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キバガミが仲間になったよ

 二つ名付きトロールを倒したフィル。なかなかに強敵であったが、終ってみればフィルの強さが際立った戦いだった。


 まさしく横綱相撲であった。フィルの威風堂々たる凱旋を見て、キバガミは平伏する。


 フィルが戻ってくると、尻尾をぴんと伸ばし、それをふりふりする。

 フィルが側までやってくると、「くーん」と声をならし、お腹を見せる。


 それを見たフィルは、


「おお、ワンちゃんだ」


 表情を崩し、駆け寄る。お腹と喉を同時に撫で、モフモフする。モフモフされたキバガミはとろんとする。


 そこに牙狼族の長の貫禄はなかったが、配下の狼は落胆したりしない。牙狼族は強者に従う遺伝子を持っているのだ。


 皆、一斉にごろんとお腹を見せる。尻尾をふりふりする。

 その姿に満足したキバガミはフィルのほうに振り返るとこう言った。


「見事です、フィル。いえ、フィル様」


「おお、様付けになった」


「当たり前です。あのような強さを見せられてため口などきけません」


「別にため口でいいんだけど」


「そういうわけには参りません。我々はこれからフィル様の配下になるのですから」

「はいかってなに?」


 きょとんとするフィル。


「はいかというのは手下のことでございます。これから我が一族はあなた様の命令をすべて聞きます」


 キバガミは尻尾をふりふり断言する。


 えー、いいよお、と遠慮するフィルだが、配下になる、ならないでしばらく問答になる。


 これは配下にすると約束せねばことは収まらないと思ったフィルは、吐息しながらキバガミを配下にする。


「でも、キバガミは大きいから学院に連れて帰れない」


 キバガミのように巨大な狼を見れば学院の生徒たちは大騒ぎとなるだろう。

 困っているとキバガミはそれには心配及びませんと言う。


 ぶるぶると全身を震わせると、光り輝く。数瞬でキバガミは小さくなり、子犬サイズとなる。


「きゃん!」


 と吠えるキバガミ。


「おお、すごい、子犬となった」


「これならば人間社会でも目立ちません」


 逆に可愛くて目立つかもしれないが、まあ、恐れられることはないか、そう思ったフィルは学院で彼を飼うことにした。餌代は掛かるかもしれないが、まあ、それは自分のお小遣いでなんとかする。


 フィルはキバガミの銀色の毛並みを愛おしげに撫でると、彼の背中が傷付いていることに気が付く。先ほどゴブリンに射られた傷だ。酷く出血していたので回復魔法を掛ける。


 緑色に輝くキバガミ、みるみるうちに傷は塞がっていく。

 その光景を見た牙狼一族はさらにフィルに敬服し、心酔する。


「おお、奇蹟だ。フィル様はきっと女神に違いない」


 大げさな、と思わなくもないが、狼たちは尻尾ふりふりをやめない。ま、可愛いからいいか、と説得を諦めるとフィルはキバガミに声を掛ける。


「これでキバガミたちはもう怯えなくていいと思う。もう犬鍋にされないよ」


「助かります。同胞の多くが救われた」


「そのお礼と言ってはなんなんだけど、一緒に竜髭草を探してくれない?」


「竜髭草? なにに使うのですか?」


「大切な友達が熱で倒れてしまったの。解熱剤を作りたい」


「なるほど、分かりました。しかし、我々に野草知識はない。竜髭草とはどのような草なのですか」


「竜のおひげみたいなの」


 口元をぴょーんとさせ、ひげを作る。


「うーん、よく分かりませんが頑張ってみます」


「あ、待って、絵を描く」


 フィルは紙とペンを取り出すとさらさらと書く。

 それを覗き込むキバガミ。意外と上手いですね、と褒めてくれる。


「山に住んでいた頃、やることがなくて絵を描いてた。モデルがいないから動物や草花ばかり描いてたの」


「なるほど、今度、オレも描いてもらいたいな」


「犬も得意なの」


 と言っている間に描き終わるフィル。その絵を見た牙狼族の一匹が声を上げる。


「あ、これならば見たことがあります。たしか山の奥にある滝壺の付近に生えていたはず」


「おお、すごいの、さっそく行くの」


 フィルがそう言うとキバガミは尻尾を振る。


「お待ちください、フィル様。滝壺は迷いやすい場所にあります。オレが送りましょう」


「まじで! それは有り難い」


 フィルが喜ぶとキバガミは再び大きくなる。あっという間にフィルを背中に乗せられるくらいの巨体になる。


 フィルはその背中に飛び乗る。馬にでも乗るようにまたがる。


「おー、もふもふだ、もふもふ」


「乗り心地、お気に召したようでなによりです」


 キバガミは誇らしげに言うと、走り出す。いきなりトップスピードになる加速性だ。しかも凹凸の激しい山道をなんなく走破する。


「すごい、まるで十頭だての馬車みたい」


「馬などには負けませぬ」


 気をよくしたキバガミはさらにスピードを上げる。この調子ならば山をぐるっと回っても一時間も掛からないだろう。あっという間に滝壺に付くはずだった。


 事実、キバガミは30分ほどで滝壺に到着する。


「すごい。キバガミは最高なの」


「お褒めにあずかり恐縮です。さあ、フィル様、さっそく、竜髭草を探しましょう」


「うん」


 そう返答するとフィルは辺りを見回す。滝壺にはあまり植物が生えておらす、すぐに見つけることができた。滝壺の一角、端っこに先ほど絵に描いた草が生えていた。


「竜髭草みっけ」


 フィルは駆け寄ると、慎重に竜髭草の根を掘る。この植物は根に薬効がある成分が含まれているのだ。


 土をかき分け、綺麗に取るとそれをポシェットに入れる。セリカに買ってもらった格好いいポシェットに。


「これでビアンカの薬を作れる。キバガミ、これから山を下りてビアンカのところに向かうけど、また乗せてくれる?」


「是非、オレを使ってください」


 巨大な尻尾をふりふりするとキバガミは背中を見せた。それにちょんと乗るフィル。横乗りというやつだ。


「見慣れぬ乗り方ですな」


「これは横乗り。通称お姫様乗りなの。セリカに覚えておきなさいと言われた。ここで練習する」


 お姫様乗りは令嬢たちの必須技能らしく、馬に乗るときなどに使う。今度、お姫様乗りの試験があるから練習できるときにしておきたかった。


「しかし、不安定では?」


「ボクを舐めないでほしいの。本気で走っていいよ」


 その言葉を聞いたキバガミは本気で走るが、フィルは横向きに乗ってもバランスを崩すことなく、優雅に乗っていた。足腰の強さが半端ないからどのような体勢でも安定するのだ。


「我が主は化け物か」


 そう思ったキバガミだが、失礼に当たるので口にはせず、黙々と走り始めた。


 なんでも山の麓には解熱剤が必要な友人が伏せっているという。主人の友人はキバガミにとっても友人と同じだった。一秒でも早く解熱剤を届け、高熱から解放してやりたかった。  

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