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メイド服姿なの! きゅぴん♪

 この学院の学院長は大賢者の称号を持つ魔術師。

 名をアーリマンという。


 かつてこの世界を救った賢者ザンドルフと双璧と呼ばれていた実力者で、人格的にも優れた人物として知られているが、ひとつだけ弱点がある。


 それは女性が大好きで、可愛らしい女性を見れば口説かずにはいられず、理想の尻を見つければ撫でずにはいられないことだった。


 この国には破廉恥罪という罪があるから、たびたび、問題になり、一度、理事会でつるし上げられたことがある。


 そのときはそれまでの功績、その後、生徒には絶対触れない、という誓紙を出すことにより、ことを丸く収めたらしい。


 それで現在も学院長をしているらしいが、そんな学院長に女子三人だけでお願いに行くのは、少しだけ怖かった。


 まさか学院長も侯爵家の娘にセクハラはしてこまい、と思うのだが。

 だが、学院長はしてこなくても、メイド服をきた少女はしてきた。

 彼女は学院長室へ行く前に、メイド服を三着、用意する。

 フィルとセリカの前にメイド服を置くと、これに着替えるように指示する。

 まず口を開いたのはセリカだった。


「なぜ、このようなものを着ないといけないのでしょうか?」


 シャロンの用意したメイド服は、通常のものよりもスカート丈が短く、胸が開いている。


 シャロンはさも当然のように言う。


「ここで美少女三人がお願いに出ても効果があるでしょうが、できれば『こうかはばつぐんだ!』にしたいのです。スカート丈を短くし、素足をさらし、胸元も開いて大胆になりましょう」


「いやです。わたくしはこれでも侯爵家の娘。このような破廉恥な格好はできません」


 その言葉を聞いたシャロンは泣く真似をする。


「……メイド服が破廉恥なんていわれたら、それに毎日袖を通しているわたしの立場が」


 他者の気持ちに敏感なセリカは慌ててフォローを入れる。


「そ、そういう意味ではないのです。普通のメイド服ならともかく、これはちょっと……」


「メイド服に貴賤はありません。仕える相手にご奉仕する気持ちが大事なのです」


 論法のすり替えであるが、さらにシャロンは攻撃の手を緩めない。


「ほら、フィルさんは文句も言わずにメイド服を着ていますよ」


「え?」


 とフィルのほうを見るとたしかに、すっぽんぽんになっている。

 下着もシャロンが用意したものに着替えている。

 かぼちゃパンツ、いわゆるドロワーズでは短いスカートをはけないのだ。

 てきぱきとお着替えするとメイド服を着こなす。

 くるり、と回り、スカートの裾を揺らす。


「おお、これは動きやすい。強そう!」


 その姿を見て、思わず鼻血でそうになるセリカ。

 王立学院の制服姿も愛らしいが、彼女のメイド服姿のなんと愛らしいことか。

 銀色の髪の上にちょこんとのったホワイブリム。

 黒を基調にしたメイド服。

 素足から見えるガーターベルトと白いタイツはとてもセクシーだ。


(ぎょ、僥倖(ぎょうこう)……)


 とクラクラしながらそれを見つめると、セリカにこの作戦を中止させる理由はなくなっていた。


 こんなにも可愛らしいフィルが見れるのならば、その作戦もありだろう、と納得する。


 自分もメイド服に着替えると、シャロンとともに学院長室へ行く。


 そこには大賢者の風格をたずさえたひとりの老人がいたが、三人娘の艶姿を見ると、一瞬でその荘厳さを崩していた。


 どうやら女好きという噂は本当のようだ。



一応、セリカは忠誠の対象であり、年少者であるフィルを守る形で彼女の前に立つが、さすがに侯爵令嬢である自分に「せくはら」はしてこない。


 ただ、後生なのでスカートの裾を持ってくるりと回り、

「お帰りなさいませ、アーリマン様。きゅぴん、わたしたち、寂しかったですぅ」

 と言って欲しいとオーダーされた。


 三人同時に。

 なんのためにそんなことをしなければいけないのだろうか? 

 多少呆れたが、それで話がうまく進むのであれば、問題ない。

 三人娘は視線を交差させると、アーリマン学院長の指示に従った。

 その姿を見たアーリマンは、「この歳まで生きていて良かった」とむせび泣く。


 これで思い起こすことなくあの世に旅立てるだろう、と、椅子に座るとそっと目を閉じた。


 ここで涅槃に旅立たれると目的を達成できない。

 なんとか止めようとするが、シャロンが冷静に諭す。


「学院長様は、日に一回は死ぬ、と言って、周囲の同情を引こうとします。かれこれ20年くらい言い続けていますので、あと10年くらいは死ぬことはないでしょう」


 ほっと胸をなで下ろすセリカ。

 ならばさっそくお願いをすべきだろう。

 自分たちがここまでサービスしたのだ。

 転移装置を使わせてもらうくらい、当然の権利のように思えた。


 そのことをはっきり伝えると、アーリマンは、


「ふぉっふぉっふぉ」


 と笑った。


「侯爵家のご令嬢は単刀直入じゃの。いきなりそんな相談をされるとは思っていなかった」


「こちらも『きゅるん♪』なんて言わされるとは思っていませんでしたのでおあいこかと」


「そういう考え方もある。転移装置を使いたいか。まあ、許可は出せないこともないが、理由は聞いておかないと」


「それは……」


 一瞬言いよどむ。フィルのことを話していいか迷ったのだ。

 フィルが王族であることを知っているのは、ごく一部の人間だけ。

 この老人にそのことを話していいものだろうか。

 逡巡していると、アーリマンは言った。


「ワシはその娘、フィルの祖父の友人だ。事情は知っている」


「なんと!」


 セリカは驚くが、フィルはもっと驚く。


「アリマーンは爺ちゃんの友達なの?」


「アーリマンじゃ。うむ、お前の祖父、ザンドルフとは長年の友人だ。先日も会って、お前の未来の行く末を託された」


「おお、爺ちゃんに会ったの? 元気だった?」


「元気だったぞ」


 幽霊にしては、とは付け加えなかったアーリマン。


 そわそわしているセリカにも片目をつぶることによって、すでにザンドルフが他界していることを示し合わせる。


 いつかはフィルの祖父がすでに死んでいることを伝えなければならないが、それは今でない、ということを察してくれているのだろう。


 その一事だけでもアーリマンが信頼できる人物だと分かったセリカは、彼に信頼を置くことにした。


 フィルの状況を正直に話す。


「実はフィル様はホームシックにかかっておりまして。一度、故郷の山に戻り、心を癒やす時間を与えようかと」


「なるほど、この子がこの学院にきて数ヶ月。そろそろ山も恋しくなろう。里心も付こう」


 アーリマンは長いひげを持て余すように触ると、「いいだろう」と言った。

 学院にある転移装置を使っても良い、と許可をくれたのだ。


「わーい、ありがとう、アリマーン」


「アーリマンじゃ」


「ありがとうございます。アーリマン様」


 とはセリカ。

 アーリマンもセリカに答える。


「しかし、山に帰るのはいいが、そのまま学院に戻ってきたくなくなるかもしれないぞ。そのことは考えているのか?」


「もちろん、その可能性も考慮はしてあります。ですが、もしもフィル様が心の底からそれを願うのであれば、それもよろしいかと」


「……なんと、侯爵令嬢はフィルの『可能性』を諦めるのか」


「わたくしは、最初、フィル様のその可能性に懸けていましたが、彼女と長い間、接することにより、彼女の人柄を好きになってしまいました。もしもこの王都が合わないというのならば、無理強いをしたくありません」


「なんともまあ大胆な娘だ」


 アーリマンは溜め息をつくが、フィルもそんなセリカを見つめていた。


 フィルはなかなかに空気が読めるようになったから、ここでこんな台詞を思いつき、それで締めくくる。


「大丈夫だよ、セリカ。山に帰れるのは嬉しいけど、ここも大好きなの。ご飯は美味しいし、爺ちゃんの友達のアリーマンもいるし、シャロンもいる」


「アーリマンじゃ」


「そうそう、アーリマン。それにフラウ先生もいるし、カミラ夫人もいるし、シエラにテレジアもいるの。みんな、木を渡るのは下手そうだけど、その分、面白いの」


 それに、とフィルは締めくくる。


「この王都にはセリカがいるの。セリカは山の動物を全部を合わせたのと同じくらい大好きなの」


 それを聞いたセリカは思わず頬を緩めてしまう。

 このままフィルを抱きしめたくなったが、それを五秒ほど我慢すると、実行した。

 ぎゅうっと抱きしめるとフィルからはとてもいい匂いがした。

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