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名もなき無人島

 セレスティア王国のどこか、名もなき島に飛び着いたビアンカとフィル。

 セリカたちが助けにくるまでふたりでサバイバルをしなければいけないらしい。


 ビアンカとしては溜め息ものであるが、生きるのを放棄する気はなかった。ビアンカには生きて学院に戻り、学院を卒業するという目標があるのだ。


「なんで?」と尋ねるフィル。


 ビアンカは溜め息交じりで答える。


「わたしは獣人族の村を代表してきているの。彼らの期待は裏切れない」


「そういえばそんなこと言ってた」


「獣人族は森の中の貧しい村。村人たちがカンパしてやっと入学できたの。こんなとこで死ねない」


「でも、さっき、自殺しようとしたような……」


「あれは勢い余ってです。もう、そんなことはしない」


 ビアンカは断言すると、浜辺の周辺にある小枝を拾い始めた。


「なにしているの?」


「まずは服を乾かさないと」


「火を焚いて暖を取るんだね」


 フィルはそう言うと素早い速度で周辺にある小枝を集めてきた。ふたりで探したのですぐに集まる。


 小枝を山盛りにするとビアンカが《着火》の魔法を唱える。

 小枝に火がともり、煙が立ち上がる。


「おお、すごい。まるで魔術師みたい」


「魔法科の生徒だから……。てゆうか、フィル、あなたは凄腕の魔術師と聞いたけど」


 フィルは元気よく首を横に振る。


「ボクは大賢者の孫。だから賢者なの」


「……そうなんだ。ま、すごいのは聞いてるけど」


 ビアンカはそう言うと、制服を脱ぎ、ぎゅっと絞る。大量の水が出た。ある程度水分を抜いたら、それを火にかざして乾燥させる。


 フィルもそれを真似する。


 ふたり、ドロワーズだけになる。妙な光景だが、ビアンカは沈黙を守った。フィルと馴れ合いたくないからだ。


 しかし、肝心のフィルがどんどん質問をしてくる。


「ねえねえ、ビアンカ、ビアンカの制服はどうしてリボンの色が違うの?」


「……王立学院では学科で色分けしているのよ」


「獣人さんって尻尾はないの?」


「……あるよ」


 ぴょこんと尻尾を立てる。


「焚き火をするとおねしょするってほんとかな」


「人によるでしょ」


 その都度、返答はするが、このままでは永遠と会話が続くと思ったビアンカは、生乾きの制服に袖を通そうとする。


「まだ乾いてないよ?」


 フィルは不思議そうな顔をする。


「知ってる。でも、あなたとあまり話したくない。だから飲み水を探しに行く。あなたはここで待ってて」


 ツンケンと背中を向けるが、そんなビアンカにフィルは魔法を掛ける。


「待って、今、乾燥魔法を掛けるから」


「乾燥魔法なんて聞いたことが――」


 と言いかけた瞬間、ビアンカは熱風に包まれる。


 フィルは無詠唱で巨大な火柱を発生させると、それに風の魔法を掛け、暖かい空気をビアンカに送りつけたのだ。


 人間が火傷しない程度、衣服と髪が乾く適度な温風がビアンカを包み込む。


 思わずその風に身を任せてしまう。なんとも心地よい風だったからだ。五分ほどその風に身を委ねていると、生乾きだった制服が乾く。ぐっしょりだった下着まで乾いた。


 ビアンカは思わず「ありがとう」と言ってしまうが、フィルは、にこりと「どういたしまして」と返した。


 こうなってくると近寄らないで、と、むげにもできず、ビアンカはフィルと共に水源を探すことにした。


 ビアンカは忍ばせていた鉄の棒をふたつ持つとダウジングをする。

 わずかな変化を頼りに水源を探す。


「なにをやっているの?」


 フィルが不思議そうに覗き込んでくるので説明する。


「これはダウジングというもの。錬金術師や山師が使う道具で、地下のわずかな磁場の変化をキャッチして、水源や温泉、金脈を探す道具」


「ごいすー」


 驚くフィル。


「待ってて。これですぐに水源を探すから」


 ――と一時間、水場は見つからない?


「ボクが代わろうか?」


 と哀れむ視線をぶつけてくるのでむすっとする。


「……できるものならばやってください」


 フィルにダウジングの棒を渡すが、フィルはそんなものいらない、と言う。


「ボクは鼻がいいの。水場の匂いを嗅ぎ分ける」


「そんな獣人でもできないようなことができるわけがない」


 小馬鹿にした感じで言うが、道化なのはビアンカのほうだった。

 フィルはくんくんと匂いを嗅ぐと、「こっち」と指さす。茂みの奥へ向かう。

 そこには小さな湧き水が湧く泉があった。

 それを見つけた得意げにVサインをするとにかっと微笑んだ。

 どう? すごいでしょ? 褒めて褒めて、という顔をしている。


 どや顔というやつであるが、彼女の年齢はビアンカより下である。それに下級生でもある。


 ここは良い子良い子と頭を撫でてあげるのが上級生の努めだろう。

 彼女が恋のライバルであることを忘れたビアンカは、フィルの頭を軽く撫でる。

 フィルの銀色の髪は驚くくらい柔らかく、綺麗だった。


(……こんな触り心地の良い髪は初めて)


 そんな感想が心を満たす。その後、ビアンカは泉の水が飲めるか確認すると、そこをベースキャンプに島でサバイバルをすることにした。

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