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幽霊屋敷で冒険!

 幽霊屋敷の道は険しい、わけではない。

 幽霊屋敷はこの学院が所有する山の中腹に立てられている。


 山へは歩いて二〇分、中腹までは三〇分というところだろうか、ちょっとしたハイキング程度の距離であるが、問題があるとすれば距離よりも幽霊屋敷の周りに付与された結界魔法だろうか。


 学院側も馬鹿ではなく、幽霊が出ると噂になっている施設を放置することがなかった。

 大切な学院生が忍び込んで怪我でもしないとうに結界を張っていたのである。

 フィルたちはその結界の前まできた。

 これ見よがしにピンク色の薄い膜が見える。

 その膜の数歩前で止まり、それを見つめる。

 フィルがちょんと触ろうとするが、セリカに止められる。


「お待ちください。フィルさま。今、触るとびりびりってなりますよ」


 びくり、と手を止めてしまう。

 セリカは補足する。


「それに触れると衛兵たちがやってきます。探検ができなくなります」


「なるほどねえ」


 と気の抜けた声で言ったのはメイドのシャロンだった。

 彼女は魔力がないので結界がまったく見えないようだ。のんきである。


「ちなみに結界って地中まであるの?」


「おそらく、数メートル下までは」


「上にはどこまで?」


「学院の塔くらいでしょうか」


「円形におおっているわけじゃないのですね」



「ええ、垂直にある感じです」


「なら話は簡単じゃない? 魔法でばばーんって穴を掘ってもぐるか、空を飛んで上から入るか」


「わたくしとフィル様なら飛んで入れるでしょうが、シャロンさんがいると……」


「大丈夫だよ? また木を投げればいい」


 ふたりは即座に、猛然と首を横に振る。


「それはもうこりごりです!」


 とのこと。


「……ならば穴でしょうか」


 セリカは地面を見るが、人間が潜れるトンネルを振るのに時間が掛かりそうだ。

 これは毎日ちょっとずつ掘り進めないと、と思った。


「なんで? 地精霊さんの力を借りればいいのに」


「魔法力で掘ると結界に感知されてしまうのです。それは避けたい。なので弱い魔力で徐々に掘るしか」


「なら『魔力』を使わなければいいんだね」


「たしかにそうですが、そんなこと――」


 と言いかけたセリカの言葉は止まる。

 フィルは腕をぐるぐる回すと地面を思い切り殴っていた。


 彼女が殴った場所は、


 ぼごぉ!


 という音が鳴ると、大地がうがたれる。


 土煙が舞う。

 一瞬で大地に大穴が空く。

 呆れた姿でそれを見ていたが、呆れているのはセリカだけのようだ。

 シャロンはこんなことをささやく。


「彼女なら素手で古竜を倒しても驚きません」


 と。

 たしかにそうなのかもしれないけど。

 と思ったが、セリカはシャロンの脚が震えていることに気がつく。


 どうやらなんだかんだで彼女も驚いているようだった。たしかにフィルの常識知らずのパワーは何度見ても慣れるものではなかった。



 大地に大穴が空くと、それをトンネル代わりにして幽霊屋敷の敷地に侵入。

 幽霊屋敷と呼ばれている館。

 正式には古代魔法研究所と呼ばれる施設だ。

 本来は王国の端、荒野に立っていたらしいが、学院が移築したらしい。


 そこに住んでいた邪悪な魔術師が、悪魔と契約して世の中を荒らし回ったため、魔術史学的な価値が出たのと悪魔学的にも貴重な研究対象になったのだ。


 ただすでに調査は終わっており、もはや調べることはなにもないとのことだったので、こうして学院の端で放置されているというわけである。


 最近はここを幽霊屋敷と称して探検するものもいるため、学院としては結界を張り、立ち入り禁止施設にするしかなかったという。


「この建物自体になんの罪もないのですが、この建物に触発され、悪魔に興味を抱いてしまう生徒もいるかもしれません」


 とセリカは説明する。


「ならば壊せばいいのでは?」


 とシャロンの言葉であるが、そうもいかないらしい。

 この建物には魔術史学的な価値もあるし、歴史的な価値もあるのだった。


 フィルはそれを、

「面倒だね」

 の一言で一刀両断するが、面倒だからこそ今もこうして残っているかと思うと、有り難いことではあった。


 フィルは先頭を切って幽霊屋敷に入る。


 ノックは不要だろう。下手にノックをしてドアを壊したくなかったし、幽霊に逃げられたくもなかった。


 ドアを開けるとそこは真っ暗だった。

 さっそく、持ってきたランタンに火を付けると、メイドのシャロンがかかげる。


「わたしは非戦闘メイド。わたしが持ったほうが効率的です」


 と言い切ると、そのまま周囲を照らす。

 館は想像したよりも綺麗だった。定期的に業者が掃除しているらしい。

 フィルが住んでいた爺ちゃんの工房よりも綺麗で、立派だった。


「爺ちゃんの工房は本と実験器具ばっかりだったしなあ」


 だからだろうか、大きさはそれほど変わらないのに、とても広く感じた。

 そんな感想を抱きながら探索。

 一応、三人ひとまとまりになる。


「幽霊ごときに負けるとは思えないけど、シャロンもいるしね」


「ご配慮感謝しますわ」


 と微笑むメイドさん。


「ところでフィルさん、幽霊を見たらどうするつもりなんですか?」


「取りあえず仲良くなって《念写》の魔法で絵に描く」


「それを学内新聞にあげるとか?」


「そんなことはしないよ。ただ、撮るだけ」


「まあ、それがいいかもですね。幽霊さんにも色々と事情がありますし」


 そうだね、と言うとフィルは鼻に風が当たったことに気がついた。

 変である。

 この館はすべて窓が閉められていて風など入ってこないはずであるが。

 そう思ってセリカとシャロンに尋ねるが、彼女たちはなにも感じなかったようだ。


「たしかにこの館は窓が全部閉まっていますが。勘違いじゃないですか?」


「勘違いじゃないよ。こっち」


 とフィルはセリカの手を引っ張ると、風の吹く方向に向かった。

 扉を開けるとそこの窓が開けられていた。


「この館は厳重に管理されているはずなのに……」


 セリカはそう漏らすがその部屋を調べると窓はかなり前から飽きっぱなしだと分かる。

 雨が入り込み、床が濡れていたのだ。


「業者の手入れは週に一回。その間、雨が降ったのは昨日だけですから、昨日、誰かが忍び込んだことになりますね」


「誰でしょうか?」


「幽霊さんだったり」


「まさか」


 と、そのようなやりとりをするセリカとシャロンを無視し、フィルは臭いを嗅ぐ。

 女臭い匂いがしたのだ。

 花を煮詰めたような香り。

 香水の匂いがした。

 フィルがそれをたどると、地面になにかあることに気がつく。

 フィルはそこに敷かれた敷物を取り外すと、くぼみを見つける。

 それをダガーで外すと取っ手が出てきた。それを持ち上げると地下へと続く階段が。


「隠し通路!」


 セリカとシャロンは同時に口にする。


 なぜ、このような場所の隠し通路があるかは分からないが、このような建物にある隠し通路だ。その先は興味深い場所に繋がっているとしか思えなかった。

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