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6杯目:ヘルベアーの肉

更新が大変遅くなり申し訳ございません。

二人がギルド・ミルクティーに帰ってきた頃にはすでにお昼どきを過ぎており、ギルドの中にはあいなと起きたばかりであろう眠そうな琴葉しかいなかった。

「やっぱりこの時間だとがらんとしてるんだな。」

「おかえり二人共、洞窟まで無事に行ってこれた?」

「いや、それが・・またヘルベアーに襲われちゃって」

「えぇっ?また襲われたの?大丈夫だった?」

「うん、テトラのおかげで助かったよ。」

「違う マスターの おかげ マスターが すごい」

テトラは恥ずかしそうに顔を伏せた。

「それで、その手に持ってるのはなんどすの?」

ヒロトとテトラが手に持つヘルベアーの肉に興味を持ったのだろうか、琴葉はだるそうな体を起こし二人のもとまで寄ってきた。


「これはヘルベアーの肉だよ。テトラの魔法でヘルベアーを攻撃したんだけどさ、すごく美味しそうな匂いがしたから持ってきたんだ。」

「そら無事でよかったどすが・・主様は知らへんのどすか?ヘルベアーの肉は固くて食べられまへんで。」

「いやところがそうでもないんだな。まぁ見てなって。テトラ、スパイシー・オニオンっていうのを採ってきてくれよ。」

「もう さっき 採ってきた」


テトラからスパイシー・オニオンを受け取ったヒロトはそのままバーの調理台でそれをすり潰した。

「マスター 目が痛い」

玉ねぎをきったら涙が出る。それはヒロトももちろん知っていたし体験したこともあったが、スパイシー・オニオンのそれは玉ねぎの比ではなかった。4人とも、とくにすり潰している本人であるヒロトはボロボロ涙を流していた。


「ヒロト、そんなもの用意してどうするの?ギルドの中の人間を全員泣かせる気?」

「オレ達しかいないでしょ・・でも確かにこれは対処方法を考えないと、毎回これはきつい。」

ヒロトがスパイシー・オニオンをすりつぶしている間に、琴葉が横でヘルベアーの肉を泣きながらも素晴らしい包丁さばきでおろしていた。


「主様。切り終わりましたけど、次はどないするん?」

「それをこの中にいれて欲しい。それで3時間寝かせるんだ。」


それからはおのおの自由に過ごした。あいなと琴葉は仕事をし、と言っても客はいなかったが、テトラは部屋に戻りヒロトは風呂に入ってのんびり過ごした。


そして3時間後。


「これをかなりの強火で片面10秒、ひっくり返して30秒焼くんだ。」

「そんな短時間でいいの?中まで火がとおらないんじゃない?」

「中までこんがり焼く必要はないんだよ。少し赤みが残るくらいの方が美味しいんだぜ?」

これは日本で焼肉に行っていたときのヒロトのポリシーだった。完全に焼くでもなく、口の中でいつまでも噛まなければいけないほどレアでもない、適度な焼き具合というのをヒロトはすでに体得していた。なのでザ・アルティメットで得た調理方法をすぐに理解できたのである。


ヒロトが見守る中、あいなが漬けておいたヘルベアーの肉をフライパンに並べた。

片面10秒、ひっくり返して30秒、そしてすぐに皿に移す。食欲をそそる美味しそうな匂いが充満する。

「匂いは美味しそうやけど、これが固くて食べられへんのどすえ。」

そう言いながらも琴葉は肉をひと切れ口にした。その瞬間琴葉は目を大きく見開き、一心不乱に咀嚼し、ゴクリと喉をならすとすぐさま次のひと切れを口に入れた。


「琴葉 お肉 おいしいの?」

問いかけるテトラの言葉でやっと琴葉は我に返った。

「美味しいなんてもんちゃう。お肉が柔らかすぎて舌の上で溶けるようどす!」

それを聞いてもまだ半信半疑なのだろう、あいなとテトラは固くても大丈夫なようにと、ひと切れサイズを更に半分ほどに切って口に入れた。そして、反応は琴葉と同じだった。


「うそ・・信じられない。これがあの固くて有名なヘルベアーのお肉なの?」

「テトラ もっと 食べたい」

最後にヒロトも肉を口にした。それは確かにこれまでどの焼肉屋でも食べたことのない美味しさであった。噛まずとも舌の上で溶けだし始めるような柔らかさ、同時に口の中に広がる肉自体の旨み。さらにスパイシー・オニオンに漬けたことによるピリっとした辛味が、次へ次へと食欲を湧き立てる。


「これはうまい!みんなはこれを今まで食べたことがないのか?どうして誰も作らなかったんだ?」

ヒロトは単純な疑問をぶつけた。それもそうだ。実際にやったことと言えば、スパイシー・オニオンに漬けて焼いただけなのだから。


「ヘルベアーの肉がこんなに柔らかくなるなんて誰も知らないわよ。強力なモンスターだからわざわざ狩りになんて行かないし。必要に迫られて食べたことがある人がいるだけで、一般的に食卓に並ぶことはないわ。」

「そうどすなぁ。それにわざわざスパイシー・オニオンに3時間も漬けたりしいひんし・・」

「じゃあこれを売り出せば、みんな買いに来るんじゃないか?このギルド、財政難なんだろ?もしかしたらこれで少しは回復するんじゃないか?」


悲しくもヒロトの提案に応えるものはいなかった。文字通り味をしめた皆が2枚目の肉に集中してしまったからである。

読んでくれている方々に感謝を込めて。

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