ねことトカゲさん
こんにちは。ねこです。よろしくおねがいします。
私が営むレストラン。ここは財団日本支部のとあるサイトのコンテナを使わせてもらっています。
実は、オープン時間はお昼の10時。クローズは23時となっているのですが、開店してからの1時間はほとんどお客様がいらっしゃいません。
というのも、やはりみなさんお仕事が忙しいので、10時にゆっくりとご飯を食べるような方はあまりいないのです。
ねこはこの1時間で開店前の仕込みに追加をしたり、入口前を清掃したりすることにしています。
ですが、この間不思議なことが起きたので今回はそのお話をしたいと思います。
「しかし……この扉はいつから、なんのためにあるのでしょう」
レストランの中にいつの間にか現れた扉。
このコンテナは「しあわせねこハウス」というSCPオブジェクトと化しているので、きっとこれも何か意味があるのだと思います。
ふむ……そろそろ開店ですね、扉のことは置いておいて今日もお店を開けましょうか。
……おや?
ドア「ガチャ」
……!?
「えっ??」
いやガチャじゃないんですけれど。
謎の扉、開いてるじゃないですか。
……
ガチャ「ドア」
「言い換えればいいってもんじゃないです」
思わず口に出してツッコミしてしまいました。
誰ですかガチャって。なんですか「ドア」って。
しかし……何が出てくるのでしょう……
猫にとって敵対存在でなければいいのですが……
……
「…………あの」
「…………おう」
「…………ねこです」
「…………おう」
「…………これはねこの直感なのですが」
「…………なんだ」
「…………あなた、異常存在ですよね」
「…………人間共はそう言うな」
「…………なぜ人型に?」
「…………知らねえ。扉を出たらこれだ」
「…………それ、しっぽですか」
「…………ああ。たまに鋭い刃になったりする」
「…………あなたもしかして」
「…………皆まで言うな。それに俺の方こそお前を知ってるぞ」
「…………それはそれは」
「…………あのクソ共が話してた」
「…………なんと呼んだらいいでしょうか」
「…………そうだな、とりあえず」
「クソトカゲ、とでも呼んでくれ」
SCP-682 「不死身の爬虫類」
オブジェク:keter
全生物に敵対的な大きな爬虫類。保護を理念とする財団がかなりのレアケースとして「終了」を望むScip。意地はらずにGOCの手を借りればいいのに……
そんな不死身の爬虫類さんが、なぜか人の形になっています。
成人男性のような見た目ですが、ゴツゴツとした手足やしっぽはそのまま残っており、なんでも貫く爪も全てを噛み砕く牙もそのままサイズだけが人間サイズになっています。
一体なぜ……?
ですが、ここに来た以上はお客様です。接客をしなくては。
「それではお好きな席へどうぞ」
「あぁ?席だ?」
「ここはレストランです。ねこのレストランです」
「……知識はあるぞ、レストラン。食い物食うとこだろ」
「ええ、そしてこのねこのレストランでは、お代金を頂戴しない代わりにお客様からひとつ、なにかお話を聞かせていただいております」
「…………なあ、なんだこのレストラン」
「は、はい?」
「うるせえからてめえをぶっ飛ばして帰ってやろうとしたが、変に体が動かねえ。
俺がこんな事言うのもありえないんだがどうにも逆らえねえ何かがある」
「それは……」
「この俺が抵抗できない力なんざそうあるもんじゃねえぞ」
「……ここが日本だから、では?」
「……ああもういい、それでいいよ……ったく」
(コンテナがねこを守ってくれているのですね)
「それで、ご注文は」
「人間」
「ないです」
「人肉」
「ないです」
「財団のクソ共」
「ない」
「……………………じゃあもう……肉でいい……」
「かしこまりました、オススメの肉料理で承りますね」
「調子狂うぜ……」
---------時間経過---------
「ふう、腹いっぱいだ。人間ってのはこの程度で腹が膨れるんだな、この体になってから初めて知ったぜ」
「お味の程はいかがでしたか」
「さあな。…………ただまあ、残さず食うくらいにはマシだった」
「美味しかったのですね、ありがとうございます」
「……ちっ」
「さて、お代ですが……」
「あぁ?…………ああ確か、『お話』だったか」
「ええ、なにかいい話を持っていませんか?トカゲさん」
「トカゲさんてなあ……俺は……まあいいや……あー?何かあったか」
「…………トカゲさんはどうしてここへ?」
「ああそうだ、それだな、うん。結論を言えば『原理はわからねえ』ってやつだ」
「そうですか」
「今日も財団の連中は飽きもせずに俺をお遊びに付き合わせてくれたんでな、抜け出してやろうとしたんだが今日は調子が悪いのか、あんなくそ雑魚どもに酸っぱい風呂の中にぶち込まれてなあ……かったるくなったんで寝ようとしたら、硫酸タンクの底が光ってたんだ。…………今となっちゃこの俺にしては気が緩んでた、なぜかその光に俺は突っ込んで行ってな。んでまっすぐ進んで出口を見つけたと思ったら……このザマだ」
「……なるほど」
「帰るに帰れねえし困ったぜ」
「あなたは……」
「ああ?」
「あなたはどうしてそこまで多種を憎むのですか?」
「……はっ、くだらねえ質問だな」
「特に、人間を酷く嫌っているとか」
「別に人間だけじゃねえけどな。『同族』とも殺し合ったこともある」
「同種ではなく同族……人間がSCPとして登録している存在たちですね」
「そういうこった」
「ですがなぜそこまで敵対するのです?あなたがその力を有用に使えば、財団もあなたを『終了』してしまおうとはしないはずです」
「……なあメス猫」
「ねこです」
「……ねこ」
「はい」
「お前はどうやって生まれた?」
「……どうやって……生まれた……?」
「ああ。どうやって生まれてどうやって生きてきた?その力はいつから持ってる?誰に見つけられてここへ来た?」
「…………ねこ、ねこは……」
「落ち着け、分からなくていい。分からないって言葉を聞きたかっただけだ」
「そう……ですか……」
「ああ、俺だって俺の事、分からないんだよ」
「それって……」
「目が覚めたら『これ』だった。いつからか俺は存在して、いつからか生き物全てを憎んで、いつからか全部ぶっ壊して……ガキの頃の記憶なんざひとつもねえ。俺と同じ種族がいるのかも知らねえ。……なあ、なんでだと思う?それはな、『ない』からだ。暴れる理由なんかない、生まれも育ちも関係ねえ。俺は気づいたんだ、俺は生まれたんじゃなく、『生まれたことにされた』ってな……俺は全ての生物に敵対して、力もスピードも最強でおまけに不死身で絶対に死なない……だからむやみやたらにあのクソ博士共に殺されかける羽目になる、『そういう存在だということ』にされてんだ。誰がやったかはわからねえ。目的なんざもっと分かりゃしねえ。でも、俺と殺し合った『同族』共もそうさ。顔を見られたらそいつを地の果てまで追っかけて殺しちまう。視線があれば動けないが誰も見てなきゃ俺より早く動き回って生物の首をへし折る。『そういうもの』ってことにされてやがる。哀れなもんだ。人の事言えないけどな俺も。そんで……お前もそうだろ……?誰かに存在させられて、誰かに忌々しい力を植え付けられて……俺は知ってる。こんな事をするのは人間に違いない。どこかのクソの中のクソ人間が俺たちを作りやがった。それが1人なのか複数なのかは知らねえ。だから俺は決めたんだ。その『誰か』の『望む通り』人間を滅ぼす存在になってやるってな。そうすりゃ、食い尽くしたうちのどれかが『誰か』に当てはまってるはずだ。人間以外を襲う理由?決まってんだろ、もしかしたら俺を生んだのが人間じゃないかもしれないからだ。『かもしれない』だけでも俺にとっては十分な敵対理由だ」
「……トカゲさん」
「以上だ、俺の話は。どうだ?飯の金くらいにはなったか?」
「……はい、とても貴重なお話でした。お釣りをお渡ししたいくらいです」
「はっ!そいつは結構だ、じゃあ釣りの代わりに……お前、随分人間と仲良くしてるようだな」
「えっ……?」
「お前からずっと人間の匂いがしやがる」
「えっ……と……」
「もしかして人間の恋人でもいるのか?はっ!なんてな、俺たちみたいなバケモノに欲情する変態なんざ「そうなのです」いるわけ…………あぁ?」
「ねこには大切な、こっ、こ……こいっ、恋人がいます」
「………………………………」
「彼はとても優しくて、元SCPオブジェクトのねこを好きだと言ってくれました。それに、嫌な目にあったねこを助けるために、自分よりずっとずっと偉い博士の方にも立ち向かってくれました。それから、レストランのお手伝いの時も------」
「あー、扉開いたみたいだし帰るわ」
「待ってください。ねこの話は終わってません」
「なんで自分と似たバケモンに欲情する変態人間とその人間に欲情するメス猫の盛り合いを聞かされなきゃならねんだ!!」
「よくじょ、!?違います、ねこはえっちじゃないです。あの人だって……たぶん……きっと……」
「自信なくしてんじゃねえか」
「……トカゲさん」
「……あ?んだよ」
「また、来てくださいね」
「……はっ、ははっ!ああ、そうかよ。じゃあ、世界を食い尽くす前に気が向けば来てやるよ」
「はい、お待ちしております。」
「じゃあ、帰るわ」
「ご来店ありがとうございました。またのお越しをお待ちしておりす。よろしくおねがいします」
こうしてトカゲさん、SCP-682は扉をくぐり、消えて行きました。
「さて、今度こそ開店しましょうか」
ねこです。少し不思議なレストラン、今日もオープンしました。よろしくおねがいします。