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幽霊騒ぎ

作者: 雨世界

 幽霊騒ぎ


 登場人物


 谷風花 中学三年生 十五歳 人間 メガネをかけている。


 北上くん 中学三年生 十五歳 幽霊 世界で一番優しい人


 プロローグ

 

 大好きな君に。


 本編


 とっても綺麗なお月さまだね。


 谷風花の通っている公立中学校で幽霊騒ぎが起きたのは、ある春の日の出来事だった。

 君の幽霊が出る、と言う噂を聞いて、風花はすぐにもう二度と会えないと思っていた君にもう一度会える、と思って、すぐに幽霊が出るという噂の音楽室に君に会いに行った。

 すると、……そこに君はいた。

 ずっと会いたかった君がいた。誰もいない夜の音楽室には、確かに君がいてくれた。


 きっと私のことをずっと待っていてくれたんだと風花は思った。

 北上くん。

 もう絶対に会えないと思っていたから、すごく、すごく嬉しかった。


「久しぶりだね、北上くん」

 にっこりと笑って風花は言った。


 月の光がとても綺麗だった。

 音楽室の窓はなぜか開いていて(先生が閉め忘れたのかもしれないし、誰かのいたずらなのかもしれないし、あるは、北上くんが開けたのかもしれなかった)


 その綺麗な月の光の中に北上くんはいた。

 たった一人で(それはいつものことだった)月の光を見ながら、ぼんやりとした表情で、音楽室の中に立っていた。


 風花は幽霊とか、お化けとか怖い話が本当に苦手だった。だから、今、自分の目の前にいる人が北上くんじゃなかったから、きっと風花は怖くって、ぶるぶると震えてしまって、もう一歩も、どこにも動くことができなくなるだろうと思った。


 でも、今は全然怖くはなかった。

 それはもちろん、風花の目の前にいる人が、今、風花の一番会いたい人だったからだ。


 風花が声をかけると、北上くんはゆっくりと風花のことを見た。


 そのとき、『確かに風花と北上くんの目はあった』。

 二人はまっすぐにその視線を重ね合わせていた。


 風花は音楽室のドアのところに立っていた。

 風花はゆっくりと歩き出して北上くんのところまで行こうとした。

 でも、その途中で、北上くんがなにかを言った。


 北上くんの口が動いて、風花になにかを伝えようとしていた。

 でも北上くんの声は、決して言葉にはならなかった。


 口が動いているだけで、声は風花の耳にまで届かなかった。


 それでも、北上くんが自分のところに風花がやってくるのを止めようとしているのは、風花にはよくわかった。

 なぜなら、北上くんはその手をあげて、風花に『こっちにくるな』という意味で、その手のひらを向けていたからだった。


 風花は音楽室の途中で足を止めた。


 春の穏やかな風が音楽室の中に吹き込んできた。

 その風が音楽室のカーテンを揺らして、学校の外に咲いている桜の花びらを数枚、音楽室の中に運んできた。


 北上くんは、いつもの優しい顔で笑っていた。

 風花はいつの間にか泣いていた。


 さようなら。

 と北上くんの口が動いた。(その手も、ばいばい、の動きをした)


「……うん。さようなら。北上くん」

 めがねの奥で、にっこりと笑って風花は言った。


 北上くんはそっと風花にその背中を向けた。


「北上くん!」

 思わずはっとして、(北上くんが、もうすぐいなくなっちゃうと思って)ちょっとだけ大きな声で慌てた様子で風花はそういった。

 すると北上くんはそっと風花のほうを振り返った。


 北上くんはなんだろう? とでもいいたげな、とても不思議そうな表情をしていた。(その表情は風花の一番大好きな北上くんの表情だった)


「ありがとう」

 と泣きながら風花は言った。


「あなたにあえて私は本当に幸せでした」

 たくさんの涙を流しながら、にっこりと笑って風花は言った。


 すると北上くんは顔を赤くして、なんだかすごく照れたような顔をした。


 それから北上くんは、こちらこそ、本当にどうもありがとう、と風花に笑顔で言った。


 それから、また春の風が音楽室の中に吹き込んだ。


 その穏やかな風の中に、北上くんは消えてしまった。


 月の光に照らされている音楽室の中には風花一人が残された。


 風花はさっきまで北上くんがいた場所まで歩いていくと、その場にうずくまって泣き始めた。


 北上くんは、風花の世界で一番大好きな人だった。


(……本当に月の綺麗な夜だった)


 幽霊騒ぎ 終わり

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