんって」
「やめてくれ、俺は一人で静かに暮らしたいんだ」
勝ち気なニコは村人の反応が気に入らなかった。
「これ、ニコとアイラから」
食料預かり所に果物を預けるとジャックは無愛想に言った。
「これはジャックと私達からの果物よ。ジャックだって村に貢献してるわ。ただの人嫌いでひねくれモノじゃないんだから」
「おい、正気か」
「だってくやしいじゃない、誤解されて」
ニコは鼻息荒く言った。
「こういう子だから」
アイラは肩をすくめた。
「ニコ、アイラー」
グリンが疲れ切った様子で向かって来た。
「ただいま・・・疲れた」
「今日もご苦労さん、今日は遊んであげられないからご飯食べたら家に帰って昼寝でもしなさい」
ニコに冷たく言われた。
「あ!ジャックさん、ニコが冷たいよ」
グリンは泣き出しそうだった。
「いいから、飯食って寝ろ」
ジャックはグリンを突き放した。グリンはトボトボと帰って行った。
「あいつ、本当にサバクに水やりに行ってたんだな」
ジャックの問いに
「当然、私達の未来がかかっているんだから」
ジャックはやっとニコの性格が分かってきた。
「それじゃあ仕事に行くぞ」
ジャックはニコとアイラに言った。
ジャックは一軒の店に着いた。
「じゃまするぞ」
ジャックはニコとアイラを連れて店に入った。
ゾウのエスが作業台から目を離した。
「ハロルドさんの注文もう仕上がっているんだ」
そう言って銀細工のきらびやかなネックレスを見せてもらった。
「触ってもいい?」
好奇心大勢のニコが言った。
「いいよ、でも重いから落とさないようにね」
ニコはネックレスを持ち上げた。
「重い」
ニコはすぐに手を離した。
「デザイン画通りに作ったらこうなっちまった。材料だって言って銀10kgも置いていくし、材料だけは一生困らないよ」
エスは笑いながら言った。
「これに宝石付けるんだからな」
ジャックは大きなエメラルドの原石を袋から出した。
「ジャック、原石周りの岩は削ってくれないと」
「分かってる」
その時裏で鳴っていたけたたましい金属音が突然やんだ。
「親父、ジャックが来てるぞ」
「分かっておるわ、ジャック。なんだ、今日はちっこいの連れて」
「エル、今日は社会科見学さ」
ジャックは冗談ぽく言った。
「お前さんのぶつ出来とるぞ」
エルはまた奥に行くとハンマーを2本持ってきた。
「木の柄が折れた分と継ぎ目のない鉄製な」
「ありがとう、早速つかわせてもらうよ」
そう言うと鉄製ハンマーでエメラルドの原石の岩の部分を叩き始めた。あっという間にエメラルドを残して岩の部分は剥がれ落ちた。
「これだけ頑丈ならいけそうだ」
ジャックは確信した。
「そんなに厄介なのかい」
エスが聞いてきた。
「一発でハンマーの柄が折れた」
大人達のやり取りについていけないニコとアイラだったがやっと思い出した様にジャックがエスに言った。
「小粒で悪いがペンダントとチャームを作って欲しい」
そう言ってルビーの原石を袋から出した。
「これが私のペンダントでそっちがアイラのチャーム」
ニコが言うとカットはどうするか聞かれた。
「難しいかな。表面ツルツルかカクカクするか」
「私のペンダントはカクカクで」
「私のチャームはツルツルでおねがいします」
「二つで30分くらいで出来るよ」
エスが言うと、そんなに早く・・・二人は驚いた。
「ヨイショ」
エスは作業台をパーテーションで囲んだ。
「絶対覗かないでね」
研磨の音だけが響いた。
「いつもこうなの」
ニコが尋ねると誰にも見た者はいないとエルが教えてくれた。
「出来たよ」
予想よりずっと早く出来上がった。
「キレイ」
二人は声を揃えて言った。
ジャックは新しいつるはしで岩場を削っていた。そこはとてつも硬く少しずつしか掘り進めない場所だった。しかしジャックがトレジャーハンターになった本当の理由はこの原石を見つける事が目的だった。コレを見つけるのに5年かかった。ジャックは少しずつ掘り進めた。
なんだ、この雰囲気は、孤児院には、似つかわしくない黒服が出入口を固めていた。ハロルドが来ている証拠だった。そこを抜け中に入るとキッチンで子供達の声がした。そこでお菓子を作ってもらってる所だった。キッチンを抜けると応接室の前に黒服がいた。廊下側の窓から、中を見るとハロルドの執事、オコジョのセバスチャンがハロルドにケースを渡していた。ケースを開くとあのエメラルドのネックレスが入っていた。
「シスターアンジェラ、どうか私と結婚して下さい」
これは私の気持ちです、とネックレスを差し出した。
アンジェラは困惑した。
「困ります、それに私は神にお使いする身、結婚など出来ません」
「いいお話じゃない。アンジェラはまだ正式にシスターの儀式を終えてはおりません」
シスターサリーは手放しに喜んだ。
「子供達の事なら、全員養子にするつもりですし、シスターサリーにも世話役として我が家へ来て頂きたい」
「でも、シスターマリアが何と言うか」
「あなたの判断に任せるそうです。シスターマリアには一番にご挨拶にいきました」
ハロルドはアンジェラを追い詰めた。
「しかし、今日はこれで失礼します。あなたにも考える時間が必要でしょうから」
ハロルドはソファから立ち上がった。その時初めてジャックがいることに気付いた。
「ジャック、あなたも来ていたのですか。美味しそうな果物だ。では私は失礼するよ」
ハロルドはジャックに挨拶して去っていった。
ジャックは応接室に入ってきた。
「ジャック、いつからここに」
アンジェラは動揺した。
「いつからって最初からさ・・・あいつと結婚するのか?」
「いいお話だと思わない」
サリーは浮かれていた。
「このネックレスを見て、なんてステキなの」
サリーは自分の首にネックレスを付けた。
「ピッタリだわ」
サリーは鏡に写った自分の首を見てうっとりした。
「アンジェラ、あなたも付けてみなさいよ」
「やめとけ、首の骨折れるぞ」
サリーに渡されたネックレスはずしりと重くアンジェラはネックレスをケースにしまった。
「子供達のお昼寝の時間だわ」
アンジェラはおやつを食べて眠そうな子供達を布団まで誘導した。
「ジャック、これで指輪を作っておいて」
ジャックはストローの袋を輪っかにした物を受け取った。子供達を使ってアンジェラの左手の薬指の型を取らせたのよ。いずれハロルドさんから注文が入るはずだから先回りしなくちゃ、私なんて気が利くのかしら」
「すごいの、銀細工でエメラルドが入ったネックレスよ、あんなのもらって喜ばない女の子がいる?」
ニコとアイラが他の女の子達に聞かせていた。始めはアイラのチャームの話だったのがいつの間にか恋バナに発展していたのをキャンディ夫人の耳に入った。すぐに村中にハロルドの結婚話が広まった。
ジャックは果物をたくさん持って孤児院を訪れた。
「あらジャック、今日くる日じゃないでしょう、どうしたの」
シスターサリーに最近ハロルドがお菓子を子供達に作ってるからたまには果物とか食べたいんじゃないかと思ってと苦しい言い訳を言った。
「ホントはハロルドさんとアンジェラがどうなったか気がかりなんでしよ。そりゃあずっとお姉さんみたいな存在がお嫁に行くとなったら寂しいでしょうが、お嫁に行っても私も子供達もお屋敷に移るだけなんだしいつでも会いに来てくれていいのよ」
サリーは豪快に笑った。
「あら、ジャック来てたの」
「これ、果物」
ジャックはぶっきらぼうに渡した。
「私がキッチンに持って行くわね」
サリーは気をきかせた。
「廊下で立ち話もなんだから、部屋に入りましょう」
この前来た時と同じ所にネックレスのケースはあった。
「それ、お返ししようとしてるんだけど受け取ってくれなくて」
「今日はやけに静かだな」
ジャックは話題を変えた。
「今は算数のテスト中なの」
急に廊下が騒がしくなった。テストが終ったようだ。
「ジャック兄ちゃん」
子供達がジャックの所に抱きついて来た・・・が全員ではなかった。
「なんだ、ジャック兄ちゃんか。ハロルドさんが来てくれたのかと思ったのに」
「やぁジャック、君も来てたのかい」
子供達は全員ハロルドの元にかけつけた。
「今日もごちそうだぞ」
子供達ははしゃいだ。
「ハロルドさん、毎日困ります。食事は炊場で食べることになっています。子供達の教育にもよくありません」
アンジェラは今まで言えなかった事をついに言った。
「うちのものは皆家で食事するもので気が回らなかったな」
「お水はどうしているのです」
「水を使えなくなる前に30樽は常備していてね、お客様が多いということで飲水には困らないんです。ブドウ酒を使う料理も多いですし、料理以外はツユクサを使っているがね。しかし子供達に良くないなら食事を作るのはやめよう。しかしお菓子くらいは許してもらいたい」
ハロルドは丁寧に頭を下げた。
「頭を上げて下さい。お菓子なら子供達も喜びます」
アンジェラは慌ててハロルドの頭を上げさせた。
「それより結婚の事、考えてくれましたか?」
「待ってください、子供達にも聞こえてしまいます」
アンジェラは小声で言った。
「子供達には言ってないんですか」
「私、やはり儀式を受けてシスターになろうと思っているんです」
「アンジェラ、結婚なんてするな」
ジャックが飛び出して来た」
ハロルドとにらみ合いになった。
「今の暮らしに満足しているんだろう、だったら結婚なんかするな。第一アンジェラはコイツのこと好きなのか」
アンジェラは目から鱗だった。
「まあ、私ったらハロルドさんの事愛してないわ・・・というよりよく知らないわ」
アンジェラは顔面喪失になった。
「今は結婚出来ないけれど、この先私を愛してくれるかも知れないんですね」
「えぇ・・・」
ハロルドはアンジェラのを両手を握りしめた。
「お友達から始めて下さい」
アンジェラは首をぶんぶん縦に振った。
「いつまで握っているんだ」
ジャックは二人の間に割って入った。
「俺のアンジェラに気安くさわるな」
「俺の・・・」
二人はにらみ合った。
「ごめんなさいハロルドさん。ジャックったら私にべったりで。弟みたいなものなんです、おむつ替えてあげたこともあるのよ」
ジャックの顔が赤くなった。ミミまで真っ赤だ。
「そうかい、お姉ちゃんを取られたくない弟くん」
次の日からハロルドは毎日孤児院を訪れ、ジャックは全く来なくなった。
一週間が過ぎようとした時ジャックは現れた。
庭にはシスターサリー、アンジェラ、ハロルドがいた。子供達はお昼寝中だ。
ジャックは真っ直ぐアンジェラに向かい左の薬指に指輪をはめた。
その指輪はダイヤモンドだった。ジャックがこの5年間ひたすら探し続けた石だった。掘削場で見つけ掘り当てたの原石、エスに預けダイヤでダイヤモンドを研磨してもらった。それをあらかじめ作っておいたリングにダイヤをはめた。
「アンジェラ、太陽にかざして見て」
ジャックの言うとおり指輪をかざした。ダイヤモンドが7色に光った。
「いつか言ったろ。虹の指輪をプレゼントするからって指切りしたろ」
「キレイ」
「俺が大人になるまで待ってくれ、おまえを守れる男になるまで待ってて欲しい」
「そろそろお昼にしましようか」
アンジェラはビニールシートの上においてあったバスケットを開けた。アンジェラはそれを取り出した。
「肉の実のサンドイッチよ、ニコとアイラにピクニックに行くって言うとこんなにたくさん集めてきてくれたのよ、仲間達で集めたっと言って」
「いただきます」
ジャックはサンドイッチを1つ食べた。
「ウマい!」
「フライングですよジャック、まず手を拭いて下さい」
「わかったよ」
ジャックは乱雑に手を拭いて両手にサンドイッチをつかんだ」
「お行儀が悪いですよ」
アンジェラは立ち上がって執事と黒服の所へやって来た。
「セバスチャンさん、よかったらこれ皆さんでどうぞ」
アンジェラはぎっしり入ったお手拭き付きサンドイッチを手渡した。
アンジェラは左手を太陽にかざした。
「キレイ」
おしまい
おしまい