第2話
色々忙しくて投稿が遅くなりました。
すみません
扉を開いた先に居たのはお忍び装束なのか街の人が着るような、身体をすっぽりと包む外套を羽織った男性。街の人に見せかけたいのだろうが、外套の生地は庶民が使うには手が届かないようないい生地の為、どこからどう見ても貴族にしか見えない。
「君が悠久を生きる善き魔女殿か……こんばんは、初めまして。お邪魔しても良いかな、善き魔女殿?」
そう優しい声で言った男性を家の中へ招き入れる。
「広くないですが、どうぞここにお座り下さい。それから私のことは“悠久の魔女”とお呼び下さい」
家の中は散らかっていてお世辞にも綺麗とは言い難い。
まだ足の踏み場はあるし、床が見えているから他の魔女よりはましだろう。他の魔女……と言っても母や祖母以外の魔女と会った事はないので私以外の魔女の庵がどれだけ散らかっているのかは知らないが。
家に入ってすぐの部屋はきちんと机と椅子が完備されている。
家の奥の部屋に魔女の大鍋や薬草、魔法の本など魔女である証明ができるものが綺麗に置いてある。もっぱら魔女として薬の調合などをするのはその奥の部屋だ。
「暫しお待ち下さい」
私は訪問者に言葉をかけてからリビングが見えるようになっている台所へと向かう。
訪問者を一応もてなす為の準備があるのだ。
台所の食器棚から品の良いカップとソーサーを取り出す。
紅茶の茶葉を適量、ポットに入れ水が沸騰するまで待つ。
待っている間に茶菓子となる物を探し出してお皿に盛る。
茶菓子をお皿に盛り終わった頃、丁度水が沸騰した。
沸騰したお湯をポットとカップに注ぎ、カップのお湯は捨てる。
ポットの中の茶葉を蒸らしている間に男性の元へ運んだ。
男性は外套を脱いで簡単に畳んでいた。
「お待たせしました……それでは、御依頼内容を拝聴しましょう」
カップに紅茶を注ぎ込んでから男性に尋ねた。
男性よりも先に口を付け、紅茶特有の匂いを嗅ぐと気持ちが落ち着く。
銀色の髪に浅く暖かい海を思い出させる色をした目を持つこの依頼人はこの国の王侯貴族の中でも身分がとてつもなく高い御人だということが分かる。だって、その血筋の色をはっきりと見せてくるあたりそう言っているようなものだ。金や銀の髪と基本的に青色が強い目を持つ血筋はこの国で一つしかない。私の幼馴染み兼義兄である彼の弟だろう。会った事は……ないこともないようであることもないような気がするけど。
「ああ、どうも有り難う。僕の依頼は……」
男性が依頼内容を話そうとした時に、来客を告げるベルがチリンチリンと鳴る。
今日は珍しい日だ、と思いながら私は頭の中で考えた。
訪問者が重なることは滅多になく、私が“悠久の魔女”を名乗るようになってから一度も訪問者が重なったことがなかったのだ。
どうしようかと考えていると、最初の訪問者の男性が私に告げた。
「僕の依頼は後でいいから、彼女の依頼を聞いてあげてくれ。だけど、私が来ている事を内緒にして欲しいんだ」
訪問者の男性の言葉にこくりと頷き、男性を奥にある私の部屋へと急いで案内する。
この家にある部屋はほんの少し。今来た訪問者にバレにくく、この男性を案内できるような場所は私の部屋しかなかった。
「こちらへ。ここは私の部屋で、狭いですがご容赦下さいませ。ここに紅茶と茶菓子は置いておきます。小腹が空いた時などに摘んで下さい」
男性は私の言葉を聞いて固まっていた。
私は固まった男性を私の部屋へ放置したまま私の部屋のドアを閉め、家の扉の前で立ち止まり、一度大きく深呼吸をして落ち着いてから外へと繋がる扉を開けた。
「悠久を生きる善き魔女の家へようこそ。本日はどのようなご依頼でしょう……!」




