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悠久の善き魔女の庵へようこそ  作者: 紅花
一章
2/4

第一話

大体、火曜日に投稿する予定です

 目深まで被れる黒いフードがついた、身を全て包むぶかぶかの外套を羽織れば魔女の正装の完成だ。


 魔女の顔を知って来る訪問者はいない。魔女の目の色も、名前も誰も知らない。知っているのは、いつもいつも、黒い外套を羽織っていることだけ。しかし、どうして魔女が黒を身に纏っているのかは誰も知らない。


 遥か昔、古の時代から魔女は黒を身につけ、森の奥深くでひっそりと暮らしてきた。

 魔女は魔法を使い、不思議な薬を作る。その薬は魔女と同じ魔法を使って作ったとしても魔女しか作れない逸品。金を落としてくれる貴族には一人一人に合うように薬の調合を変え、その人の為だけの薬を作る。逆にお金を持っていない国民用の薬は万人受けするような物を作るようにしている。


 先祖代々同じ姿で同じように接客をしているからか私達の一族、及び私は“悠久の善き魔女”と呼ばれている。

 歳を感じさせないように顔を隠し、ココロも隠すようにした。先祖の誰が始めたのか知らないが、皆、顔も肌も隠し続けたお陰か私達は何百年、何千年も生きているということになっている。

 私達の後ろ盾のは王家。国で最も偉い人だから貴族もそこまで突っかかってはこないし、もし誘拐されたとしてもすぐに魔女の庵へ帰れる。

 そうやって国中に知られながらも正体は知られていない私達は細々と黒に守られながら暮らしている。



 魔女はその名が表すように女性しかできない仕事だ。職務の不平等だなどと言いたいかもしれないが女性が仕事を行う理由はきちんとある。

 一つ目の理由が魔女がかける魔法、それは男性が行なうと効果を失ったり効果が薄れたりするからだ。

 そして二つ目にして最大の理由は、カエルの子はカエルということ。

 カエルの子はおたまじゃくしだと言う変な屁理屈はいらない。ただの表現だ。

 話を元に戻すと、魔女の子は魔女であり、女の子しか産めない。子供を作ってもたった一人、女の子が産まれるだけ。

 産まれた女の子は誰よりも頭が良く、誰よりも身体が丈夫だ。だから病気になることもないし、何日も徹夜ができるし、ぽっくりと死ぬこともない。と言うか死ねない。自殺しようとして首を切っても直ぐに塞がって元通りになる。先祖の誰かが自分の身体を研究したのか、そのような記録が我が家には残っている。

 きっと研究をした人は根っからのマゾヒズムの気があったマゾヒストなのだろう。私はそんなこと絶対しない。危険、ダメ、絶対!だ。



 そんな魔女には幾つかの仕来たりがある。黒を身に纏うこと、顔を見せないこと等々数多くあるが、その中でも最も守らなければならない仕来たりは自らの名は魔女となる時に捨てるというものだ。

 私の名を知っているのは家族の中では魔女であり女である母、私を庇護するハゲ狸こと国王陛下だけ。

 だから、私の名は母と国王陛下しか知らない。

 家族でも父は名を知らない。

 私は、まだそのような人には会っていないが、私の名前を伝えられるとしたら、2人の他には未来の夫ぐらいだ。



 私は母から本名を呼んでもらったことはない。

 いや、誰からも呼んでもらったことはない。

 どんなところに行っても、どんなに仲の良い人にあっても愛称でしか呼ばれない。

 私にとってそれは普通で当たり前のこと。

 なのに、何で少し哀しいのだろう?

 あの人に名前を呼んでもらえない事に何故哀しみを覚えるのだろう。



 私は、鏡に映る黒い外套を着た私をじっと見つめていたことに気づき、嫌なことを振り払うかのように大きく首を横に振る。

 まだ、フードを被っていなかったため私の黒い髪が左右に揺れた。



 くっと鏡を見ずに伸びをした時に、チリンチリンとベルが鳴る。

 ふくろうが鳴く頃に訪れる数多の訪問者。

 本日はどのような依頼だろうか?

 いつものように髪を一つに括り、黒いフードを目深まで被って鏡の前から離れた。

 扉を開けると、定型文から始まる、私だけにしか出来ない仕事の幕が上がる。

「悠久を生きる善き魔女の庵へようこそ。本日はどのようなご依頼でしょう……?」

 さあ、今日もいつもの仕事が始まる。


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