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友達、百人、作れるかな

 隠し通路に入ると、そこは書斎だった。

 一面、壁に本棚がある。

 フィルは爺ちゃんの工房を思い出したが、そこにある本はすべて『悪魔』関連の本だった。

 悪魔関連の本は爺ちゃんの書斎にもなく、この学院の図書館にもない。

 悪魔関連の本は許可を得た研究者しか読むことができないのだ。

 本棚を調べると、一部分がごっそり抜けていることに気がつく。

 どうやらその部分が悪魔を復活させる方法であると気がついたのはセリカだった。

 

「どうして分かるの?」


「ここを管理しているものは生真面目な性格で目録を残してあります。現代に悪魔を呼び出す方法は一箇所に固めて、厳重に管理していたようです」


「もしも来週、管理者がきたら仰天しますね」


 シャロンは言う。


「驚天動地というか、王国の魔術組合から調査団がきますよ」


「ならばその調査団の調査に任せます?」


「……そうですね。ここからはもう我々の手の及ぶところにない。そうするしか」


 とセリカは言いかけたが、フィルは言う。


「それは駄目! ボクたちの手で解決しないと」


「どうしてですか? そんな義理はないはず」


「義理はあるよ。だってこの本を持ちだしたのはボクのクラスメイトだもの」


「クラスメイト?」


「うん、ボクのクラスメイトにね。テレジアっていう意地の悪い子がいるの。その子が付けていた香水の匂いがするの」


「フィル様のクラスメイトの仕業でしたか。なぜ、そのようなことを」


「たぶんだけど、彼女はボクのこと嫌いみたい。魔法科に入れるのに礼節科を選んだのが気にくわなかったみたいだし、その後、剣術の勝負でもボクが勝っちゃったし」


「つまり、『嫉妬』ですか」


「たぶん」


「この館に住んでいた悪魔崇拝者は、七つの大罪のひとつの悪魔、『嫉妬』をつかさどっていました。その怨念が彼女をここに導いたのかもしれません」


「分かりやすいですね」


 とシャロンは言う。


「分かりやすいですが、尋常ならざる事態。ですが、幸いと犯人の目星はあります。まだ彼女が悪魔化していないことを願ってなんとか止めましょう」


 三人はそれぞれにうなずくと、男爵家令嬢のテレジアを探すことにした。



幽霊屋敷から戻ると、三人はまず情報収集をした。


 テレジアが寮住まいならば直接尋ねれば済むのだが、彼女は王都にある実家から馬車で通っていた。


 フィルたちは手分けをし、礼節科の生徒が通っている寮を周り、テレジアの情報を集める。

 しかし、足を棒にして集めた情報は微々たるものだった。



「すみません。テレジアさんのことはよく知りません」

「わたし、あの子嫌い」

「感じ悪いよねー」



 と、フィルが知っている情報しかない。


「というか、テレジアさんは本当に嫌われものですね」


 吐息を漏らすシャロン。

 そんなことないよ! と弁明できないのがなんとも。

 それでも彼女が道を踏み外すのはなんとかしたいが。

 そんなことを思っていると、時計の針が九時を過ぎた。

 寮の就寝時間が近づいてくる。


 寮生ではないセリカは帰らなければいけないし、シャロンも明日の仕事の準備をしなければならない。自然的に解散を宣言すると、三人はそれぞれの場所に戻った。


 ただ、セリカは去り際に言う。


「フィル様。あなたは無茶ばかりしますが、今回だけは気をつけてください。古代の悪魔はとても強く、危険な存在です」


「わかった」


 と生返事をすると、フィルは自分の部屋に戻った。

 そこでフィルは自分の部屋の窓が開いていることに気がつく。


 探検に行くときに閉めたはずだが、そう思っていると、机の上に手紙が置かれていることに気がつく。


 その手紙には、


『助けて!』


 という文字が刻まれていた。


 その文字の主は誰かは分からなかったが、手紙は香水の匂いがした。

 差出人はテレジアのようだ。

 手紙にはこうも書かれていた。

 助けての部分以外は古代魔法文字で書かれていた。



「この娘は預かった。返してほしければひとり、決闘広場にこい。もしも助けを呼んだらこの娘は死ぬ」


 この娘とはテレジアのことだろうか。

 彼女が悪魔を解き放ってしまったのだろうか。

 解き放った悪魔に脅されているのだろうか。

 身体を奪われてしまったのだろうか。

 それは分からないが、フィルは指定の場所に向かうつもりだった。

 心の中で念じる。



『友達、百人、作れるかな』



 フィルが入学したときに抱いた言葉だ。

 テレジアには意地悪されたが、だからといってフィルは彼女を憎んでいない。

 彼女がフィルのことを友達にしてくれる気持ちがあるのならば、喜んで友達にしてもらいたかった。


 そのことをセリカに話せば、

「なんと馬鹿正直なお方」

 と嘆くだろうか。

 それとも、

「心優しい子」

 と喜んでくれるだろうか。

 どちらかは分からないが、フィルは馬鹿正直で心優しい子になりたかった。

 テレジアがピンチだというのならば、彼女を救ってあげたかった。

 そう思ったフィルは準備をする。


 爺ちゃんの工房から持ってきた魔法が付与された戦闘用のダガー、それに身を守る護符。それらを装着すると、悪魔が指定した決闘広場へと向かった。

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