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コルセットで強くなるの!

 迎えの馬車がやってくる。

 その中には大量のメイドさんが乗っていた。


 メイドさんたちは直角に近いお辞儀をすると、フィルのことを、

「フィル様でしょうか?」

 と確認してきた。


 フィルは、元気な声で、

「ボクがフィルだよ!」

 というと、フィルを寮の中に押し込んだ。


 メイドさんは言う。


「これからフィル様の髪を結い上げ、ドレスを纏わせて頂きます。どこから見ても最高のご令嬢に仕立てて見せます」


「おお、ご令嬢。セリカみたい」


「セリカお嬢様には勝てませんが、それでも二番目に素敵な令嬢にしてみせます」


 と握り拳を突き立てるメイドさん。

 彼女は申し遅れましたわ、と自己紹介を始める。


「申し遅れました。自分はセレスティア侯爵家の女中頭を務めるもの。メイド長のルイズと申します」


「初めまして、ルイズさん! ボク、フィル」


「主からいつもうかがっております。ルイズはセリカお嬢様の専属でして」


「専属か。専用ってこと?」


「そうです」


「セリカ専用メイド、なんか格好いい」


 とフィルが口にすると、ルイズは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。


 こうしてセリカお嬢様命! と腕に入れ墨を入れてそうなメイドさん、ルイズと出会ったフィル。


 彼女はセリカの命令により、フィルにドレスを届け、着付けをしてくれた。

 まずは下着。


 これは誰に見せる予定はないが、淑女たるもの見えないところにこそ気を遣うべし、と絹の胸当てとドロワーズを用意してくれた。


 すっぽんぽんになるとそれらを身につける。

 次にコルセット。


 世間の令嬢はドレスを着るとき、コルセットなる拘束着を身につけ、鍛錬するらしい。


 ルイズはフィルをコルセットで拘束する。

 フィルに装着させると、全身を使って締め上げる。


「むぎぎー!」


 と親の敵のように締め上げる。

 こ、これは苦しい。だけどなんかこれを着けると強くなりそうだ。

 山奥で爺ちゃんと暮らしていたとき、鉄の胴回りなどを付けて鍛錬していた。

 あれに比べれば楽であるが、今日一日、解いては駄目と言われるとげんなりした。

 まあ、強くなるためならば仕方ない。

 我慢する。


 素直に受け入れると、ルイズは「さすがはフィル様、淑女レベルが1アップしました」



 と微笑んだ。

 コルセットを装着すると、先日、購入したドレスを身に纏う。

 先日、試着したときはブカブカな部分も多かったが、今日のはぴったりだ。

 ぎゅうと締め付けたコルセットの部分まで計算されている。

 さすがは王都一の仕立屋さん、仕事にそつがない。

 ルイズがそう褒め立てるので、賛同すると、着替えは終わる。

 すると控えていたメイドさんAとBが出てきて、鏡を両脇に設置する。


「いかがでしょうか?」


 と尋ねられる。

 いかがでしょうか、と言われてもフィルにドレスの善し悪しなどわからぬ。

 髪型もぐるぐる巻きにされているとでまるで自分ではないみたい、と口にする。


 感動が薄いフィルに少し落胆気味のメイドたちであるが、寮から馬車に乗る際、寮生たちの黄色い声を聞き、気をよくする。



「まあ、あの方はどなた?」

「うちの寮にこんな綺麗なご令嬢がいたかしら?」

「あれはフィルさんよ。素敵。まるでお姫様みたい」



 その賛辞はフィルよりもメイドさんたちの気をよくした。

 彼女たちは満足げな表情で馬車まで向かった。



 馬車は先日、セリカと一緒に乗ったもの。ドワーフの名工が作った立派なもの。

 扉が開けられると、手を添えられ、中に入る。

 中には誰もいなかった。

 ひとりで向かわなければいけないらしい。


 ならば先日のように車内BARでつまみでも食べるか、と探すが、車内BARは撤去されていた。


 同乗したメイドのルイズは言う。


「フィル様は際限なく食べてしまわれるので撤去しました。コルセットをした状態で満腹まで食べるととんでもないことになります」


「まじか!」

「まじです」


「会場では美味しい料理が出ると聞いたけど」


「山海の珍味、満漢全席のような料理が出てきますが、ほとんどのものは口にしません」


「どして?」


「殿方は人脈を築くため、維持するため、忙しく話しかけ回りますので食べる機会がないのです。女性はコルセットをしていますし、他人の前でたくさん食べるのは、はしたないですから」


「話が違うの!! 美味しい料理を食べ放題って聞いたの」


 食べ物のことになると激おこしてしまうフィル。この表情を見たのはルイズが初めてかもしれない。


「大丈夫です。パーティーが終れば、好きなだけ食べてよろしいですから」


「ほんと……?」


「本当です」


「豚さん丸々一頭食べてもいい?」


「尻尾の先から耳までも」


「牛肉も好きなの」


「フィレからロースまでなんでも」


 それを聞いたフィルは満足すると、馬車の席にちゃんと座った。


 初めて乗ったときは緊張のあまり、ちょこんとしか座れなかったが、今は背もたれに全身を預けられるくらいリラックスできていた。


 ただし、あまりにリラックスし過ぎたために頭まで押しつけてしまったが。

 それは髪型が崩れるとルイズに注意されてしまった。


 30分ほど馬車に揺られると、セリカの家であるセレスティア侯爵家に到着した。

 セレスティア侯爵家はとても大きい。


 もちろん、王立学院にはかなわないが、それでも爺ちゃんの工房よりも何倍もデカかった。


「すごいなあ。ここで隠れんぼしたら面白そう」


 素朴な感想を漏らすとそのまま馬車は敷地内に入った。

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