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ゴブリンの襲撃

「ごめんごめん」


 と謝るフィル。

 フィルの投げた巨木は森ではなく、近くの湖に不時着した。

 ただそれは不幸中の幸いかも。


 到着時、勢いを弱めるため、魔法で逆噴射をしたが、それでも落下の衝撃はすさまじく、地面に落ちていれば誰かが怪我をしていたかもしれない。


 特に武術のたしなみのないシャロンは危なかったはずだ。

 湖水に落ちたゆえにびしょ濡れになるだけですんだのである。


 ただし、湖水に落ちたゆえ、持ってきた着替えやたいまつはすべて駄目になってしまったが。それに今きている服もびしょ濡れである。


 このままでは風邪を引くし、冒険もままならない、ということで湖の側で薪を燃やすことにした。


 三人は手分けをして薪を拾うと、フィルの《着火》魔法で火を付ける。

 着火にしては盛大に火が上がり過ぎの気もするが、薪には無事、火がついた。


 胸当てとドロワーズ姿の娘が三人、薪にあたりながら服を乾かす。濡れた下着や着替えも一緒に。


 もしもこの場に男子がいれば、眼福で倒れてしまったかもしれないが、幸いとここには三人以外誰もいなかった。


 どこまでも静かである。

 シャロンが説明する。


「この場所は通称、戻らずの森。古代エルフが住んでいる魔の森です」


「魔の森? エルフさんが住んでいるのに?」


「古代エルフが住む森は世界各地にありますが、どれも強力な魔法によって守られています。森の加護が受けられない物は森に囚われ、永遠にその地をさまよいます」


「こ、こわい」


「ですがご安心を。わたしにはエルフからもらった護符がありますから」


 と護符を見せる。


「これがあれば普通の森と変わりません。ただし、わたしからあまり離れないように」



「はーい!」

「分かりました」



 と、それぞれに了承するフィルとセリカ。

 三人は戻らずの森に足を踏み入れる。

 森は鬱蒼としており、薄暗かった。

 鳥の声ひとつ聞こえない。


 古代エルフの住む森は呪いが掛けられているらしいが、この森はまさしく呪いの森に相応しい威容を誇っていた。



 呪いの森を進む。

 鳥や動物が極端に少ないのは外周部だけのようだ。それに鬱蒼としているのも。


 どうやら外周部に不穏な空気を漂わせ、森に人間たちが入ってこないようにしているらしい。


「エルフたちは基本的に心優しいですからね。ですが、これから先は前人未踏の地、心して掛かってください」


 シャロンがそう言うと、首にぶら下げている護符が光る。どうやらこの先はがちで呪いの効果が及ぶ範囲のようだ。一歩間違えば永遠にこの森をさまようことになる。


 呪いの範囲に入ったが、逆にそこからは自然豊かになった。

 空を見上げれば鳥が飛んでいるし、木々の梢でも鳥が羽を休めている。


 鹿などもおり、遠くからこちらを見ている。この森には猟師が入ってこないため、人間に対する警戒心は薄かった。


 これならば捕まえ放題! と思ったが、森での殺生は禁忌。食べるための狩猟もやっては駄目とのことだった。エルフと仲良くするためには相手の流儀を守らなければいけない。


 なので中途のキャンプ用に集める食材はキノコが中心。この森はエルフの森。至るところにキノコが生えていた。


 バクハダケにタノシイタケ、マイマイタケもある。

 フィルの地元でも見かけ、よく食べていたものだ。


 特に嬉しいのがタノシイタケ。これは大変美味しいキノコで、バターでソテーすると肉の味がする。狩猟があまりできない時期は好んで食べていた。


 そのことを説明するとふたりも興味を抱き、見かけるたびにタノシイタケを採取する。


 ちなみにタノシイタケの亜種にカナシイタケというものがあり、ふたつはそっくりだった。カナシイタケは毒キノコで、食べると涙が止まらなくなる。あるいは家族が悲しむことになる。そのことを説明するとふたりはびくりとした。


「でも大丈夫、あとで選別するから」


 それは助かると、彼女たちは喜ぶが、選別はいつも爺ちゃんがやっていた、と伝えると彼女たちはどんな反応を示すだろうか。気になったが、それはできなかった。

 その言葉を発するよりも先に前方からざわめきが聞こえてきたのだ。


 それは獣の気配ではなかった。鹿やイノシシではない。

 明らかに殺意を持った魔物の気配だった。

 どうやらこのエルフの聖地にも魔物はいるらしい。


 どんな魔物なのだろうか、神経を集中し、探りを入れてるとそれが二足歩行だと分かる。


 茂みから現れたのは醜怪な顔をした小人だった。

 ゴブリンである。

 その数は30はいるだろうか。

 それを見てシャロンは叫ぶ。


「まさかこのエルフの聖地にゴブリンが!?」


「ゴブリンは世界各地に分布しますが」


 そう答えたのはセリカだった。


「たしかにそうですが、ここは別です。エルフとゴブリンは天敵。普段、殺生をしないエルフたちもゴブリンだけは別。弓を取って戦います」


「この森のゴブリンは狩り尽くされているということですね」


「はいです」


「なぜ、そのような地にゴブリンがいるかは分かりませんが、彼らはやる気満々のようです。我らを狩る気かと」


「……ゴブリンが女をさらって孕ます、という噂は本当でしょうか」


「それは俗説ですが、ほとんどの生物で雌のほうが肉が軟らかくて旨い、というのは真実のようです」


 見ればゴブリンたちはよだれを垂らしながら武器を構えていた。


「あの切れ味の悪い刃物でさばかれるのはぞっとしません。応戦しましょう」


「しかし、こちらはたったの三人ですよ」


「ひとり頭10匹ですね。余裕です」


「わたしは非戦闘メイドなのですが」


「大丈夫ですよ。こちらには一騎当千の賢者がいます」


 それはフィルのことだろうか、セリカを見ると彼女は口元を緩めた。


 まあ、たしかにフィルにとってゴブリンなど雑魚にしか過ぎない。地元の山ではゴブリンを子分にし、山道整備などを手伝わせていた。


 地元で出会せば戦闘にさえならず、泣いて命乞いをされるのだが、ここのゴブリンはフィルの強さを知らないらしい。


(でも30体と戦うのは初めてだ)


 フィルの地元では多くても10体単位で行動するし、武器などももっとしょぼかった。それにこんなに戦闘意欲は旺盛ではない。


 ゴブリンも場所が変われば性質が変わる、ということだろうか。

 どちらにしろフィルは戦うしかないのだが。

 見ればゴブリンたちは雄叫びを上げながら斬りかかってきた。

 セリカに向かって錆びたショートソードを振り下ろす。


 フィルはその辺に落ちている木々を握ると、それに《斬撃》属性を付与し、《縮地》の魔法を使う。一瞬で消えたフィルはセリカとゴブリンの間に立つと、ゴブリンのショートソードを切り裂く。


 木の枝が鉄の塊を切り裂く。

 セリカとシャロンは驚いたようだが、こんなの朝飯前だった。

 フィルの爺ちゃんならば一撃でゴブリンの身体ごと消し去る。

 それに比べればまだまだであった。


 フィルは一体目のゴブリンを切り捨てる。攻撃の直前、斬撃属性から衝撃属性に切り替える。


 ゴブリンは魔物。人間を殺すことしか考えていないが、魔物でもあまり殺生をしないのがフィル流であった。


 甘い考えかも知れないが、その甘さが通用するうちはそれで通す。


 もしもセリカやシャロンに傷ひとつでも付けたら、その流儀を捨て去るが、今はまだ大丈夫のようだ。


 ゴブリンは一刀で倒せた。

 こうしてフィルVSゴブリン30匹の戦いは始まる。

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