5杯目:美味しい焼肉の味
「マスター 下がって こんな 大きいの テトラ 見たことない」
あまりに巨大な体を持ち、あまりに凶暴な牙を見せるヘルベアーは、ヒロトが初めて見た個体より一回りも二回りも大きかった。そんなヘルベアーの前にテトラはヒロトを庇うように勇敢に立ちふさがり、杖を掲げ魔法を唱え始めた。
「爆ぜよ 爆ぜよ 無から生まれし炎よ ダークフレイム!」
幼女姿のテトラからは想像できないような、黒ではなく、まさに漆黒と呼ぶべき炎が放たれ巨大なヘルベアーを包み込み、焼いた。
「グロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
悲痛の叫びに肉の焼ける臭い、それと目の前の男の死体がヒロトにこれは現実なんだと認識させた。異世界に来た当初、恐怖に直面し一度は死にかけたとは言え、それまではどこか夢見心地・お客さん気分が抜けていなかったのだ。
気を付けないと・・今回はテトラがいたから助かった-そう思ってしまったヒロトはまだまだ甘かった。急に炎の中から燃えた倒木が勢いよくヒロトに向かって飛んできたのだ。熱さで苦しむヘルベアーが暴れて投げたものだろう。直撃すれば人間などぐちゃりと潰れてしまう勢いだ。
「マスター!」
ヒロトより一瞬早く危機を察知したテトラは、魔法障壁をはって自ら投げられた燃える倒木に体当たりをしその軌道をそらした。おかげでヒロトは助かったが、倒木の衝撃を殺しきれなかったテトラは地面に叩きつけられ、大ダメージを負ってしまった。
「テ、テトラッ!大丈夫かっ?」
テトラのもとに駆け寄るヒロト。
「マスター 逃げて・・」
テトラの視線の先には半分以上消えてしまった漆黒の炎からのぞく、怒り狂ったヘルベアーの姿があった。
逃げたい。
それがヒロトの正直な気持ちであった。出来るならテトラを抱えて逃げ出してしまいたい。しかし自分ひとりでも逃げきれなかった経験から、それは不可能だとヒロトは悟っていた。
では自分ひとりだけで逃げてみるか、そんなこと出来るわけがない。幼い女の子が身を呈して自分を守ってくれたのに、自分だけ逃げるわけにはいかない。
ヒロトは無意識に異空間ポケットからハンドガンを取り出し、ヘルベアーに照準を合わせ・・引き金を引いた。
閃光、まさにそれは閃光であった。
想像していた乾いた発射音ではなく、叩きつけるような重低音の轟音が鳴り、ハンドガンの先から青白い閃光が発射された。放たれた弾丸はヘルベアーの体に大きな穴を開け貫通し、その一発で勝負はついてた、が、恐怖に我を忘れたヒロトは続けて引き金を引いた。一発、二発、三発と。ヒロトの気が収まり我に返る頃には、ヘルベアーは血まみれになり、その顔は原型をとどめていなかった。
「マスター もう大丈夫 大丈夫だから・・」
「え・・あ・・、もう終わったのか?それよりテトラッ、大丈夫っ?」
「うん テトラは平気 ちょっと 待って」
テトラが杖を掲げると、杖の先から優しい光が放たれテトラを包み、その傷をみるみるうちに癒した。
傷が癒え、立ち上がったテトラはお尻についた汚れをパンパンと叩いた。
「さっきは本当に助かったよ、かばってくれてありがとう。それにしても相変わらずテトラの魔法は凄いな。さっきのダークフレイム?あの炎の魔法も凄かったし。」
「マスターが 魔法で出した その武器も凄い それは 何?」
「あぁ、これはハンドガンって言ってな。オレも詳しくは知らないんだけど・・」
「ヘルベアーの体を 貫通できるなんて 普通じゃない」
「そんなに硬いのか?」
「触ってみれば わかる」
ヒロトは絶命したヘルベアーの横に立ち、その体に触れた。炎に焼かれていたせいかまだかなり熱く、硬いかどうか調べるほど触れなかったが、それよりもヒロトには気になることがあった。
「すごく・・美味しそうな匂いがするな。焼肉屋の前を通った時にする、あのそそる匂いがする。」
「いいのは匂いだけ ヘルベアーの肉は 固くてとても 食べられない」
「それは調理の仕方次第なんじゃないか?こんな美味しそうな匂いがするのに、食べない手はないだろ。」
ヒロトはザ・アルティメットを発動させた。
【ヘルベアーの肉を美味しく食べる方法】
1、スパイシー・オニオンをすり潰し、その中に厚さ1cm程に切った肉を3時間漬ける。
2、焼くときはかなり強火で片面を10秒焼いてから、ひっくり返して更に30秒焼く。
「なんか、簡単に柔らかくできて食べられそうだけど・・スパイシー・オニオンって何?」
「スパイシー・オニオンを 知らないの?」
「あんまりそういうの・・詳しくなくて・・」
「スパイシー・オニオンは ギルドの庭にも 生えてる」
「そうなの?じゃあ今すぐ戻って調理してみよう、きっと美味しくて柔らかいお肉が食べられるはず!」
「洞窟は 行かなくて いいの?」
「んー今日はもういいや、また今度にしよう!」
簡単に言うとヒロトは匂いに負けたのだ。それほどまでに焼かれたヘルベアーからは美味しそうな匂いが漂っていた。ヒロトはポケットから剣を取り出し、ヘルベアーの腕・脚・胴のそれぞれ美味しい部位をザ・アルティメットの指示に従い切り落とし、テトラと二人でギルドに持ち帰った。
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